ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
夜、夏祭り。
境内の提灯がやわらかく灯り、屋台から立ちのぼる香ばしい匂いと、笑い声と、鈴の音が入り混じる賑わい。
参道を埋め尽くすほどの人混みの中、楽はそわそわと待ち続けていた。
楽「はぁ……まだかな……いや、でもあんまり早く来られても困る……だって、心の準備が……」
袖で汗を拭いながら、彼はまるで修学旅行前夜の中学生のように落ち着かない様子。
楽「小野寺と夏祭りデート……しかも浴衣……これはもう、地球で一番尊いイベントだろ……。ちょっと本気で、見た瞬間に昇天する可能性あるからな。脳内録画モード、最大感度で行こう。いや、もちろん写真も撮るけど!」
そんなことを考えているとーー
小咲「おまたせ、一条くん!」
振り向いた先にいたのは、浴衣姿の小咲。
白地に淡い水色の朝顔模様が散りばめられた浴衣に、光を受けてやさしく艶めく栗色の髪。
うなじからのぞく首筋と、いつもより大人びた表情。
思わず、通りがかったカップルすら「えっ、めっちゃ美人…!」と振り向いてしまう美しさだった。
小咲「ど、どうかな……? 変じゃない?」
小咲は恥ずかしそうに、楽の前でくるっと一周した。
楽「………………」
数秒の沈黙ののち、楽はため息をつく。
楽「……俺もう、今日ここで死んでもいいかもしれない」
小咲「えっ?! な、なんで?!」
楽「いや、小野寺がかわいすぎて……いや、ホントに……マジで日本の宝だよ、小野寺は。……国の保護案件……文化遺産……いやむしろ世界遺産?」
小咲「ちょ、ちょっと! 言いすぎ! ……でも、ありがとう///」
小咲、照れくさそうに微笑みながら、小さく手を合わせる。
小咲「でもほんとに、楽しみだね。こういうデート……ずっとしてみたかったんだ」
楽「俺もだよ、小野寺……(ニヤけが止まらない)」
楽、もはや目がイってる。
見開いたまま戻らない。
小咲「ちょっと! 一条くん! 顔、顔っ!!ww」
ふふっと笑いながら、うちわで楽の頬を軽くあおぐ小咲。
その甘いやりとりは、まるで周囲の喧騒を一瞬で凪がせるほどの破壊力だった。
しかし、そんな二人を、やや離れた場所から見ている少女がいた。
千棘「……はぁ、たまたま近くで夏祭りやってるから見に来ただけなのに……この光景見せられるとはね」
浴衣ではなく、私服の短パンスタイルでアイスをペロリ。
だがその目は、明らかに二人を“見る”というより“睨んでいた”。
千棘「つくづく、縁があるんだか、ないんだか……」
?「ごきげんよう、桐崎さん♪」
千棘「っ……橘万里花!」
浴衣姿で現れた万里花は、ピンクの撫子柄の艶やかな装いに、完璧に整えられた髪。
おまけに扇子を優雅にあおぎながら現れるという、お祭りの場においても“舞台仕様”。
千棘「……アンタも来てたのね。でも残念だったわね。アンタの好きな《楽様》なら、あの通りーーもう先約済みよ?」
万里花「だから?」
千棘「……へ?」
万里花「確かに、現時点では彼女の隣にいる。ですが、それが一晩中続くとは限りませんわ?」
千棘「……なに言ってんの?」
万里花「この人混みですもの。ふとしたタイミングで……“はぐれる”なんて、よくある話。ええ、よくある話ですわね? ふふふふ……♪」
千棘「ちょ……アンタ、なに企んでんの……っ!? めちゃくちゃ悪役っぽい顔してるけど?!」
万里花「わたくしはただ、自然に起こり得る偶然を期待しているだけですわ♪」
千棘「本当に!?」
万里花「さ、楽様を追う準備をいたしましょうか♪」
千棘「いやいや、ストーカーじゃんそれ!! ちょ、待ちなさいよ!」
静かに、だが確実に、波乱の夜が始まりを告げようとしていた。