ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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万里花さん、原作でもこの時点で実は全て把握してましたよね。
鍵が合わないこと知ってるから、忘れたフリしてるだけで。


ホウカゴ

放課後――

 

淡い夕暮れが教室の窓をオレンジ色に染めていた。

誰もいない静かな教室。

委員会を終えた小咲は、ひとりカーテンの影で鞄に教科書をしまいながら、ほっと息をつく。

 

小咲「はぁ……今日も、色々あったなぁ。……橘さん、やっぱりすごい人だった。あんなに綺麗で、言葉遣いも上品で、それでいてあの行動力。わたしなんかじゃ、あんな風には、とても……。うぅ……圧倒されちゃうな……」

 

その時だった。

すぐ後ろから、足音ひとつ立てずに近づいた誰かが声をかける。

 

万里花「小野寺小咲さん――で、間違いありませんわね?」

 

小咲「えっ……!? あっ、はい!そ、そうです! ど、どうもはじめまして、橘さん……(え、もしかして今の独り言……聞かれてた?)」

 

いつのまにか教室にいた万里花が、品のある笑みを浮かべながらこちらへ一歩、また一歩と近づく。

窓から差す夕陽が、彼女のシルエットを浮かび上がらせていた。

 

万里花「お噂はかねがね。あなた、所作に無駄がなくて、育ちも悪くなさそうですわね。あのゴリラは大違い。……そんなあなたに――わたくしから、言っておくことがございます」

 

小咲「……言っておくこと?」

 

少しだけ肩を強張らせながら、小咲は問い返す。

胸の奥が妙にざわついていた。

 

万里花「あなた――楽様と、お付き合いなさっておりますわね?」

 

小咲「……っぶふぅっ!? い、い、いやいやいや!! え? ちがっ……違うよ!? だってほら! 一条くんは、千棘ちゃんと付き合っているんだよ……!」

 

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小咲(え? なんで?! なんで……勘付かれてるの?! わたし、なんかやらかした?!)

 

万里花「……ふぅん?」

 

小咲「そ、そうだよ! だって、見たでしょ? 学校でも常に一緒で、ダーリンとかハニーとか呼び合っててさ……!(言ってて悲しくなってくる〜!!)」

 

笑ってごまかすように言葉を早口に畳みかける小咲だったが、その勢いを冷ややかに制するように、万里花は静かにカバンから写真を取り出し、指に挟んだ。

 

万里花「……あまり、わたくしを甘く見ないでくださる?」

 

そう言って、万里花は数枚の写真を机の上に並べる。

そこには、遊園地で笑顔を見せる小咲と楽。

手を繋ぎ、観覧車の前で寄り添うふたりの姿。

決定的すぎる光景が、無言のまま並べられていく。

 

小咲「……っ!? こ、これ……! え?! なんで、こんな……!? これ、橘さんが転校してくるより前の話だよ?!」

 

万里花「ふふ。ちょっとばかり資金を動かせば、こうした情報収集など朝飯前ですわ。安心なさって、誰かに言いふらす趣味はございませんから。ただ――わたくしには“隠す必要はない”ということを、わかっていただきたかっただけですの」

 

小咲は写真に写る笑顔の自分を、ただただ見つめることしかできなかった。

ほんの数日前の幸せな記憶が、今は何か別の形で胸を締めつける。

 

小咲「……でも、本当のことだよ。一条くんは今、桐崎さんと“付き合っている”ことになってる。それは……事実なんだよ」

 

万里花「ええ、もちろんその『設定』も承知しております。ーーですが、わたくしは“あの暴力的な偽物”に、嫉妬するつもりは一切ございませんの。本当に意識するべき相手は、楽様と心で繋がっている小野寺さん……あなたなのですから」

 

万里花の瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。

彼女は、千棘を“演技の仮初め”だと切り捨て、小咲こそが本物の恋敵だと明言したのだ。

 

小咲「……橘さんは、本当に……一条くんのこと、好きなんだね」

 

万里花「はい。それはもう、人生を賭けてでも手に入れたい方ですもの」

 

そう言った彼女は、ためらいもなく次の言葉を告げる。

 

万里花「ちなみに……わたくし、“10年前の真相”も把握しておりますわ。もちろん、あなたが楽様にとって“約束の女の子”だったことも。克明に覚えておりますの」

 

小咲「え……うそ? なんで……」

 

万里花「ふふふ、あなたとわたくし、それに楽様とあのゴリラ……全員、天駒高原で子供の頃に会ったことがあるのですよ」

 

小咲「……ええ?! そ、そうなんだ……どおりで、千棘ちゃんや橘さんに“言葉で言い表せない何か”を感じるわけね……」

 

万里花「そして、小野寺さん……あなたが楽様とお付き合いしているということは……錠を開けたのですね? あなたの持っているその鍵で」

 

小咲「……。隠してもしょうがないから、言うね。うん、開けたよ。何か別の鍵の先っぽ? が詰まってて、最初は開かなかったけどね」

 

万里花「……やはり、開けたのですね、合点がいきました。そして、ふむふむ……鍵の先っぽ……ということは、奏倉羽さんの鍵ですかね……」

 

顎に手を当てながら教室の中をウロウロし始める万里花。

 

小咲「……ん?」

 

万里花「ああ、こちらの話です♪ ちなみにーーわたくしも10年前にあの場で手に入れた鍵を持っていますのよ♪」

 

そう言って、万里花は高級そうなチェーンな吊るされた鍵を小咲の前に見せつけた。

 

小咲「……ええ?! 鍵って一個じゃないの?! 複数あるの?!」

 

万里花「ふふ。安心なさって、錠が開く鍵は小野寺さんのものだけです。わたくしの鍵ではあの錠が開くことはありません。ちなみに、わたくしと小野寺さん以外にも、あと2人鍵の所持者がいらっしゃいますのよ?」

 

小咲「……う、うそぉ〜?! そうなんだ……全然知らなかった」

 

思わず声が上ずる。

楽と小咲だけで心の奥に秘めていた真相、いや、それ以上の情報を万里花は把握していたのだ。

 

万里花「ふふ、素敵ですよね。約束の女の子、ザクシャ・イン・ラブ……実に純粋ですわ」

 

小咲「うん、ほんとだね」

 

万里花「ーーですが」

 

万里花の鋭く挑戦的な視線が小咲に刺さる。

 

万里花「しょせんは子供の約束です。子供がプロ野球選手になる夢を描いたとしても、実際に叶えられるのはほんの一握り。ほとんどの人間は、いつか夢を妥協し、現実に折れてゆくものですわ♪」

 

小咲「……」

 

万里花「小野寺さん。わたくしは――あなたにだけは、絶対に負けるつもりはありませんわ。それではそろそろ失礼しますね。ごめん遊ばせ♪」

 

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彼女の声は静かで、丁寧で、どこまでも穏やかだった。

しかし、そこに宿る決意だけは、剣のように鋭く冷たく、教室の空気を震わせていた。

 

小咲(私も……逃げない。たとえ相手がどれだけ強くても。だって……私は本当に、一条くんが好きだから。その気持ちだけは、絶対に誰にも負けない自信があるもん)

 

放課後の教室に、夕陽が最後の光を落としていた。

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