ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
「12番〜! 12番のペア、出発してくださ〜い!」
先生のマイク越しの声とともに、
一斉にクラスメイトたちの冷やかしと歓声が飛ぶ。
「出た〜!12番は運命のカップルだー!」
「そのまま告白しちゃえ〜!」
「でも桐崎さんは……?」
「手!ちゃんと繋げよな〜!!」
楽「う、うるせぇなまったく……」
小咲「〜〜〜っ……(恥ずかしいよぉ……)」
クラスメイトたちの視線を背に、2人は並んで歩き出す。
少しだけ距離がある。手が、触れそうで触れない。
そのとき――
楽が、スッと右手を差し出した。
楽「……じゃあ、行こっか。小野寺」
小咲「あっ、うん……」
一瞬、目を丸くして、そっとその手に触れる。
そして、しっかりと指を絡めるように、握った。
小咲(……繋いじゃった/// この手……優しくて、あったかくて、なんだか信じられない。しかも、わたしの場合はただ繋いでるだけじゃない……。ちゃんと……彼女として、恋人として、隣を歩けてるんだ……///)
楽(うわぁぁぁああ!!!小野寺の手、柔らかすぎるだろこれ……!!! しかも、少しだけ震えてて……恥ずかしいのかな。かわいい……! いや待て、これ手汗出るな……俺、手汗多い方だっけ……!?やべえ!!)
小咲「……一条くん」
楽「ん?」
小咲「……わたし、泣きそうだよ」
楽「えっ!?ど、どうした!?大丈夫か!? お化け苦手だった!? ハハハ……そんなに怖くないって!」
小咲「……違うの。そうじゃなくてね……」
小咲は、楽の手を握る指先にぎゅっと力を込める。
小咲「こんな夢みたいな時間……嬉しすぎて……幸せすぎて……泣きそうなの……」
楽「……そっか」
短く答えて、楽は小咲の手を優しく包み直す。
楽「……俺も、まったく同じ気持ちだよ、小野寺。マジで今、世界で一番幸せかもしれねぇ」
2人の間に、風が吹く。
高原の夜、草木がそっと揺れている。
遠くで誰かの叫び声が聞こえるが、それすらも心地いいBGMに感じた。
……しかし。
その穏やかな空気に、水を差すようにーー
「……まずいことになったなぁ」
楽の耳に届いた、大人の声。
楽「……ん?」
視線を向けると、先生が何やら気まずそうにこちらを見ている。
楽(……うわ。明らかに、俺を呼ぼうとしてる。頼む、今だけはそっとしておいてくれ……)
先生「おーい、一条。すまんが、ちょっとだけ来てくれ」
楽「……なんだ?」
一歩足を踏み出し、小咲に振り向く。
小咲「どうしたんだろうね? トラブルかな?」
小咲は少し驚いたように楽を見つめるが、手はそのまま。
ふと、楽はその手に視線を落とす。
あたたかい。
たしかに、そこにある“つながり”。
2人は手を繋いだまま先生の元へ向かった。
先生「実はな……桐崎がお化け役なんだけど」
楽「え? あいつお化け役なんですか?ww」
先生「ああ、急遽代役でな。で、さっきあいつに渡した懐中電灯……電池入れ忘れちゃったんだわ」
楽「……え? じゃあ、この先の森の中で……?」
先生「そうだな。今、森の中で一人で真っ暗闇の中にいるってことになるな」
楽「……えぇ?!」
先生「いやまあ、周囲には人もいるし、危険ってほどじゃないんだけどさ。けどまあ、ちょっと悪いことしちまったな〜って思ってな」
楽の手が、わずかに震える。
すぐにでも「じゃあ俺が届けに行きます」と言えば済む話だ。
だが、言えなかった。
目の前にいるのは、やっとの思いで手を繋げた、小野寺小咲。
震える手で、ぎゅっと彼の手を握り返している。
さっきまで幸せそうにしていたその横顔だったが、俯いてる今は表情が読み取れなかった。
楽(なんで……なんでこうなる……? せっかく、小野寺とやっとここまで来たのに……誰にも邪魔されず、やっと……)
だがーー
どうしても千棘のことが頭をよぎる。
懐中電灯のない森の中、たった一人。
いくらあいつが強気でも、きっと今は……
楽(くそっ、くそっ、くそっ!!)
そして、楽はーー
小咲の手を、そっと……離した。
小咲「……。」
小咲の瞳が、揺れる。何も言わない。けど、すべてを察していた)
楽「……ごめん、小野寺。すぐ戻るから待っててくれ」
小咲「……うん。待ってる」
小咲はただ小さく頷き、うっすらと微笑んだ。
でも、どこか寂しげで、切なげで、“またね”の代わりみたいな儚い笑顔だった。
楽は、その笑顔に胸をえぐられながら、走り出す。
森の奥へ。
暗闇へ。
千棘のもとへ――
その場に残された小咲は、手のひらをじっと見つめていた。
小咲(わたし……やっぱり、強くなんか、ないんだな……)
少し前まで、そこにいたはずの“あたたかさ”は、夜風にさらわれて、跡形もなく消えていった。