ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

4 / 99
今のところ原作とほぼ変わりませんが、次から展開変わります。

【挿絵表示】



コウサク

凡矢里・商業ビル街

 

夕暮れ時。

街灯がぼんやりと灯り始めた商業ビル街を、楽と千棘は並んで歩いていた。

映画を観て、雑貨屋で小物を買って、アイスを食べて――

一応、それなりに「デートらしいコース」はこなしてきた。

だが、2人の間に流れる空気は、ずっと、ぎこちなかった。

言葉を選びすぎるせいで、沈黙が続く。

歩調が合わず、何度も距離が開く。

無理やり捻り出した会話も、すぐに空中分解する。

 

楽(……しんど……)

 

千棘(……早く終わんないかな……)

 

お互い、心の中でため息をつきながら――

それでも「周囲に仲良く見せなきゃ」という意識だけはあるから、余計に疲れていった。

 

ーーー

公園・ベンチ

 

夕方の公園。

肌寒い風が吹き、ベンチに並んで座るふたりの間には、はっきりとした距離があった。

ベンチの真ん中に、まるで透明な壁があるみたいに。

千棘は足を組み、長い金髪を指に巻きながら、やれやれとため息を吐いた。

 

千棘「……はぁ。今日のデート、1点かな。あ、これ、100点満点中ね?」

 

楽「はぁ!? なんだその評価!」

 

思わず振り返る楽。

心底、ムカついた顔だった。

 

楽「つーか、そもそもお前を喜ばせるためのプランじゃねーからな!」

 

千棘はふふんと笑いながら、悪びれずに肩をすくめる。

 

千棘「へぇ? じゃあなに? “約束の女の子”を想定したプランだったとか? ふふっ、こんなのでぇ?w」

 

楽「……ぐっ。それは……」

 

顔を赤くしながら言葉を詰まらせる楽。

千棘は、さらにからかうような声で続けた。

 

千棘「……ぶっちゃけた話、本当に会いたいわけ? その子に。どこの誰かも分かんないのに?」

 

楽は、顔を伏せながら小さく頷いた。

 

千棘「……めちゃくちゃブスになってたらどうすんの?ww」

 

楽「ないない、それはないww」

 

肩を揺らして笑う楽。

そしてすぐに、ニヤリと意地悪く付け加えた。

 

楽「……少なくとも、お前よりは確実に美人になってるよww」

 

千棘「はぁ!? ブン殴るわよ!?」

 

椅子から立ち上がりそうな勢いで怒鳴る千棘。

 

楽も負けじと睨み返した。

 

楽「……でもまあ、手がかりはこのペンダントだけなんだよな」

 

言いながら、胸元のペンダントにそっと指を添える。

 

楽「それと、あの子が持ってる“鍵”か」

 

夕暮れの光を受けて、ペンダントがかすかにきらめいた。

 

楽(……あの子も、今も、大事に持ってくれてんのかな……)

 

一瞬だけ、遠い記憶に心が飛びそうになる。

 

千棘「……ま、いいや。別に想うのは自由ですから?」

 

突然立ち上がり、スカートをぱたぱたとはたく千棘。

 

楽「おい、おい!? どこ行くんだよ」

 

千棘「……トイレだよ。言わせないでくれない?」

 

吐き捨てるように言い残し、スタスタと歩き去っていく。

ひらひらと振られる手だけが、言葉とは裏腹にどこか楽しげに見えたがーー楽には、ただただ気疲れしか残っていなかった。

 

楽「……マジでムカつく、あいつ……。基本的に悪口か批判だけじゃねえか」

 

風が冷たくなり始めた。人通りもまばらな、公園のベンチ。

楽はひとりぼそりと呟く。

 

楽「……はあ。これが小野寺とのデートだったら……どんなに夢のようだろうか……」

 

その瞬間――

 

???「……え? 呼んだ?」

 

楽「……ぶっふ!?!? な、なっ、なっ……小野寺?! 何故ここに?!」

 

驚きすぎて、変な声が漏れた。

振り返ると、そこにいたのは私服姿の小野寺小咲。

 

驚いたような、でも嬉しそうな笑顔を浮かべて、立っていた。

風が吹き、落ち葉がさらさらとベンチを転がっていく。

楽は、目を丸くしたまま、呆然と小咲を見上げていた。

小咲は、少し恥ずかしそうに微笑みながら、服の端をそっと押さえて言った。

 

小咲「友達と買い物してて、その帰り道だったんだ。

たまたま見かけたから、驚かせようと思ったら急に名前呼ぶんだもんww」

 

嬉しそうに、けれど少しだけ照れたように。

小咲は、まるで春風みたいに、そこに立っていた。

 

小咲「……もしかして、わたしが近づいてるの、気づいてた?」

 

楽「い、いや、それは、その……気付いてないけど……考え事してて……」

 

顔を真っ赤にしながら、しどろもどろになる楽。

小咲は、ふふっと小さく笑った。

 

小咲「ふふっ。なに考えてたの?」

 

その微笑みは、無垢で、優しくて――

楽の心臓を一瞬でノックアウトしそうな威力だった。

 

楽「え、えっと、それは、その、だな――」

 

必死に言葉を探していた、その時。

 

???「お待たせ〜、ダーリン♪」

 

間の悪いタイミングで、やたら甘ったるい声が飛び込んできた。

楽の背筋が、凍りつく。

千棘が、わざとらしい満面の笑顔で手を振りながら戻ってきたのだ。

 

千棘「え? あら? あれ?」

 

小咲「えっ、桐崎さん……?」

 

小咲の笑顔が、ピタリと止まる。

 

小咲「お待たせ、って……それに、今、ダーリンって……」

 

楽「………………(……最悪だこれ)」

 

心の中で、盛大に崩れ落ちる楽。

小咲の表情が、見る見るうちに固まっていく。

 

小咲「……もしかして……」

 

楽は、なにも言えなかった。

言葉が、喉の奥で凍りついていた。

風が、ぴたりと止まった。

世界から音が消えたような静寂の中で、小咲の目だけが、悲しげに揺れていた。

 

小咲「……2人って……付き合ってたの?」

 

小さな、小さな声。

でも、それは楽の胸に、鋭く突き刺さった。

 

楽「……っ!」

 

楽は、どうにか言い訳をしようと口を開きかけたが、

千棘が、先に自らの腕を楽の腕に絡めた。

 

千棘「そ、そうなのよ〜! 私たち、付き合いたてのラブラブカップルでさ!もう彼ったら、私にゾッコンでぇ〜!」

 

その瞬間。

 

カサッ――

 

【挿絵表示】

 

静かに、けれど確かに響いた音。

小咲の手から、買い物袋が滑り落ちた。

ビニールの中で何かが跳ねる音がしたが、誰も気に留めなかった。

 

楽「お、おい! 小野寺、これは違うんだ!……わかる、よな?」

 

小咲は顔を伏せたまま、答えない。

微かに震えるように見えた唇が、ゆっくり動いた。

 

小咲「……ちがう? なにが?」

 

楽「そ、その、これは、なんというか……本当のこと言うと、恋人ってわけじゃ――」

 

千棘「ははっ、なに言ってるのダーリン? まったく〜、照れちゃって〜。あはは〜〜」

 

千棘の声は明るい。

楽は千棘に目で合図を送っていた。

「今ここで言うな」と。

しかし、伝わるはずもなく。

 

小咲「……そっか。そうだったんだ」

 

小咲の声は、優しい。

でもその瞳は、どこか遠くを見るようにぼんやりとしていた。

 

小咲「桐崎さん、転校してきたばかりなのに……もう、そんなに一条くんと仲良くなってたんだね。……全然、知らなかったよ」

 

楽「ち、ちがっ、小野寺!これはほんとに誤解で!ちゃんと説明する!これは、その、こいつは――」

 

小咲「……一条くん」

 

楽「!」

 

小咲「照れなくていいんだよ。本当は、好きなんでしょ? 桐崎さんのこと」

 

小咲の笑顔は、まるで自分に言い聞かせるようなものだった。

 

小咲「むしろ……今こうして知れて、よかった。わたし、自分に都合のいいことばっか考えてたから。“こうだったらいいな”とか、“こうなれたらいいな”とか……

子どもみたいに」

 

千棘(……あら? なんか……やばくない、これ)

 

楽「小野寺!ほんとに、聞いてくれ!これは全部――!」

 

小咲「邪魔しちゃ悪いし…わたし、もういくね? 2人とも……幸せにね」

 

そう言って、小咲は静かに背を向けた。

夕日を背負いながら、拾い上げた買い物袋を胸に抱えて、ゆっくりと歩き出した。

 

ーーーーー

公園・ベンチ

 

日がすっかり暮れ、街のざわめきも遠ざかり、公園はひどく静かだった。

 

ベンチに座る、楽と千棘。

二人の間には、言葉のない沈黙だけが流れていた。

冷たい風が、草をそっと揺らす。

やがて――重たい声が、その沈黙を破った。

 

楽「……おい、桐崎」

 

千棘「……はぁ? なによ」

 

声はとげとげしい。

でも、どこか怯えたような響きもあった。

楽は、膝の上でぎゅっと握った拳を見つめながら、

低い声で続けた。

 

楽「……どういうつもりだよ。あの時の“ダーリン”ってやつ」

 

千棘は、あっけらかんとした顔を作って答えた。

 

千棘「はぁ? 何って、監視があるんだから、カップルのフリするのは当然でしょ? いずれ他のクラスメイトにバレるんだし、先に印象づけておいたほうが楽じゃない?」

 

楽「……ダメなんだよ」

 

静かに、でもはっきりとした声。

 

千棘「……は?」

 

千棘の眉が、ぴくりと動いた。

 

楽は顔を上げた。

その目には、いつものだらしなさも、いい加減さもなかった。

 

楽「クラスの連中がどう思おうと構わない。だけど、小野寺だけは……小野寺にだけは、誤解されたくなかった」

 

千棘は、一瞬――本当に一瞬だけ、目の奥の光を失った。

でも、すぐに口元に無理やり笑みを貼り付けた。

 

千棘「……そっか」

 

乾いた声。

 

千棘「……なんとなく、分かってたよ。アンタ、小咲ちゃんのことが好きなんだね?」

 

楽「……ああ」

 

短く、でも強く肯定する。

 

楽「お前にだけは言っておく。中学の頃から、ずっとずっと好きだった」

 

千棘は、ふっと小さく鼻で笑った。

 

千棘「ふうん。それは、悪いことしたわね。なら、私なんて邪魔でしかないじゃない」

 

楽「……そんなこと言ってねぇだろ」

 

楽の声は、少しだけ荒ぶっていた。

 

楽「ただ……小野寺にだけは、あんな風に見られたくなかったんだ。胸が、こう……ギュッてなるっていうか」

 

千棘は、唇をぎゅっと噛み、それでも強がるように声を尖らせた。

 

千棘「はあ……なにそれ。意味わかんないんだけど?」

 

吐き捨てるように言う。

 

千棘「心が痛む? 小野寺ちゃんに見られて? 何それ、小咲ちゃんがアンタのこと好きだとでも? ちょっと自惚れてんじゃないの?」

 

楽「……それは……まぁ、そうだけど。……希望くらい、持ったっていいだろ」

 

静かな声だった。

千棘は、じっと楽を見つめた。

冷たい風が、二人の間を吹き抜ける。

 

千棘「……でもさ、ふと思ったんだけど」

 

ポケットに手を突っ込んだまま、千棘はぼそりと言った。

 

千棘「アンタがさっき話してた、“約束の女の子”ってやつ。仮に、今の状況でその子が目の前に現れたとしたら……アンタはどうすんの? 小咲ちゃんが好きなままで、でもそれとは別の“約束の子”が現れたら――?」

 

楽「……」

 

言葉に、詰まった。

本気で、考えたことがなかった。

いや――考えるのが、怖かった。

 

楽「……分からん」

 

答えは、呆れるほどに、弱かった。

千棘は、一瞬だけまばたきして、そして、小さく鼻で笑った。

 

千棘「何それ。バカみたい。アンタの決意ってそんなもん?」

 

声には、怒りも呆れもなかった。ただ、静かな、悲しみがあった。

 

千棘「今好きな子と約束の女の子、どっちを選ぶかはっきりしてません! でもどっちも好きでどっちも大事なんです〜とでも言いたいわけ? なんなの? それ。マジで思考回路どうなってんの?」

 

冷たい風が、二人の間を吹き抜ける。

楽は何も言い返せない。

千棘はゆっくりと立ち上がった。

立ち上がる動作は、驚くほど静かでーーそれがかえって、痛々しかった。

 

楽「……色々複雑なんだよ。理解できねーだろうけど…」

 

千棘「そーですか。ま、それはいいわ。……それに、私はどうなるわけ?」

 

千棘は、背中越しに呟いた。

 

楽「へ……? お前?」

 

千棘「せっかく……オシャレして、勇気出して、“ダーリン”って呼んでみたのに」

 

声は、かすかに震えていた。

 

千棘「アンタから出るの話は約束の女の子だの、小咲ちゃんの話だの……そんなんばっか。なんで私がこんな……こんな思い、しなきゃなんないのよ……」

 

背を向けたまま、千棘の肩が、ほんのわずかに震える。

楽は、言葉を失った。

こんな千棘を見るのは初めてだった。

 

楽「それは……悪かった。確かに、もっとお前のことを見るべきだったな。仮のデートとはいえ」

 

千棘「ふん……反省したフリでしょ、どうせ。ま、せいぜい、悩んでなさいよ」

 

冷たく突き放すような声。

でも、その背中は、どこか小さく見えた。

 

千棘「約束の女の子か小咲ちゃんか……その、答えの出ない問いに――ね」

 

それだけ言うと、千棘は夕闇に溶けるように歩き出した。

楽は、ただ呆然と、その小さくなる背中を見送るしかなかった。

 

ーーー

帰り道・ショッピングモール前

 

ショッピングモールのガラス張りのウィンドウに、

千棘の姿が映っていた。

彼女は立ち止まり、鏡のようなガラスに映る自分をじっと見つめる。

 

千棘「……はーあ、うっざ〜い!! うざいうざいうざい! 嫌い嫌い嫌い!!」

 

ひとりごとのように、ぽつりと漏らす。というか叫ぶ。

 

千棘「なによ……小野寺小野寺って、あのバカ……約束の女の子がどうとか……そんな話ばっかして……」

 

鏡に映る自分。

巻いた髪。

薄く整えたメイク。

ピンクのブラウスに、ふわりと揺れるスカート。

デート用に、一生懸命考えた格好だった。

 

千棘「……そんなに、わたしって……魅力、ないのかな……」

 

その言葉は、小さく、そして、弱く。

自分で口に出したその瞬間、胸にぐさりと刺さった。

千棘は、唇をきゅっと噛んだ。

 

千棘(……ダメだな、私。こんなつまらないことで落ち込むとか、それこそ愚の骨頂じゃない? 笑顔笑顔)

鏡の中の自分に、そう言い聞かせる。

強くなきゃ、いけない。

笑ってなきゃ、いけない。

春の夜風が、ピンクのスカートをふわりと揺らした。

千棘は、小さく、小さく、ため息を吐きながら、

もう一度だけ、鏡の中の自分に微笑んだ。

そして、背を向けて、夜の街に消えていった。

 

ーーーーー

小咲の部屋・夜

 

カーテンの隙間から、街灯の明かりが差し込んでいた。

部屋の灯りは消され、外の光だけが、薄く小咲の横顔を照らしている。

私服姿のまま、ベッドにうつ伏せになる小咲。

手の中には――

あの金色の小さな鍵。

ぎゅっと胸に抱きしめる。

 

小咲「……あのふたり、付き合ってたんだ」

 

小さな声。それは、誰にも聞かれることのない、独り言だった。

 

小咲「……そっか。そうだよね」

 

自分に言い聞かせるように、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

 

小咲「一条くんは……優しいし、素敵な人だもん。

桐崎さんも……綺麗で、明るくて、目立つし……」

 

言葉を重ねるたび、喉の奥がきゅっと苦しくなる。

 

小咲「……全然、付き合っていても不思議じゃない……。うん、応援……してあげなきゃ……」

 

けれど、声が震えた。

喉の奥が、熱くて。

胸の奥が、痛くて。

小咲は、唇を噛んだ。

必死に涙をこらえようとした。

でも、どうしても――抑えきれなかった。

 

小咲「だめ……泣いちゃダメ……素直に喜んであげないと……」

指先に力が入る。

小さな鍵が、掌に食い込むくらい、強く、強く。

その時ーーその鍵がまたほんのりと光った。

まるで、小咲の痛みを受け止めるみたいに。

 

小咲「ん……また、光ってる?」

 

微かに震える声。

小咲は、そっと目を閉じた。

 

小咲「……これは、わたしに……何かを伝えようとしてるの……かな?」

 

問いかけるように、けれど誰にも届かない声で。

涙が、一雫が鍵の上に落ちた。

冷たい鉄の表面に、ぽつりと光る涙の粒。

 

小咲「でも、もう……」

 

そこまで言いかけて、言葉は消えた。

小咲は、鍵を両手で大事に包み込む。

そして、静かに――

もう一度、ぎゅっと抱きしめた。

街灯の明かりが、そっと揺れる。

夜の静寂の中で、小咲は小さな光を胸に目を閉じた。

その胸の中に、消せない想いだけが、確かに灯っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。