ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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万里花さんとのデートはひと段落


コウサツ

夜、橘家。

 

きらびやかなシャンデリアの下、クラシックが微かに流れる上品な一室。

 

万里花「ふぅ……」

 

高級そうなアールグレイのティーカップに、白く繊細な指先が触れる。

そっと一口、喉を潤して、ため息をひとつ。

 

万里花「まずはやり切った自分を労わりましょうか」

 

完璧な笑顔と、最高のプラン。

あらゆる一流の要素を詰め込んだ“理想のデート”。

それは一分の隙もなく、誰が見ても文句のつけようがなかったはず。

だが。

 

万里花「……」

 

万里花は黙って、テーブルに並べられた写真たちを見つめる。

そこには今日のデートで撮った楽との2ショットや、控えめに撮られた彼の笑顔が写っていた。

 

万里花「デートの内容は、完璧に近かったはずですわ。しかし……楽様の心を揺さぶることはできても、動かすことはできなかった」

 

目を伏せて、そっと瞼を閉じる。

 

万里花「何故なのでしょうか? わたくしのドレス?話題の選び方?所作のひとつひとつ?」

 

いや、それは違う。

彼も言っていた。

完璧だからといって、必ずしも惹かれるわけではないと。

 

万里花「……そう、問題は完璧さの中にあるのですわね」

 

そう呟いた彼女の瞳は、僅かに陰りを帯びていた。

 

万里花「小野寺さんにあって、わたくしにないもの……」

 

整った髪を指先で整えながら、ゆっくりと独り言を重ねる。

 

万里花「冷静に整理してみましょう。まず、性格。小野寺さんは温厚で、争いを避ける穏やかな気質。対してわたくしは、挑戦的で目標のためなら衝突すら厭わない。どこかのゴリラと違って最低限の気品は保ちますけれどね?」

 

リビングの空気が、すっと張り詰めていくようだった。

 

万里花「ふふ……ここからですわ。“完璧な令嬢”という衣を脱いで、本当のわたくし自身を見つめ直す時間。もっと核心に迫ってみましょうか。性格以外に、他にあるとすれば……」

 

再び椅子に背を預け、万里花は紅茶を静かに一口。

彼女の視線は、室内に飾られた小さなフレーム――そこに収められた、幼い頃の楽とのツーショット写真へと向けられていた。

 

万里花「……表情。小野寺さんは、どんな時でも自然な笑顔を浮かべていらっしゃる。決して作られたものではない、“安らぎ”をくれるような微笑み。わたくしの笑顔とは……まるで種類が違う」

 

それは努力の果てに磨かれた淑女の微笑みではなく、心の底から溢れる無垢な幸福の象徴。

万里花はその違いを、誰よりも繊細に感じ取っていた。

 

万里花「次に、距離感……ですわね。わたくしは、どこかいつも攻めてしまう。でも、小野寺さんは……一歩、半歩、後ろを歩いて、でもいつの間にか心の近くにいる。その自然さこそが、好かれる理由なのでしょうか」

 

机に置かれたナプキンを無意識に握りしめる。

自分が築いてきたもの、自信に満ちた“橘万里花”というブランドが、静かに問い直されていく。

 

万里花「三つ目は……信頼。恋人として、ただ好きだと言うだけではなく……頼れるかどうか。小野寺さんは、あの優しさと誠実さで、きっと楽様の心に安心という居場所を与えているのでしょうね。わたくしは……どうかしら? その点は負けないとは思っておりますが……客観的に評価するのは難しいですわね」

 

そして、最後に。

 

万里花「四つ目。過去ではなく、今を共有してきた時間の差。いくらわたくしが許嫁だとしても……楽様が日々をともに長く過ごしているのは、小野寺さん。そこには、わたくしが割って入れない積み重ねがありますの」

 

ぽつり、ぽつりと紡がれた言葉が、万里花自身の胸に深く沁みる。

 

万里花「……わたくし、負けているのですわね」

 

それでも、目を伏せたまま俯くことはなかった。

胸の奥に灯った火が、静かに強く燃え上がっていく。

 

万里花「でも、だからこそ……やりがいがありますわ。わたくし、橘万里花は、“完全無欠”の看板に甘えません。これからは、もう少しだけ人間らしくいこうと思いますの。失敗しても、泥をかぶっても、傷ついても。わたくしの人生を賭けて、楽様にふさわしい本物の女性になりますわ」

 

そんな中、万里花はふと思い出したように顎に手を当てる。

 

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万里花「……ああ、そういえば。桐崎さんの話題は、一切あがってきませんでしたわね」

 

紅茶のカップを置き、万里花はふと視線を遠くへ向ける。

 

万里花「てっきり、もっと心に爪痕を残しているのだとばかり……少し、買い被っていたかしら? あの人のことですもの、きっともどかしい感情を持て余して、どこかで噛み締めているのでしょうけれど」

 

軽く息を吐きながらも、その目には油断の色はなかった。

 

万里花「……一応、気を抜かずに見ておきましょう。沈黙というものは、ときに最も厄介ですもの」

 

頬にかかった髪を一房、静かに耳にかけながら、万里花はそっと微笑む。

 

万里花「それでも。今のところ、楽様の心が一番強く動いているのは、小野寺小咲。それは間違いありませんわ」

 

指先でそっと、小咲とのツーショット写真を伏せて。

 

万里花「結論として、わたくしのすべきことはただひとつ。揺るがぬ強さを持ち、誰よりも真っ直ぐに、恋する女として突き進むだけですわ」

 

その表情は、“勝利のための計算”から、“恋する少女の決意”へと、わずかに色を変えていた

夜空の見える窓辺に立ち、そっとカーテンを揺らす。

月光が彼女の横顔を照らすその瞬間、静かに、しかし確かに決意が芽吹いたのだった。

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