ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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恋むすびは誰の手に?


オムスビ

神社裏手の静かな通路にて

 

万里花「ふふふ……ところで桐崎さん?」

 

千棘「……ん? なに?」

 

万里花「あなた、何も考えていないようで、ちゃっかりしていらっしゃるのね?」

 

千棘「ちゃっかり? なによ、いきなり」

 

万里花「ふふ、しらばっくれてもムダですわよ。あなたも、このお祭り限定の“恋のスーパーミラクルアイテム”……《恋むすび》を狙って来たのでしょう?」

 

千棘「……は? 濃いおむすび? 何それ、具がぎっしり的な?」

 

万里花「……はぁあああああああ!!」

 

万里花、一歩下がって額に手を当て、苦悶のポーズ。

 

万里花「その顔……その反応……とぼけているのなら相当な策士ですわ。まったく、油断ならないお方」

 

千棘「いや、ほんとに知らないんだけど……」

 

万里花「ま、いいですわ。無知なフリをしているだけかもしれませんが、アナタのためにご説明いたしましょう。このわたくしが! 直々に! 特別に!」

 

千棘「あ、いや、別に説明はーー」

 

万里花「聞きなさいッ!!」

 

千棘「えぇ……(頼んでないのに……)」

 

万里花「“恋むすび”とはーー!!」

 

ババーン!!(効果音:どこかで謎の太鼓が鳴った)

 

万里花「この夏祭り限定、1日30個限定で販売される、恋愛成就のご利益があるという超激レアお守り!なんでも、持っているだけで両想いになれる確率が3倍になるとか!『都市伝説級』の効果があると噂され、持っているだけでとんでもなく強力な恋愛成就力を発揮するという、ありがたすぎるお守りなのです! いくら全てを兼ね揃えたわたくしとはいえ、さすがに運だけはどうにもならない! まさにわたくしにとって超必須なアイテムなのですわぁぁ!!!」

 

千棘「お、おぉ……?(いつの間にメガネを……?)」

 

万里花「その人気は毎年販売直後に即完売! わたくしの情報網と財力をもってしても、去年は手に入らなかったほど……!」

 

千棘「へ、へぇ……。てか、え? 去年も狙ってたの?!」

 

万里花「もちろんですッ!! あの時の屈辱、今も忘れません! 数百人の人だかりでごった返した行列に単身で乗り込み、あと2人というところで完売……!わたくしのほろ苦い青春ですわ……!」

 

千棘(え、めちゃくちゃガチな人気じゃん……?)

 

万里花、両手で頬を包み、うっとりした表情。

 

万里花「ふふ、今年こそは必ず手に入れてみせますわ。“楽様との恋”の決定打として……!」

 

千棘「……それ、ご利益の方向性ズレてない?」

 

万里花「ですが……ただ買いに来ただけで、楽様たちがそれを手に入れてしまっては意味がないでしょう?」

 

千棘「いや、それは別にいいんじゃ……?」

 

万里花「いいえ!! あんなアイテムが小野寺さんの手に渡ったら……それこそ最悪の展開!! 鬼に金棒! 弁慶に薙刀! 小野寺小咲に恋むすびですわ!」

 

万里花、バッとスマホを取り出し、画面を操作。

 

万里花「ですから、わたくし……すでにこの祭り会場に、総勢200名の刺客を投入しておりますの♪」

 

千棘「……し、刺客?!」

 

万里花「この街のありとあらゆるエリート女子、令嬢仲間、さらにはメイド隊の一部を動員! 目的はただ一つ、“恋むすび”の買い占め!! ふふ……この祭りの“恋”という“恋”をわたくしがすべて制するのですわぁぁぁ!!」

 

千棘「いやいやいや、こっわ!? 完全にもう悪役のそれじゃん! 美食會の食材の独占みたいじゃん!」

 

万里花「何を甘いことを言ってますの? 恋とは戦争。ならば、準備と物量で制するまでですわ! さぁさぁ、そろそろ販売時間ですわよ! うふふふふふ!!」

 

千棘(……こいつの執念、ある意味尊敬するわ)

 

夜祭の火蓋が、音もなく切られた。

 

ーーーーー

裏通り、神社の境内の陰

 

万里花は浴衣の袖から取り出した無線機に、まるで軍指揮官のような口調で命令を下していた。

 

万里花「A班、四時の方向からブロック。B班、空きスペースを経由して購入エリアへ突入。C班、引き続き楽様たちの動向を逐一モニタリング。遅れるのは許されませんわよ?」

 

千棘「……ねえねえ、マジでやってるわけ?」

 

目を丸くしながら、隣でぽつんと立つ千棘。

片手に持ったりんご飴が妙に場違いだった。

 

万里花「ふふ。大マジですけれど?ですが――そんなわたくしの後ろに、ぴったりついて来ている方が一人いらっしゃいますわね? あぁ、あなたのことですよ? 桐崎さん?♪」

 

千棘「な……そ、それは……! アンタがやりすぎないか、見張ってるだけよ!」

 

万里花「はいはい。嘘が下手ですわね」

 

万里花、くるりと振り返り、挑発するように微笑む。

 

万里花「桐崎さん……貴女、気のないフリができていると思いますの? はっきり言って、楽様に好意があること、わたくしにはバレバレですわよ?」

 

千棘「……え? は?! な、何言ってんの?! 何回も言ってるでしょ、私とアイツは偽物の恋人で、実際にはーー」

 

万里花「貴女を最初にみた時、あからさまに表に出さないのは、恋の駆け引きの一環かと思っていましたけれど……どうにも違うようですね。今となっては、ただの“怖がり”にしか見えませんわ」

 

千棘「っ……ちょ、ちょっと待ってよ。アンタ、なに勝手に決めつけて――」

 

万里花「惨めですわね、桐崎さん。本当に情けない。はっきり言って軽蔑します」

 

ピシャリと放たれたその言葉は、まるで冷たい水のように千棘の胸に落ちた。

 

千棘「……っ、そこまで言う? さすがに私だって怒るよ…?」

 

万里花「怒れば? でも事実でしょう? 見ていて鬱陶しいのですよ、あなた。好きなら好き、それでいいじゃありませんか。その気持ちを隠したまま、どっちつかずでフラフラフラフラ。わたくしや小野寺さんをみてごらんなさい? 誰も気持ちを隠してはおりませんよ? 桐崎さん、貴女のやってることは恋愛ではなく“自己保身”ですわ。あなたは傷つくのを恐れすぎている」

 

千棘「……っ、そんなこと……言われなくても分かってる。 分かってるけど……!だって、楽と“偽物の恋人”になったその直後に、小咲ちゃんと付き合い始めたんだよ……? 私の入り込むタイミングなんて、もう…」

 

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万里花「言い訳ですわ。それを言ったら、わたくしなんてあなたと小野寺さんーー二人の彼女がいる状態から参戦してますのよ? でも、諦めてなどおりません」

 

千棘「……アンタは、強いよ。自分に厳しいし、自信もあるし、行動力だってあるし。私は……あんたみたいに、強くなれない……」

 

万里花「……桐崎さん」

 

万里花、少しだけトーンを落としながらも、真っ直ぐに言葉を続ける。

 

万里花「あなたは自己評価が低すぎますわ。あなた、本気で思ってるんですか? 楽様があなたのことを何とも思ってないって」

 

千棘「……え?」

 

万里花「ま……どう感じて、どう動くかはあなたの自由ですけれど? わたくしから見ればーー『こいつ、何やってんの?』状態ですのよ?」

 

千棘の喉が詰まり、言葉が出ない。

万里花は小さく息をつき、無線機をもう一度口元に持ち上げた。

 

万里花「……さて、わたくしはB班と合流して、この手で“恋むすび”を手に入れに行きますわ! 桐崎さん、くれぐれも道を塞がないようにお願い致しますわね? それでは、ごめん遊ばせ♪」

 

背中を翻し、祭りの喧騒の中へと消えていく万里花の姿。

千棘はその場に立ち尽くしながら、小さく吐き捨てる。

 

千棘「ムカつく……けど、何も……言い返せなかった……」

 

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夜空には、まるでその葛藤を見透かすような花火がひとつ、静かに弾けていた――。

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