ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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少しずつ不安は大きく。


ヒツヨウ

楽「……わかった、いいよ」

 

その瞬間、教室の空気がぴたりと止まった。

万里花の表情は、まるで冬が一気に春へ変わるかのように、ふわっと綻んでゆく。

 

万里花「まあっ……!やっと思いが通じましたのね!楽様と、こんなにも早くデートが叶うなんて……夢のようですわ!」

 

彼女は両手を胸の前で組み、まるで舞踏会に招かれたプリンセスのようにきらきらと輝いていた。

 

千棘「ちょ、ちょっと、楽……アンタ本気?」

 

声が裏返るほど驚く千棘。その横で、小咲は声も出せずにただ黙っていた。

机の陰に置いた手が、少しだけ震えていた。

 

千棘(楽の耳元で小声)「私はともかく、小咲ちゃんになんて説明するのよ……。わかりやすく“塩みたいな顔”になってんじゃん…点。今にも風でさらさら溶けそうな見た目してるけど?」

 

楽「ああ、わかってる。小野寺には、あとでちゃんと説明するから。」

 

千棘「……あっそ。勝手にすれば。マジで女たらし。軽蔑するわ」

 

吐き捨てるように言い、千棘はぷいと顔をそらす。

だがその目は、どこか拗ねたように揺れていた。

 

楽「はいはい……」

 

万里花「ふふふ、それではデートプランに沿って、各種施設の予約などがございますので、これにて失礼いたしますわ♪ ごめん遊ばせ、皆様♪」

 

嬉々として退出する万里花。

その足取りは、まるでバレリーナのように軽やかだった。

残された楽は、机の横で項垂れていた小咲の姿に、ゆっくりと歩み寄る。

 

楽「なあ、小野寺……あとでちょっと、二人で話さないか?」

 

その声に、小咲はゆっくりと顔を上げた。

 

小咲「……うん。わかった。」

 

言葉は短かったが、その声の震えと滲むような瞳は、彼女が何を思っていたのかを何より雄弁に物語っていた。

 

ーーーーー

屋上にて

 

楽は、金属の手すりに寄りかかりながら、小咲の方を見ずに口を開く。

 

楽「はぁ……いつもごめんな。こんな面倒なことばっか巻き込んで」

 

小咲「ううん、大丈夫」

 

小咲は、無理に笑おうとしたが、その声はどこか張りつめていた。

そんな彼女に、楽は視線を向ける。

 

小咲「でも……橘さんとデートするっていうのは……どういうことなの? 千棘ちゃんは“仮の恋人”だから、表向き仕方ないって思えるけど、橘さんは……」

 

一瞬、風が止んだような気がした。

楽は数秒の沈黙のあと、そっと頷いた。

 

楽「あれは、俺なりに考えた上で決めたことなんだ。……デートの中で、ちゃんとはっきり言うつもり。俺は小野寺が好きだし、本気で付き合ってる。大事にしたいって思ってる。橘とはそういう関係にはなれないって、ちゃんと向き合って伝えるよ。多分、教室でちまちま言ってもあいつは納得しない。だからあえて一度はデートして、その上で伝えた方が諦めてくれると思ってな(まぁ、ぶっちゃけ今朝も言ってるんだけど)」

 

小咲「……そっか」

 

彼女はほんの少し視線を落とした。

その瞳は穏やかだったけれど、揺れもあった。

 

小咲「でも、一条くんは優しいから……そうやって“はっきり言う”ってこと……つらくない?」

 

楽「うっ……」

 

図星を突かれて、楽は少しだけ目をそらした。

 

楽「……確かにあいつの笑顔を前にこれを告げるのはなかなかメンタルを強く持たないと無理かもしれないけど……。でも、このままだとさ、多分毎日のようにくるぜ、あいつ。その度に小野寺が悲しそうな顔するの、俺見たくないし」

 

その言葉を聞いて、小咲はゆっくりと微笑んだ。

 

小咲「ありがとう、気遣ってくれて。ふふ……でもね、大丈夫。これでも少しは強くなったから」

 

楽「……そっか。なら、よかった」

 

短い沈黙が流れる。

 

楽「とにかく、小野寺は何も心配しないでいい。デートするって言っても、小野寺とするデートとはまるで意味合いが違うしさ」

 

チャイムが鳴る。

 

楽「さっ、そろそろ戻るか。授業始まるぜ」

 

小咲「うん、そうだね。もう少し風に当たりたいから、先に行っててくれる?」

 

そう言った小咲を尻目に楽は軽く手を振って階段へと向かっていく。

そして、小咲はひとり屋上に残された。

 

彼女はゆっくりとスマホを取り出し、ホーム画面を開く。

そこには、遊園地で楽と撮った、笑顔のツーショット写真が表示された。

 

小咲「……一条くん、いつも私のこと考えてくれてる。嬉しいよ?すっごく嬉しい……」

 

そう呟きながら、彼女はスマホを胸に抱きしめた。

でも次の瞬間、目を伏せる。

 

小咲「……だけどね、気を遣われすぎるのも……つらいんだよ。いつも無理して、汗かいて、振り回されて……わたしが、そうさせてるのかな? って思っちゃう時がある」

 

指先が、少しだけスマホのフレームをぎゅっと握った。

 

小咲「わたしって……重荷になってないかな? 一条くんにとって、小野寺小咲はほんとに“必要”なのかな……?」

 

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そう呟いたその声は、風にかき消されるように溶けていった。

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