ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
小咲・自室――夜
カーテン越しに月明かりが差し込む部屋。
机の上には可愛らしい小物と、開きっぱなしの英語の教科書。
けれど、今の小咲の視線は……手元のスマホの画面に釘付けだった。
そこに映っていたのは、ついこの前遊園地で撮った自分と、そして隣にいる一条楽の笑顔のツーショット。
小咲「……かっこいいなぁ、一条くん…」
ぽつりと呟いた声は、部屋の静けさに溶けるように消えていく。
画面越しの楽の横顔は、陽の光を浴びていて、まるで少年漫画の表紙のように眩しかった。
小咲は両手でスマホを持ち直し――
小咲「…………」
ほんの数秒だけ、ためらって。
ちゅっ♡
小さく、画面に唇を寄せる。
小咲「ひぃぃぃやぁぁぁぁ!?!??!!」
自分のやったことの破壊力に耐えきれず、スマホをベッドに放り投げ、そのまま勢いよく頭から飛び込む。そしてシーツに顔を押しつけながら、ジタバタ転がる。
小咲「わたし、なにやってんの!?!やばいやばいやばいやばい!!もうやだぁああ!!」
両手で顔を覆い、枕をかかえてはたいて、転がる。
顔は真っ赤、心臓はバクバク。
けれど、どこか満ち足りたような笑みが滲んでいた。
ようやく落ち着き、仰向けになって天井を見つめる。
小咲「でも……やっぱりすごいよね。一条くんって。
前からそうだったけど、最近ますますそう思う。なんだかね……“主人公”みたいなんだ。自然と人が集まってきて、いつの間にかみんなが目で追ってるような。わたしが一条くんのこと好きだから、そう見えるのかな?」
ふと、今日の出来事が脳裏をかすめる。
千棘の気さくで自然な笑顔と、彼女が楽に向けた無意識の視線。
万里花の圧倒的な美貌と気品。そして、彼女の宣言。
小咲「千棘ちゃんは、自分では“仮の彼女”って言ってるけど……うん、わたしにはわかるよ。千棘ちゃん……一条くんのこと、好きになり始めてる。きっと、自分でも気づいてないだけで。いや……もう気づいていて、認めたくないだけなのかも……?」
心に小さな棘が刺さったような痛み。
けれど、小咲は微笑んでみせた。
小咲「それに……橘さん。すごかったなぁ……。お淑やかで、きれいで、礼儀正しくて、頭も良さそうで……正直、わたしが勝てる要素なんて、ほとんどないけど――」
その言葉に、グッと胸元で拳を握る。
小咲「……でもね。“気持ち”だけは、絶対に負けないようにする。わたしが先に彼女になれたからって、安心なんてしてられない。きっとこれから、もっといろんな壁が来ると思うから……!」
しかさ、力を込めたその瞳に、一瞬だけ翳りが差す。
小咲「……でも、本当は。わたし、争いとか、取り合いとか……したくない。できれば、みんなで笑って、仲良く話せたらなって、思うのに……」
ふと、視線がさっき投げたスマホに落ちる。
画面は消えているが、小咲にはあの笑顔が、まだ心に焼き付いていた。
小咲「……やっぱり、難しいのかな、そういうのって……」
そう呟いた声は、誰に届くこともなく、静かな夜の空気に溶けていった。