ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
教室の朝。
窓から柔らかな日差しが差し込む中、小咲が静かに教室へ入ってくる。
小咲「おはよう、一条くん」
楽「おっ、おはよう、小野寺!」
楽は軽く手を挙げながら笑みを浮かべ、ふと何かに気づいたように目を細める。
楽「……あれ? なんか、今日雰囲気違うな?」
小咲「えっ? そ、そうかな……?あっ、もしかして…リップクリーム変えたからかな?」
楽「なるほど! それか。なんとなく匂いも違うなぁって思ったんだよな」
小咲「におい……?///(え、もしかして、今までずっと嗅がれてたの?! これからはもっとちゃんとしなきゃ……///)」
小咲の頬がふわっと赤く染まる。
そんな穏やかな雰囲気を遮るように、後方の席から声が飛ぶ。
千棘「……なーにが“匂い”よ。気色わるっ……」
楽「はぁ!? いや、別に変な意味じゃねーし!」
千棘「アンタが言うと全部変な意味に聞こえるのよ!バカ!」
とは言いつつも、千棘はちらっと小咲の方を見て鼻をひくつかせる。
千棘「……ま、でも確かに今日の小咲ちゃん、良い匂いするかもね」
楽「ほら見ろ! 俺の鼻は正しかった!」
千棘「いやそんなドヤ顔されてもww」
教室のドアがバンッと勢いよく開く。
入ってきたのは、優雅な動作と完璧な笑顔を纏った万里花。
万里花「楽様〜! 今週末の予定を立てましたわよ〜!」
手には丸めた大きな紙、そして満面の笑顔でまっすぐ楽の席へ向かう万里花。
しかし途中でぴたりと足を止め、小咲に気づいた様子。
万里花「あら、小野寺さんもいらっしゃったのですね? ならちょうどよかったですわ」
千棘「……おい、私もいるけど?」
万里花「あっ、申し訳ございません。“一応”人間だけを認識しておりましたもので」
千棘「……はぁぁぁあ!? アンタマジで一回やらないと分からなそうね……!?」
万里花「やらないと? なにをです?(ニッコリ)」
バチバチに火花が飛ぶ千棘と万里花の視線の間で、楽は両手を軽く上げてなだめようとする。
楽「おいおいおい、朝からやめろって。で、橘、話って何だよ?」
万里花は嬉しそうに手に持っていた大きな紙を開く。
中にはびっしりと詰め込まれた週末のプラン。
しかもフルカラーで手描きイラスト入り。
万里花「はい! 楽様、今週末は桐崎さん、または小野寺さんと過ごされるご予定はありますか?」
楽「え? いや、今のとこは特になんも決まってねぇけど?」
その瞬間、万里花の瞳が一層輝きを増す。
万里花「でしたら――わたくしとデートしてくださらないかしら?」
教室が静まり返る。
千棘と小咲が同時に凍りつき、楽は額に汗を浮かべて硬直する。
教室中が静まり返る中、万里花の申し出に、楽はぽりぽりと頬をかきながら答えようと口を開く。
楽「いや、あのさ……」
その一言に、万里花の瞳が期待で潤む。千棘は腕を組んで一歩前に出た。
千棘「橘万里花、だっけ?アンタ、いい加減にしなよ。」
静かな口調だったが、その奥にある怒りの熱量はひしひしと伝わってくる。
千棘「公然と想いを伝えることが強みだと思ってるかもしれないけど、何か勘違いしてない?」
万里花「おやおや? どんな勘違いか、ぜひご教授願いたいですわね」
万里花は微笑を崩さない。だがその言葉には棘があった。
万里花「わたくしは楽様が好き。それを伝え、デートに誘う。小野寺さんにも、あなたにも、隠すことなく堂々と誠実に申し上げていますわ。むしろフェアではありませんの?」
そして、ふっと唇をゆるめ、挑発するような笑みを浮かべる。
万里花「そんなに気にくわないのであれば、あなたも楽様への想いを教室で叫んでみてはいかが? どれほど本気か、皆さんにお伝えしたらよいではないですか♪ 」
千棘の肩がぴくりと動く。だが、言葉は出ない。
千棘「ぐぬぬ……」
万里花「はい、桐崎さんは納得されたご様子」
沈黙が落ちる中、万里花は今度は優雅に振り返り、小咲の方へ視線を送る。
万里花「さて、それでは、小野寺さん。あなたはお優しくて頭がいい。感情ではなく理性で話ができる方。そんなあなたにお尋ねします。わたくしの行動に、何か不備でも?」
小咲は、一瞬だけ楽の顔を見た。その視線には、どこか迷いと決意が混ざっていた。
小咲「……ううん、ないよ」
その言葉は、教室の空気を一瞬凍らせる。
小咲「一条くんがいいっていうなら、いいと思う……。だって、それは一条くんと橘さんの問題だから、わたしがどうこう言うことじゃない……と、思う」
表情は優しかったが、その手はスカートの端を握り締めていた。
万里花「ふふ、さすがですわ、小野寺さん。とても淑女でいらっしゃる」
そして再び、万里花は楽へと正面を向く。
声のトーンがわずかに柔らかくなる。
万里花「楽様。どうか、週末……たった1日で構いません。わたくしにお時間をくださいませんか?」
彼女の瞳は、真剣だった。
勝負の世界に身を置く者の、それでいて恋する少女の、まっすぐな願いだった。
万里花「きっと、素敵な1日にしてみせますわ。……もし、ほんの少しでも“つまらない”と感じたら、その場で帰っていただいて構いません。ですから、どうか、何卒……!」
教室の空気は、誰もが息を呑むほどの静けさに包まれていた。
すべての視線が、楽の返答を待っていた。