ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
遊園地デート当日
朝の駅前。
春の陽気が柔らかく街を包み込む中、ベンチにちょこんと腰かける女の子の姿がひとつ。
小咲
「うぅ……やっぱり早すぎたかも……」
小咲(緊張しすぎて、5時起きなんて……。まだ約束の時間まで一時間もある……。早く行っても一条くんに早く会えるわけじゃないのに……わたし、何やってんだろう……)
周囲の人波が次第に増えていく中、小咲はそわそわとカバンの中のミラーで髪型を確認したり、指先をいじったりと落ち着かない。
小咲(……来るわけないよね、さすがにこんなに早くなんてーー)
楽「うぉ、小野寺!?(うぉぉぉ、私服小野寺!! さいっこうに可愛いぜ……! 神よ……!)」
その声に、ビクッと肩を跳ねさせる。
小咲「えっ……いぃ……一条くん!?! おはよう!」
目の前に立っていたのは、ちょっと息の上がった一条楽。
スッとした髪に、ラフだけど清潔感のある私服。
普段の制服姿とは違う印象に、思わず見とれてしまう。
楽「お、おはよう! てか、早いなww 絶対俺の方が先だと思ってたのにw もしかして……小野寺、あんまり眠れなかった系女子??ww」
小咲「あははぁ……うん、そうなんだ。なんか、眠りが浅くって……。7時過ぎに起きるつもりだったのに、ハッと起きたら2時半とかでww」
楽「2時半とか、もはや早朝じゃなくて夜じゃんw」
小咲「ほんとそうだよねww それから30分寝ては起きてを繰り返してて、5時になって……外も明るいし、もういいや〜!起きちゃえ〜!ってww」
楽「今日の夜めちゃくちゃ眠くなるやつだな、それww」
小咲「ふふ、そうかも/// そういう一条くんは、あんまり眠れなかった系男子?ww」
楽「そうなんだよwww昨日寝る前に、朝起きたら小野寺とデートできる! 早く朝来い! 早く眠れ俺! って思ってたら、興奮して全く眠れなくてww結局一睡もしてないww」
小咲「こ、興奮ってww てか、一睡も?! さすがに心配になるよ…」
楽「大丈夫! 小野寺に会えてめちゃくちゃ元気出だし目が覚めたから! 小野寺に会った瞬間、HPとMP全回復した!!」
小咲「ふふっ、なら、よかったぁ……(HPとMP?ww)」
楽「んじゃま……行こうぜ」
小咲「……うん///」
ふたり、照れくさそうに目を合わせて、ふっと笑い合う。
まだ本格的なデートは始まってすらいないのに、既にどこか満たされた気持ち。
ーーーーー
遊園地内にて
正門をくぐると、目の前に広がるのは大勢の人々と活気に満ちた空気。
子供の笑い声、ポップコーンの香り、絶叫マシンの轟音。
小咲「わぁ……まだ朝早いのに、すごい人。迷子になっちゃいそう」
楽「大丈夫。あ、手……繋いどく?」
差し出された楽の手。
小咲は驚きながらも、そっと手を重ねる。
小咲
「……つなぐ///」
あたたかい。優しい。
ぎこちなくて、だけど、それが愛しくて。
ふたりの間に流れる空気が、少しずつ変わっていく。
ーーーーー
アトラクションをいくつか楽しんだ後、楽はあることを切り出した。
楽「小野寺…この前の肝試しの時は、ごめんな」
小咲「え? ……あ、あれは、もう大丈夫だよ。私も、いっぱいいっぱいになってたし……ごめんね、泣いちゃって」
楽「いや、それだけ俺に期待してくれてたってことだし……でもさ、そのぶん今日は埋め合わせしたくて」
小咲「……え? 埋め合わせ?」
楽「これ」
ポケットから取り出された、薄い1枚のチケット。
そこに書かれていたのはーー《戦慄病棟・特別ペアチケット》。
楽「世界最長900mのホラーアトラクション。所要時間50分。小野寺と肝試しの代わりに行くなら、これしかねえって思ってさ!」
小咲「ふふっ……ありがとう。すごく嬉しい。でも900mって長すぎない!?ww」
楽「世界最長を謳ってるからなw まあ、行ってみようぜ!」
ーーーーー
戦慄病棟 ――入場
暗闇。冷たい空気。
薄暗い廊下を進むたび、あちこちから響く奇怪な音。
小咲「……わたし、ちょっと本気で怖いかも……」
楽「だ、大丈夫だって! 俺がいるし!」
小咲の手をぎゅっと握る。
その力強さに、小咲の不安が少しずつほぐれていく。
が……
その後、本気で叫びまくるゾンビ看護師、突然飛び出す患者役、廊下の影に佇む白い影たち……
楽「ひぃいいいぃぃぃ!?!?! やばいやばいマジ無理!!!」
小咲「ぎゃあぁぁぁぁ!!?!? わ、わたしも無理ですぅぅ!!」
ーー50分後。
フラッフラの状態で出口から這い出るふたり。
楽「……ごめん。なめてた。完全に想定外だった……」
小咲「ぅう……走りすぎて、足がガクガクする……世界最長は伊達じゃなかったね……」
楽「俺さ……お化け屋敷って一直線に進むものかと思ってたわww」
小咲「わたしもだよ。なんか迷宮みたいになってて、どこ行けばいいのぉぉ、ってなってたよね、わたしたちww」
ふたりしてベンチに倒れ込む。
楽「でも……間違いなく林間学校の肝試しよりも肝試しだったわw」
小咲「うん……本当に……ww 肝というよりは、人間としての限界を試されていた気がするww」
程よい疲労感と安堵が2人を包み、目が合うだけで自然と笑顔になる。
このデートが、ふたりにとってかけがえのない一日になる。
そんな予感に包まれながら。