ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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親のエゴに振り回されます。


ニセモノ

一条家・居間

 

襖を挟んで、向かい合うふたりの高校生。

 

一条楽と桐崎千棘。

お互いに露骨な怒気を隠しきれないまま、親たちの前でぎこちない笑みを浮かべていた。

 

楽「はっ……こんな奴と付き合うとか、意味わかんねーし」

 

千棘「こっちのセリフよ! なんで私がこんな女々しい鼻血野郎と!」

 

楽の父「……コホン。立場を考えろ、お前たち」

 

千棘の父「はいはい、カメラも回すぞ〜。笑って笑って〜」

 

楽と千棘、作り笑顔。

 

ふたり「……(マジで無理……)」

 

目はまったく笑っていない。

引きつった口角。

眉間に寄ったしわ。

空気は凍りつき、にもかかわらずシャッターの音だけがカシャカシャと響く。

 

楽(……最悪だ)

 

千棘(……一生の恥だわ)

 

重い空気の中、形ばかりの「恋人関係」が、こうしてスタートを切った。

 

ーーーーー

一条家・庭先

 

楽と千棘のギクシャクとは裏腹に、大人たちは大盛り上がり、盃を交わし始めた。

そんな空気に耐えきれず、楽と千棘はたまらず離脱する。

さっきまでは激しく口喧嘩していたが、今は不思議と、静かな沈黙が流れている。

千棘がふと、楽の胸元に目を留めた。

 

千棘「……そのペンダント、見つかったんだね」

 

楽「ああ。小野寺が見つけてくれた」

 

言いながら、胸元をぎゅっと押さえる楽。

その仕草は、いつになく優しかった。

 

楽「……すごいよな。なんでか小野寺、すぐ見つけちまったんだ。俺たちがいくら探しても見つけられなかったのに」

 

千棘は腰を下ろし、ため息をついた。

春の風が、彼女の金髪をふわりと揺らす。

 

千棘「……ふーん。小野寺って……あの、優しそうな子だよね。たしか、小咲ちゃん、だっけ」

 

楽「ああ……小野寺小咲だ」

 

どこか遠い響きの声だった。

 

千棘「で、そのペンダントってなんなの? 形見か何か? やけに大事にしてるけど」

 

楽「……いや、違う」

 

一拍の間。

楽は手元のペンダントを見つめ、どこか懐かしそうに口を開いた。

 

楽「……子供の頃、親父に連れて行かれた旅行先でさ。ある女の子と仲良くなって――これ、再会の印なんだ」

 

千棘「再会の……?」

 

楽「ああ…再会したら、結婚しようって約束」

 

千棘「け、結婚〜?!///(想像していたより重かった…ww)」

 

楽「ああ、結婚ww ほんと、子供心って面白いよな。顔も、名前も、もうほとんど思い出せねぇんだけどさ。でも、不思議と、その約束だけはずっと覚えてて。持ってりゃ、いつかまた会える気がしてんだよ」

 

懐かしさを噛みしめるように語る楽。

 

楽「……って、まぁ、こんなことお前に話してもしょうがねーか。ほら、笑えよ」

 

千棘は、楽の横顔をじっと見た。

いつもはふざけてばかりの顔が、今だけは、本当に大事なものを抱えているみたいに見えた。

 

千棘「……ううん、いい話じゃん」

 

意外にも、千棘は微笑んだ。

その笑顔は、普段の怒鳴り声とは似ても似つかない、柔らかいものだった。

 

千棘「私が嫌いなのは、失敗にすがってウジウジしてる奴だけ。……そういうロマンチックなのは、別に嫌いじゃないよ?」

 

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楽「……はぁ?! お前が!? ロマンチック!?ww」

 

千棘「え、ちょ、なんでそんなバカにした感じなの!? 最低じゃない!?」

 

楽「だって、お前に“ロマンチック”とか、いっっちばん似合わねぇ単語だろ!!」

 

千棘「は、はぁ? 本気でムカつくわ、このもやし!!」

 

夕暮れの風に乗って、ふたりの叫び声が遠くに溶けていった。

楽は深くため息を吐き、ポケットに手を突っ込んだまま、どこか遠くを見る。

 

楽「……ま、でもよ」

 

小さく呟くように言葉を落とす。

 

楽「俺たちがうまくやんねーと……ほんとに戦争になっちまうんだよな」

 

千棘も、ふと真剣な顔に戻った。

スカートの裾を揺らしながら、岩の端に座り直す。

 

千棘「……同意。断じて本気ではないし、ストレスで死にそうだけど」

 

楽「……あぁ、お互いにな?」

 

千棘「でも、“任務”としてなら――やってやらないこともないわ。死ぬほど嫌だけどね?」

 

ピリリとした沈黙。

楽と千棘は、視線を交わしもせずに、それぞれ別の方を見たまま、ぼそっと言い合った。

 

楽「……はぁ?」

 

千棘「……なによ?」

 

どちらも、言葉以上に、態度で不満を伝え合っていた。

 

だけどそれ以上、何も言えなかった。

――なぜなら。

互いに腹の底では、わかっていたからだ。

これは、「嫌だからやめる」なんて簡単に放り出せるものではないと。

楽は肩をすくめ、千棘も深く息を吐き、

それぞれ、黙ったまま背を向ける。

気まずい沈黙を引きずったまま、ふたりは、無言でそのまま解散した。

 

ーーーーー

翌日・一条家の門前

 

朝、雲ひとつない快晴。

一条家の門の前に、数台の黒塗りの車がずらりと並んでいた。

幹部たちが、黒いスーツに身を包み、整然と立ち並ぶ。

 

楽「……え?」

 

寝ぼけた頭が、一瞬で覚めた。

 

楽「なんで……スーツの組員たち……?」

 

車の中では、同じく驚愕している金髪少女。

 

千棘「パパが珍しく楽しいところに連れてってくれるって言うから、着いて行ったら……なんでこいつの家に…?!」

 

ギラつく黒塗り。

無駄に仰々しい空気。

門の奥では、両家の父親たちが、まるで晴れ舞台を見るかのような笑顔で手を振っていた。

 

千棘の父「ふたりともー、今日は“初デート”だからな!」

 

楽の父「うむ。できるだけ自然に、仲睦まじく頼むぞ」

 

楽&千棘「はぁ〜っ!?」

 

絶叫。

世界の果てまで響く勢いで、二人は同時に叫んだ。

 

ーーーーー

ショッピングモール前

 

休日の朝――。

ふたりは、やる気ゼロの顔で、並んで立っていた。

 

楽「……なぜ」

 

千棘「……こうなった」

 

目の前には、大型ショッピングモール。

周囲はカップルや家族連れでにぎわっている。

それなのに、2人の周りだけ、微妙に殺気立っていた。

 

背後には、目立たぬように散らばった監視役たち。

マフィア側、ヤクザ側――

どちらも厳しい目で、彼らの一挙手一投足を見守っている。

 

楽「ったく……せっかくの休日にこんな茶番とか……」

 

千棘「黙って歩きなさいよ、“恋人”なんだから!」

 

楽「改めて聞くと吐き気がするな…」

 

千棘「そうね、私は蕁麻疹が出るわ」

 

ぎゃあぎゃあと言い合いながらも、仕方なくモールの中へ歩き出す。

表向きは恋人。

実態は戦闘モード。

そんなちぐはぐなふたりの姿を、遠くから監視役たちが真剣な顔で見つめていた。

 

ーーーーー

モール内・1階フロア

 

楽と千棘は、ぎこちなく並んで歩いていた。

 

楽「……ったく、俺の人生初デートがこいつとか…」

 

千棘「大丈夫、私はこれをデートとしてカウントしないからw」

 

楽「はぁ? マジでムカつくなぁ…。お前、何のプランも考えてないくせに」

 

千棘「しょうがないでしょ? 急に決まったことなんだし。アンタは逆に少しは男を見せたら?」

 

またしても火花を散らす二人。

周囲のカップルたちは、甘い雰囲気を醸し出しているというのに、

この二人だけは、空気が完全に違った。

 

楽(……ったく、やってらんねー)

 

楽はポケットに手を突っ込みながら、

小さくため息を吐いた。

しかし――ふと隣を見ると、千棘が、無理に作ったような笑顔を浮かべていた。

ぎこちなく、でも懸命に“自然に見せよう”としている。

 

楽(……あいつなりに、頑張ってんのか)

 

そう思うと少しだけ胸の奥がチクリとした。

千棘もまた、横目で楽を見ていた。

楽がペンダントをぎゅっと握るしぐさを、ちゃんと見ていた。

 

千棘(……ま、こんなバカだけど。信念があるのは嫌いじゃないかな)

 

歩幅も合わないし、話もすぐケンカになる。

それでも、ふたりは少しだけ、ほんの少しだけ、お互いを意識し始めていた。

まだ始まったばかりの、偽物の恋人関係。

でもこの時ふたりはまだ知らなかった。

――この“茶番”が、

やがて本当に心を揺らす出来事に変わっていくことを。

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