ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
夜の森は、昼間の賑わいが嘘のように静まり返っていた。
風がさらりと木々を揺らし、
遠くから虫たちの小さな声が聞こえてくる。
そんな中――
凡矢里高校・林間学校最大の目玉イベントが、いよいよ幕を開けようとしていた。
そう、肝試しである。
広場に集まった生徒たちは、浴衣やジャージ姿で思い思いに談笑しながらも、どこかソワソワしていた。
男子「やっべぇ……マジで怖いらしいぞ今年……」
女子「ペアで手繋ぎって、ちょっと楽しみかも……」
先生「いいかー!ルールは例年通り、3つだけ!」
ドスン!とホワイトボードを叩きながらーー
先生「一! 必ず男女ペアで行動すること!」
先生「二! ペアはくじ引きで完全ランダムに決定すること!」
先生「三! ペア同士は、必ず手を繋いで歩くこと!」
生徒たち「うおおおおお!!!」
楽はジャージ姿で腕組みしながらワクワクがとまらない表情で頷いた。
楽(きた……! きたきたきたきた……!! なんの駆け引きもなく強制的……いや、合法的に手を繋げるボーナスイベント! ここで、もし小野寺と手を繋げたら、もう俺は、何も……何も思い残すことは……!)
楽の顔には、もはや決死の覚悟が浮かんでいた。
まずは女子からくじ引き。
列に並んだ女子たちが、ひとりずつ番号を引いていく。
小咲(ドキドキする……! 手、汗かいてる……! で、でも! 一条くんと一緒に歩けたら……っ)
そして、いよいよ、小咲の番。
そっと手を伸ばし、箱の中から一枚、くじを引き上げる。
小咲(……12番……!)
引き当てた番号を見た瞬間、心臓が一気に高鳴った。
小咲(これ、もし一条くんも同じ番号だったら……!? ……う、うわぁぁぁぁ……!! どうしよう……どうしようぅぅぅぅ!!!)
すでに顔が真っ赤だった。
周囲では、男子たちがざわめき始めていた。
男子A「小野寺、12番だってよ!!」
男子B「おい12番引けたら人生勝ち確だぞ!!」
男子C「神様ーーー!!!」
楽以外の男子からも大人気な小咲。
楽(よし……! 小野寺の番号は12番……! まだ男子で12番引いたやつはいない……!)
いよいよ楽の番。
楽は拳を握り、まるで神頼みのように祈りながら箱の前に立つ。
箱の前にいる女子(顔、こわっ……)
楽(頼む……頼む……!!! 運命の女神よ……俺に微笑んでくれぇぇぇぇぇ!!!)
箱に手を突っ込み――ぐっとくじを引き上げ、確認する。
楽「……12番……?!」
一瞬、時が止まった。
そしてーー
楽「うぉぉぉぉぉぉ!!!12番きたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
雄叫び。
男子A「なにぃぃぃ!?!?」
男子B「マジかよおおお!!」
男子C「おい神ィィィィ!!!!」
小咲「~~~~っっっ!!!////」
小咲(うそ……一条くんも12番!? 本当に……!? 何分の一の確率?! 嬉し過ぎて過呼吸になるんだけど!? やばい、何かに抱きつきたい! でも一条くんに抱きつくわけにはいかないし……あぁぁぁ……えいっ!!)
興奮しすぎた小咲は、なぜか近くの木にぎゅうっと抱きつく。
ガシィィ!!
小咲「うぅ〜……!!!//////」
楽「な、なにしてんだ……木に抱きついてww」
小咲「あ、あっ……これは、ち、違うの……! えっと、これはその……練習だよ! ほ、ほら! もし、このあと急に台風とかきて、風に飛ばされたら危ないでしょ? だからそれに備えて……ね? 木に掴まる練習してたの!」
楽「た、台風?ww 今この辺りにきてたっけ?」
小咲「き、きてないけど……! ほら、例え話だよ!」
楽「…………?www」
小咲「とにかく、よ、よろしくね……っ! 一条くん……」
小さな声で、顔を真っ赤にしながら頭を下げる小咲。
楽は、笑いを堪えながら、胸がいっぱいになる。
楽「おう! こちらこそ、よろしくな、小野寺!」
小咲「あの……ビックリして抱きついたら、ごめんね……?」
楽「え? あ、ああ、いいんだよ、抱きついて(お化け役超頑張れww)」
小咲「……そっか///」
周囲からは悲鳴と拍手と嫉妬の嵐。
だが、ふたりだけは小さく笑い合っていた。
一方、その頃。
広場の裏側で――
先生「いやぁ、すまん!お化け役の子、急に腹壊しちゃってな。桐崎、代役頼めるか?」
千棘「えっ!? わ、私が……!?」
先生「頼む頼む! これ、懐中電灯な! いいか? ここに隠れていて、誰か来たら、“わぁー!”って脅かすだけ! 簡単だろ?」
千棘「わ、わかりました。やるのはいいですけど……一人ですか?」
先生「もちろん。サプライズ演出はひとりじゃないとバレるからな! 頼むぞー!」
千棘「ちょ、ちょっと……!! 待って……!! え、マジ……?」
懐中電灯を受け取る千棘。
だが、いくらスイッチを押しても――
カチカチカチカチ……
千棘「……つ、つかない……んだけど……!?」
見上げれば、真っ暗な森。
吹き抜ける風に、草木がざわ……ざわ……と揺れる。
千棘(やばいやばいやばいやばい……!! って、いやいや、私桐崎千棘だし!? マフィアの娘よ? こんなことでビビるわけないじゃん!!!)
無理やり強がって歩き出す。
千棘「……人間なんてただの肉の塊だし……? お化けなんてほぼ全て人間が作り出した妄想だし? ハハハ……」
だがーー
森の奥から、「ガサ……ッ」という音。
千棘「……ッ!!!」
反射的に身をすくめる。
千棘(えっ……今、絶対なんかいた。風じゃない……風じゃなかった!!た、タヌキかな?)
懐中電灯を振り回すが、もちろん、光は出ない。
千棘「……く、くぅ……ちょっとだけ、怖いかも……」
彼女は、静かに震えながら、それでも必死に気持ちを奮い立たせ、茂みの中に身を潜めた。