ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
夜の林間学校。
肝試しの喧騒はすでに過ぎ去り、山の中腹にあるスタート地点には、もう誰の姿もない。
だが、その場所だけは、なぜか空気が止まったように静まり返っていた。
暗闇のなか、街灯と呼ぶには余りにも儚い小さな灯りに照らされるベンチ。
そこに一人、ぽつんと座る小咲の姿があった。
その小さな肩は、時折かすかに震えていた。
しかし、涙は流さなかった。
ただ、手の中で鍵を握りしめ、空を仰ぎながら、ただひたすらに“待ち続けていた。
小咲「……」
風が吹き、木々が揺れるたびに、心臓が跳ねる。
それでも彼は来ない。
来ないけれど、彼女はそこを離れなかった。
小咲「……わたしが信じなくて、誰が信じるの」
その声は、誰に届くわけでもなく夜に消えていった。
そこへ、慌てた足音が駆けてくる。
楽だった。
額には汗、息も上がっている。
それでも、その目だけは真っ直ぐに彼女を見据えていた。
楽「……小野寺!」
彼女は、少し目を見開き、そしてほっとしたように笑った。
小咲「一条くん……」
楽「ごめん、小野寺! 肝試しが終わったって聞かされてたから、てっきり部屋に戻ってると思って……!」
小咲「……言ったから」
楽「え?」
小咲「すぐ戻るから待ってて、って。一条くんがそう言ったから……だから、待ってたの」
楽は言葉を詰まらせた。
楽「……忘れてたわけじゃないんだ。もう肝試しは終わったって聞かされて、小野寺も部屋に戻ってるって、勝手に思い込んで……。それでも、小野寺のことはずっと考えていたんだ」
小咲「ううん、いいの。しょうがないよね。桐崎さんのこと、すごく気にしてたみたいだし……。それにね、わたし……」
言葉が震える。
小咲「一条くんのそういう優しいところ、大好きなんだ……」
楽「う……そう言ってくれると、すげー救われるけど……」
小咲は力なく微笑み、続けた。
小咲「……わたしね、くじ引きで12番同士になった時、こんな奇跡的なことあるんだ! って、夢みたいだった。こんな言い方したらヒカれると思うけど……すごく運命を感じたんだよね。嬉しくて、嬉しくて。もう夢みたいだった」
小咲「でもね、あの時、一条くんが私の手を離して桐崎さんの元に走っていった時……あの瞬間も、すごく強く運命を感じちゃったの。……でも、それは別の意味での運命」
楽「……別の意味での運命? 待って待って、それってつまりーー」
小咲「わたしと一条くんは、きっと、いつもそうなんだ。何か見えない壁に阻まれて、惜しいところまでは行くけどその先には絶対に進めない運命……そんな残酷なこと信じたくないけど、なんだか、そうとしか思えなくって、わたし……つらくて……ごめんね……泣く……」
楽は握っていた拳をほどき、小咲の頭を自分の胸に引き寄せた。
楽「……そっか。でもな、そんな運命は絶対にない。ありえない。けど、小野寺がそういう不安を感じてしまったことは、完全に俺に責任がある。ごめん……。謝ることしかできないけど、ちゃんと誠意は見せるから」
小咲「ううん……一条くんに責任なんてないよ。ただ困った人を助けに行っただけ……何にも悪くない……。ただ、わたしが勝手にネガティブに運命だなんだ〜って騒いでるだけで……。うぅ……めんどくさいことばかり言ってて、自分がイヤになる……」
小咲は泣きながらも、どうにか言葉を紡いだ。
小咲「肝試し、できなかったけど……少しだけ、ここで……泣かせてくれる……?」
楽「……ああ。俺はずっとここにいる。小野寺が泣き止むまで、何時間でも」
小咲は楽の胸に身を預けた。
温かい体温。
震える心。
夜の冷たい空気に包まれながら、2人の間だけ時間が止まったようだった。