ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
橘万里花・自室にて――夜
華やかなシャンデリアに照らされたその部屋は、まるでどこかの王宮の一室のようだった。
天蓋付きのベッド。
並べられたブランド物の香水やアクセサリー。
壁に飾られた肖像画。
そんな豪奢な空間の中心に、万里花は優雅に椅子へ腰掛けていた。
万里花「わたくしの予想通り……素敵な人になっておりましたわね、楽様」
ゆっくりと一枚の写真に指を滑らせる。
そこには、観覧車の前で笑い合う二人の姿。
万里花「ええ、しかし……意外でしたわ。楽様が、既に“小野寺小咲”というお相手に、明確な“答え”を出していたとは……。わたくしの行動が、いささか遅すぎましたかしら?」
両手で頬杖をつき、眉ひとつ動かさず、微笑む。
万里花「でも、いいのです」
一枚の写真を指で弾くと、それは静かに他の写真の上へ重なった。
万里花「“許嫁”という立場――そんなものは、所詮ただの飾りですもの。あの“暴力ゴリラ”が、今頃どこかでわたくしを鼻で笑っている様子が目に浮かびますけれど……」
その瞬間、ふっと微笑んだ万里花の瞳に宿ったのは、静かや闘志だった。
万里花「ですが……本当に大事なのは、過去ではありません。そう、まさに今、この高校生活という舞台ですわ! この限られた日々の中で、わたくしがどれだけ楽様の心を掴むか――それこそが勝負」
指先で写真の端を整えながら、続ける。
万里花「小野寺さん……貴女は行動が早かった。ですが、それも大した問題ではありませんの。わたくしが上回ればいい。ただ、それだけのこと」
言葉とは裏腹に、その視線には一抹の焦燥が浮かぶ。
万里花「……とはいえ、あの方は“完璧”ですわね。柔らかな物腰、気品、そしてあの控えめな笑顔。同性のわたくしですら、ふと見惚れてしまうほど。ふふ、手ごわい相手……ますます燃えますわ」
そして、ふと視線を上げた。
視線の先には、小さな額に入れられた、10年前の楽との写真。
手には、開かない小さな鍵が握られていた。
万里花「そして……あのゴリラについて、ですけれど」
少しだけ、その声が鋭さを帯びる。
万里花「楽様、わたくしの目はごまかせませんわ。貴方は、あの桐崎千棘に対して――確かに、“情”ではない何かを抱いておられる」
鍵を静かに机に置き、唇をなぞるようにして、彼女は語る。
万里花「それは…そう、“蕾”ですわ。まだ花の正体はわからない。けれど、ほんの少しでも開花すれば、風向きが変わる。……ですから、油断など一切できませんの」
そして、立ち上がると鏡の前に進み、自らの髪を軽く整えながら、凛とした笑みを浮かべた。
万里花「でも、負けませんわ。わたくしは女性として、完璧な修行を積んでまいりました。礼儀作法、料理、人脈、芸術、社交、すべてにおいて誰にも負けない自負がございます」
万里花「さあ、明日からも見せつけて差し上げますわ。“橘万里花”という女が、どれだけ本気なのかを――」
全てを達観している女、橘万里花の。
彼女の戦いの朝が、今明けていく。