ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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小野寺さんの不安の種はますます大きくなっていきます。


カタスミ

夜の祭囃子が、まるで遠くの夢のように聞こえていた。

人混みのざわめきも、屋台の笑い声も、ここには届かない。

 

人気のない裏通りの片隅。

細い路地に面した木陰のベンチに、小咲はぽつんと腰を掛けていた。

 

俯いたその肩は、何度も小さく震えていた。

握られた手の中には、ようやく手に入れた恋むすびがある。

だが、その存在が、今はただ胸を苦しめていた。

 

小咲「どうして、あの瞬間を見てしまったんだろう……」

 

胸に浮かぶ後悔と、込み上げる感情に押しつぶされそうになっていた、その時。

 

楽「おーい、小野寺〜! ……小野寺ーっ!! どこだよ……」

 

聞き慣れた声が遠くから近づいてきた。

だけど小咲は声を上げなかった。

もう、顔を見せられる自信がなかった。

足音が止まり、影が差す。

 

楽「……小野寺!! いたっ、よかった!心配したぞ、ずっと探してて……!」

 

小咲はゆっくりと顔を上げた。

頬には乾きかけた涙の跡。

目は赤く、視線を合わせることを避けるようにうつむく。

 

楽「え……? な、泣いてたの?」

 

小咲「……一条くん、ごめんね……。あのあと、すぐ追いついたんだけど……でも……声をかけられなかったの」

 

楽「え? 声かけられなかったって?」

 

小咲「千棘ちゃんと、話してたよね」

 

楽「あ、ああ……。たまたまあのあと、千棘が目の前に現れてさ。でさ、さっき俺が投げた偽物の恋むすび、あるじゃん? それをあいつが持ってたんだぜ?マジでこんな偶然あるって感じだろ?ww」

 

小咲「……そうなんだ。ほんと、すごい偶然だと思う。まるで……運命みたいだね」

 

その声は、笑っているようで震えていた。

押し殺すように、崩れないように、必死に気丈に振る舞おうとしていた。

 

楽「小野寺? 大丈夫か?」

 

小咲「……それに比べて、わたしは、せっかく恋むすびを手に入れたのに、その直後に一条くんと離れちゃって……。何やってるんだろうね……あはは……」

 

自嘲気味に笑うが、その瞳には再び涙が浮かんでいた。

 

小咲「むしろ、わたしも逆に運命を感じちゃったよ。ああ、わたしは、どんなに頑張っても一条くんには届かない存在なのかなぁ、って」

 

楽「待て待て待て! なんで!? あ、もしかして、俺が千棘に恋むすびをあげるところを見てた? それで、そんな風に……」

 

小咲「……うん。ごめんね、盗み見るつもりはなかったんだ。でも、ホント、話しかけようとしたらそういうタイミングで、声かけられなくて」

 

楽「ああ、そういうことね! あれはーー」

 

小咲「一条くん……千棘ちゃんのこと、好きなの?」

 

一瞬の間。

2人の間に夏とは思えない肌寒い風が吹いた。

 

楽「え?! ち、ちがっ!! 小野寺、それはマジで誤解! とんでもない勘違いだから! 俺が好きなのは小野寺でーー」

 

小咲「ねぇ、一条くん。知ってた? 男の人が女の人に恋むすびを渡すのって……プロポーズの意味があるんだよ」

 

楽は目を見開いて驚く。

 

楽「……えっ……は、はあああ!? プ、プロ……は? 誤解だ誤解! そんな意味、俺は知らなかった!! 信じてくれ、小野寺! 俺はただ、千棘が恋むすびを持ってなくて不憫だから……!」

 

小咲「……うん、分かってるよ。よく知らなかったんだよね。でもね……結果として、あげちゃったんだよね? 千棘ちゃんに。プロポーズの意味になるものを、無意識に……」

 

楽「い、いや、それは……そうかもしれないけど!」

 

ぐっと、唇を噛む小咲。

楽は口を挟もうとするが、何を言っていいか分からず挟めない。

その瞬間、ひとしずく、ぽとりと足元に涙が落ちた。

 

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小咲「そういうところが、また、運命を感じるんだ。一条くんと千棘ちゃんはくっつく運命……。そして、わたしと一条くんは、離れる運命……。運命の神様が、わざと、こうしてるのかな?『どんなに紆余曲折があろうと、最終的にこの物語は、一条くんと千棘ちゃんがくっつかないとダメー!』みたいにさ……?」

 

楽「小野寺……そんな悲しいこと言うな。俺、本当に……全然そんなつもりなかった。信じてくれるか?」

 

小咲「うん、信じてる。信じてるんだよ? 一条くんが、私のことを一番に考えてくれるって、信じてるし、普段の行動からもちゃんと感じるの。でも……わたし、たまにどうしても未来が不安になっちゃって……。なんでかな。先のことを考えると、すごく怖くなる時があるんだ」

 

嗚咽が混じり始めるその声に、楽はもう、何も言えなかった。

ただ横に立ち尽くし、小さく震える彼女を見つめる。

 

楽「……ごめん。ほんとに、俺が悪かった。小野寺のこと、傷つけるつもりなんてなかったのに……」

 

小咲「うん……わかってるよ。ごめんね。変なことばかり言っちゃって……。もう、わたし、自分自身が情けなくなってくる」

 

楽は、ただそっと小咲の隣に腰を下ろした。

何も言わず、ただ彼女の震える肩を見守るしかなかった。




刺客A「お、お嬢様……これは?!」

万里花「ああ……全部アナタにあげますわ……。今日はご苦労様……」

刺客A(……こんなの持ってたら逆に呪われそう……)
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