ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
昼休みの教室――
いきなりの楽の許嫁の登場に、朝からクラス中の空気がざわつく。
そんな中、万里花は背筋を伸ばして窓際の席からすっと立ち上がる。
レースのハンカチを丁寧にたたみ、扇子をパチンと閉じて、まるで舞台女優のように笑った。
万里花「ふふふ。さて、楽様♪ 明日のデートプランを簡単にご説明しますわね?」
楽「……いや、ちょっと待て! まず俺、デートするなんて一言も言ってないし! そもそも、デートってのは好き同士がするもんだろ!?」
万里花「あらあら。でも、わたくしは楽様の許嫁でしてよ? しかも、わたくしは楽様のことが好きですし、楽様もわたくしのことが好きですし。何一つ、障壁などございませんことよ?」
楽「なんで俺も橘のことを好きってことになってんの?!」
万里花「まぁまぁ、照れてしまって……♪ 楽様は本当に可愛らしい♪ “好き”という言葉が喉に詰まって出せないのでしょう? でも、大丈夫。代わりにわたくしが何度でも代弁いたしますわ」
楽(くそっ……もうだめだ、言うしかねえ!)
楽「なぁ、橘さ。俺、今付き合ってる人がいるんだ。だから、橘とはデートできない。分かってくれるか?」
その言葉に、万里花のまぶたがすっと細くなり――
まるで勝ちを確信したように、にこりと笑った。
万里花「――ああ、あそこにいらっしゃるゴリラのことですか?」
万里花は横目で千棘を見やる。
千棘「……は?」
空気が凍った。
千棘は椅子からゆっくりと立ち上がり、片眉をぴくりと動かす。
万里花「人間というよりはどう見ても獣に近い部類の生物ですわ。乱暴者で言葉も荒くて、おまけに育ちも心配ですし? お可哀想に、あのような女性と恋人関係だなんて。ああ、楽様……一体どんな弱みを握られているのでしょうか……」
千棘「なるほどねぇ……なるほどなるほど。……アンタ、私のことゴリラって言ったよね? こんな美人を捕まえて、ゴリラ? アンタ、自分の顔見たことある?」
万里花「ええ、毎日見ておりますわ。わたくしの方があなたより遥かに品もあって美しい女性だと自負しておりますが♪しかしまぁ、ゴリラはいささか言い過ぎましたか。分類で言えば……“類人猿”でしょうか? 動物学的に正確な言葉を選ぶならば♪」
千棘「はぁ? ぶっ飛ばすわよ?」
万里花「まぁ、野蛮……。人類はせっかく言語という文化を手に入れましたのに、言い返せないとすぐに暴力に訴える……まさに人間というよりは動物に近い性質をお持ちのようで?」
千棘「……殴る。そんで、その髪の毛むしってニワトリ小屋に撒いてやる……」
万里花「まぁまぁ、発想が凶暴ですし、言葉遣いが荒いですわね? ねえ、楽様。やっぱりお分かりでしょう? わたくしの方が、ずっと、ずーっと貴方を幸せにできますのよ?」
千棘、かつかつと万里花との距離を積める。
楽「わーーーー待て待て!!」
楽が間に入り、どうにか千棘の進行を止める。
だが、楽を挟んで2人の言い合いはまだ続く。
万里花「ふふ、とんだ邪魔が入りましたね、楽様。また改めて、2人きりの時にでも♪」
千棘「アンタ、私にケンカ売っておいてまともな学園生活送れると思わないでね?」
万里花「……それは、脅しですか? 言葉だけではなく発想もお下品ですわね。でも、そういう品のない方に限って、男の気を引くのは上手だったりしますものね。どんな手を使ったのか知りませんけれど」
千棘「……ふーん? それは開戦の合図ってことでいいかしら?」
楽「おいおい!お前ら、やめろって!ここ教室だぞ!?殺伐としすぎだろ!!」
千棘・万里花、同時に背を向ける。
楽(おいおいおい……こんなのが毎日続くんじゃないだろうな?!)
教室の隅では、小咲が顔を伏せたまま、自分の机の下でそっと拳を握っていた。
小咲(こ、怖いよぉ…………)
小咲(でも……許嫁って……それってつまり、一条くんは大人になったら自動的に橘さんと結婚するってこと……?)
小咲(そんなこと……ない、よね?)
突如乱入した3人目の女の存在は、小咲に大きな衝撃を与えていた。