ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

33 / 99

【挿絵表示】

お嬢様口調でも方言全開でもかわいすぎる万里花さん


ホウゲン

校門前――

 

リムジンが優雅に停まり、そのドアがゆっくりと開く。

 

万里花「さ、楽様。こちらですわ。手をどうぞ♪」

 

楽「お、おう…」

 

その瞬間、周囲の空気が一変する。

登校中の生徒たちが足を止め、ざわめきが広がっていく。

 

生徒A「えっ、あの車から降りてきたの…一条と誰? 転校生?」

 

生徒B「うわ、雰囲気すごっ……お嬢様って感じ……!」

 

生徒C「もしかして、またカップル誕生…? でもあいつ、金髪と付き合ってなかったか?」

 

楽「これは……変な噂が立ちそうだな……」

 

万里花「よろしいのではありませんか?その“噂”はいずれ“真実”に変わるのですから♪」

 

にこやかにそう言うと、迷いなく楽の腕にぎゅっと抱きつく万里花。

その手の強さが、妙に真剣だった。

 

楽「……なぁ、橘」

 

万里花「なんでしょう? 何でも聞いてくださいな♪ ちなみにスリーサイズは上からーー」

 

楽「ひとつ、俺からも質問。……お前、なんでそこまで俺のこと好きなんだ?」

 

万里花「……どういう意味でしょうか」

 

万里花は笑顔こそ絶やさなかったものの、明らかに表情がこわばっていた。

 

楽「いやさ、誤解しないで欲しいんだけど……好きって言われるの、すごくありがたい。でも俺、そこまで人から好かれるようなタイプじゃねーし。顔がいいわけでも、気の利く男でもないし。……だから、理由が知りたいんだ。お前がどうして、俺なんかを……」

 

万里花「……」

 

彼女の表情が、ふと翳った。

そして一拍置き、深く息を吸い込み――

 

万里花「……そげんことまで忘れとっとか?」

 

楽「へ?」

 

万里花、唐突にコテコテの九州弁に切り替える。

 

万里花「こっちは10年間! 毎日毎日! らっくんのことばっか思い出しよったとよ!? らっくんが髪の長い女が好きやっち言うけん、それからずっと髪も切らんやった! しゃべり方も直して、上品になろうって! いっぱい努力したとよ……!!」

 

【挿絵表示】

 

万里花は感情的になりながらさらに楽へ近づく。

 

万里花「そいばってん、らっくんは……全部、忘れとったっちゃろ……!? そいで済ます気なと!? そいだけの男なと……らっくんは……!!」

 

【挿絵表示】

 

楽「……!」

 

一瞬、時が止まったような沈黙。

それは、突き刺すような告白だった。言葉よりも、むしろ“熱”が、胸に響いた。

 

楽「……マリー……?」

 

万里花「……」

 

楽「……思い出した。お前……マリーか……!」

 

万里花「……やっと、思い出したのですね」

 

楽「その喋り方……なるほど。あの時の、あの小さい頃に一緒にいた……ああ、今なら分かる、全部繋がった。……いや、ほんと懐かしいな。あんなに遊んだのに……悪い、完全に記憶の奥に眠っていたわ……」

 

万里花「ふふ……封印していた方言で思い出されるなんて、皮肉なものですわ」

 

楽「……ああ。でも、あの頃のお前も、今の“橘万里花”も、俺にとっては間違いなく、同じ“マリー”だよ」

 

万里花「……。なんとも複雑な気分ですわね」

 

ほんの一瞬、彼女の瞳が揺れる。

懐かしさと、複雑な想いと、抑えきれない嬉しさが滲んでいた。

 

ーーーーー

リムジンを背に、万里花と楽は並んで歩き出す。

先ほどの“マリー”発覚の衝撃も少し和らぎ、空気はどこか柔らかくなっていた。

 

楽「いやぁ……なんか、胸のつっかえがとれたっていうかさ。すげえスッキリしたわ。ずっと頭の片隅にあったんだよな、あの時の女の子のこと……」

 

ふと足を止め、楽は万里花の顔を見る。

 

楽「……悪かったな、忘れてて」

 

万里花「……ええ、いいのです」

 

万里花は微笑みながら、ふわりと視線を逸らす。そして、ふと立ち止まり、顔だけを楽のほうへ向ける。

 

万里花「……むしろ、もう忘れてくださって?」

 

楽「……え?」

 

万里花「許嫁、幼馴染、10年前の約束――どれも、過去の肩書きに過ぎませんわ。わたくし、橘万里花はそんなもので楽様に“選ばれたい”とは思っておりませんの」

 

風に長い髪がさらりと揺れる。万里花の瞳には一切の迷いがなかった。

 

万里花「ご覧いただきたいのは、“今”でございます」

 

楽「……おぉ?」

 

万里花「若干16歳にして、教養、品格、気品、そして家庭的なスキルをすべて兼ね備えた、完璧なる淑女――“マリー”ではなく、“橘万里花”として、わたくしを見ていただきたいのですわ」

 

楽「……お、おぉ……そりゃもちろん、見るよ…? なんか、すげぇ自信だな」

 

万里花「ふふ、当然です♪」

 

万里花はそう言って再び楽の腕に軽く絡む。指先はやや強く、まるで「離さない」と言わんばかりに。

 

万里花「これからも――人生を懸けてアピールしてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたしますね、楽様♪」

 

楽「……だから、だからさ。そんなくっつくなって! 人の目もあるんだからよ!」

 

万里花「いいではありませんか♪ それもまた、スパイスというものですわ♪」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。