ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
観覧車・乗車直前 夕方の遊園地
日が少しずつ傾き始め、空がオレンジに染まっていく。
にぎやかだった園内も、どこか穏やかで落ち着いた雰囲気へと変わっていた。
観覧車のゴンドラがきいきいと揺れながら、次第に空へと昇っていく。
小咲「……夕焼け、すごく綺麗だね」
楽「ああ。こんな時間に観覧車に乗れるなんて、なんか特別感あるよな」
2人きりのゴンドラ。
ほんのりとした緊張感と高揚感が、静かな空気に溶けていく。
楽「なぁ、小野寺……。なんか、今でも夢みたいなんだ」
小咲「夢?」
楽「ああ。まさかさ、小野寺が約束の女の子だったなんて、正直信じられねえっていうか……。こんな都合よく幸せな展開が起こるもんなのかなって」
小咲は少しだけ目を細めて笑う。
小咲「ふふ……わたしもね、ずっと思ってたよ。もしもあの時の男の子が、一条くんだったらいいのにって……中学の頃から、ずっと」
楽「……そっか。俺たち、すれ違ってたんだな。ずっと想ってたのに、ずっと言えなくて。付き合えたのは高校生になってから……。そう考えると、ちょっともったいなかったかもな」
小咲「そうだね……。もう少し早く、ちゃんと想いを伝え合えてたら……もっとたくさんの思い出、作れてたのかなって……」
言いながら、小咲の笑みが少しだけ曇る。
その空気に気づいて、楽が問いかける。
楽「……小野寺? どうした、急に考え込んで」
小咲「……ねぇ、一条くん。これはね、例えばの話なんだけど、さ……」
小咲の声が、すこし震えていた。
小咲「もしわたしたちが、好き同士なのに付き合ってない状態のまま、高校三年生まで行ったとしたら……どうなってたのかなって、ふと考えちゃって」
楽「え? ……うーん。どうって……そりゃ、俺が痺れを切らして小野寺に告白することになっていたとは思うけど………絶対、我慢できなくなると思うし」
小咲は優しく微笑んだあと、静かに視線を外した。
小咲「……ありがとう。でも、私の中で予感してる結末は、そうじゃないんだ」
楽「……予感? 結末?」
小咲「うん。あのね、きっと信じてもらえないと思うんだけど……私、あの“鍵”を手にしてると、たまに不思議な映像が頭の中に流れてくるの」
楽「全然信じるぜ? 映像ってどんな?」
小咲は、少しだけ目を伏せてから、しっかりと楽を見つめる。
小咲「多分……高校2年生か3年生の頃。私は一条くんに告白してるの。でもね、その時の一条くん……何も言わずに、ただ泣いてたの」
楽「……な、泣く!? って、ことは……俺が嬉しすぎてってこと?」
小咲「ううん、そうじゃない。本当に、泣いたまま……返事はなかった。つまり、私は……振られちゃうの」
観覧車の高さが、じわじわと空に近づく。
楽の心にも、ぐっと重く沈むような風が吹いた気がした。
楽「へ? は? え? な、なに言ってんだよ……! いやいや、それはおかしいって! 俺が小野寺振るなんて、意味がわかんねぇ! 絶対あり得ないぜ、それ!」
小咲「……ありがとう。でも、わたしね、ずっと考えてた。わたしが告白して、一条くんが返事をしないってことは……その時、もう他に好きな人がいたってことなんじゃないかって」
楽「他に……?」
ゴンドラは頂上に近づいていた。
オレンジ色の夕陽が、2人の顔にやわらかく差し込む。
その光の中で、小咲の言葉だけが静かに空気を震わせていた。
小咲は胸に手を当てて一度息を吸うと、決心したように、ゆっくりと続けた。
小咲「……千棘ちゃん、なのかなって。わたしじゃなくて、本当に好きになってしまう相手が、もし一条くんの中にいたとしたら」
小咲の声は静かだった。
けれど、その静けさが、どこか痛々しい。
目元は笑っているようで、でも、泣き出しそうにも見えた。
楽「…………」
一瞬、言葉を失った。
心臓が強く脈打つ。
千棘の笑顔、小咲の涙、そして“約束の女の子”、あらゆる要素が楽の脳内で交差する。
楽「……小野寺。その映像の話、信じないわけじゃない。だけど、もし、そんな世界線が仮にあるとしても――」
言葉を選ぶように、ゆっくりと息を吐く。
楽「今、小野寺の目の前にいる俺、一条楽は……絶対に“今の気持ち”を嘘にはしねぇよ。小野寺が約束の女の子だったってわかった時から……いや、違うな。もっとずっと前から……俺は、小野寺のことが好きだったんだ。だから、今ここで千棘を選ぶかもしれない未来なんて、正直俺には想像できない」
小咲「……でも、まだ3年生まで長い月日がある。今、一条くんがわたしのことをすごく大事に考えてくれているのは、痛いほど伝わるけど…でも、未来は無限大だから……わたし、不安で」
楽「……。鍵が見せてきた映像では、俺と小野寺は今みたいに付き合ってたのか?」
小咲「……え? うう〜ん……分からないけど……わたしが一条くんに告白するということは、状況的に、付き合ってない……ってことになる、かなぁ」
楽「だろ? それって、逆に言えばさ。もう今、この時点で、既にその未来って起きえないじゃん」
小咲「……。そ、そうだね……うん、たしかに……」
楽「それに……仮にこの後色々あって、もしその未来と全く同じとは言わないまでも近い道が目の前にあったとしても、俺は確実に違う道を選ぶ。だから、小野寺を振るとか、ありえねぇよ。俺は、小野寺が好きだ。めちゃくちゃ好きなの。好き過ぎて毎日、小野寺の写真見てるぜ? だから俺は、これからも大好きな小野寺とずっと一緒にいたいんだよ」
小咲「う、うん……ありがとう///(一条くん……好き好き言い過ぎだよぉぉ///)」
言い終えた時、ゴンドラはちょうど頂上に到達していた。
2人の乗った箱は、一瞬、空の真ん中で止まったかのように静止する。
小咲「……ありがとう。そんなふうに、ちゃんと言ってくれて……すごく、嬉しい///」
小咲の目に、うっすらと涙がにじむ。
でもそれは、不安の涙ではなかった。
今はもう、その言葉のすべてが――彼女の心にしっかりと届いていた。
楽「はは、彼女の不安を取り除くのも、彼氏の役目だからな!」
小咲「一条くん……それずるいから〜!!///」
楽「……はは、カッコつけすぎ?w」
小咲「ウン……///」
楽「ごめんごめんw そうだな……高校の間には、結婚とかはできねーけどさ。その代わり、これから語り尽くせないくらいの思い出、たくさん作ろうぜ、小野寺」
小咲「うん……っ!」
夕陽の光が観覧車の窓から差し込み、2人の影をひとつに重ねていた。
未来は確かに変わっているーーそう思えた。