ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
翌朝・凡矢里高校 教室
カラン――
教室のドアを開けた瞬間、
楽は頭の中が真っ白になった。
クラスメイトA「一条ぉ〜!!リア充爆発しろー!!」
クラスメイトB「桐崎さんと付き合ってんのマジだったの!?こえーよお前の運!!」
クラスメイトC「キスは!?初デートは!?お前もう俺たちの仲間じゃねえのか!?なぁ!?」
楽「おいおいおい!? なんで知ってんだよ!?
誰に聞いた!? お前ら千棘の手下か!?」
教室中がわーわーと騒がしく、まるでお祭り騒ぎだった。
千棘は、自分の席で机に突っ伏しながら呟く。
千棘「……はぁ。なんで私がこんなめんどくさい演技を延々続けなきゃいけないわけ……」
楽「俺のセリフだからなマジで!!」
ザワザワと騒ぐ教室を後にして、楽は一人、廊下を歩き出した。
そのとき、ふと角を曲がった先に、彼女はいた。
小咲「……あっ、一条くん」
楽「う、うおっ!? あ、おはよう、小野寺」
ぎこちない挨拶。
その場に流れる、少し重たい空気。
しかし、小咲の右手に握られているのは……鍵ーー
楽(え……あの鍵って……まさか?)
明確に覚えていたわけじゃない。
ただ、見覚えがある。
というより、なんとなく、見たことがある気がする。
知っているような気がする。
記憶というよりは、もっと奥底に沈殿しているモノ……そんな感覚だった。
楽(……聞いて確かめるしかない。それに、昨日の誤解も解きたいしな。ちょうどいいや)
決意を固めて、楽は口を開いた。
楽「……小野寺、その……話があるんだけど……」
その言葉に、小咲の瞳がかすかに揺れた。
小咲(話……? まさか……桐崎さんと付き合ってるから、もうあんまり関わらないでって……そんな……? ムリ、ムリ……聞きたくない……絶対泣いちゃう……!)
楽「小野寺?」
小咲「う、ぅ……わぁぁぁぁ!! ご、ごめんっ!!」
パニックになったように叫び、
踵を返して駆け出した。
楽「えっ!? なんでぇぇぇ!? ま、待って!」
慌てて楽も追いかける。
朝の日差しに染まる廊下を、二人の足音が駆け抜けていった。
ーーーーー
屋上・朝
鉄柵の向こうは真っ青な空。
風が、少し強く吹いている。
ようやく追いついた楽は、息を切らしながら、小咲の背中を見つめた。
楽「……ぜぇ、はぁ……なんで逃げんだ? しかし、マジで足速ぇな……」
小咲は、肩を小さく震わせながら、
俯いたまま、答えた。
小咲「……だ、だって、それは……」
声はか細くて、今にも消えそうだった。
楽は、そんな小咲をそっと見つめ、静かに一歩、近づく。
そして――覚悟を決めた顔で、口を開いた。
楽「なぁ、小野寺。……前に話したこと、覚えてる?
10年前に、ある女の子と約束したって話」
小咲「……うん」
小さな声で、小咲は答えた。
楽「顔も名前も思い出せねぇけど、でもその子と“再会する”って、信じてた。あのペンダントも、全部、その時の印なんだ」
太陽が楽の胸元のペンダントを、より金色に染める。
楽は、ちらりと小咲の手元を見た。
楽「さっき、偶然……小野寺が、大事そうに抱えてた鍵を見ちまったんだ。なんとなく、見覚えがあってさ。根拠はないんだけど……でも、確かめたいことがある」
楽は、まっすぐに小咲を見つめた。
楽「小野寺がーーあの時の、約束の女の子か?」
小咲は、唇をきゅっと噛んだ。
そして――
静かに、うなずいた。
小咲「うん。……そうだよ、わたしだよ。多分……なんだけどね」
楽「……!」
驚きで言葉を失う楽。
小咲は握りしめていた手のひらをゆっくりと開き、そっと金色の小さな鍵を楽に見せる。
小咲は、震える声で続けた。
小咲「わたしにも、10年前にある男の子と再会の約束をした記憶があるの。まだ5歳のときだったから、名前も、顔も、曖昧だけど――ひとつだけ、確かに覚えてるものがあるの」
小咲の瞳が、そっと楽の胸元を見つめた。
小咲「……そのペンダント。……わたしの記憶にあるのと、同じだよ。それだけは明確に覚えていて、間違いないんだ」
楽「えっ、マジで?」
小咲「うん。わたしが約束した子も、それをつけてた。ね? すべて……ピッタリ一致するの」
楽「……マジか……」
楽は、無意識に、胸のペンダントをそっと握りしめた。
楽(ほんとに……? 小野寺が……)
嬉しさと、驚きと、怖さと――いろんな感情が、胸の中で渦巻く。
楽「じゃあ……やっぱり……小野寺が“約束の女の子”で、このペンダントの“鍵”を持ってたってこと?! ははは……そんな偶然、ありえるのか……? いや笑い事じゃないけどさ!!」
小咲は、再びそっと、鍵を握りしめた。
小咲(……それを、簡単に確かめる方法はある。この鍵でペンダントを開ければいいだけ。それだけで、私と一条くんが約束の子同士だって、証明できる。
でも――
もし開かなかったら?
もし、私が違ったら――?)
小咲の手が、ぎゅっと震える。
その瞬間――
頭の中に、ふわりと映像が流れ込んできた。
小咲「う…………これは……?」
鍵が見せた、謎の追憶の断片。
──天駒高原。
──夕方。
──真剣な表情で向き合っている楽と小咲。
そして。
小咲(映像の中)
「一条くん。……わたし、一条くんが好きです。
ずっと、ずっと好きでした――」
楽に告白する自分の姿。
小さい頃の記憶でも、回想でもない。
これは一体何か…?
しかし、映像の楽は返事をしない。
ただ、泣くだけだった。
それが、残酷な告白への答えとなっていた。
小咲(映像の中)
…どうして、一条くんが泣くの…?
そう言って、小咲と楽が泣き崩れたところで頭の中の映像は止まった。
小咲「……うっ! な、なに、これ……」
ハッと意識が現実へ戻る。
手の中の鍵が、ほんのりと温かかった。
小咲(今のは……未来? それとも……別次元の何か…?)
根拠なんて、どこにもない。
けれど、胸の奥が、強く訴えてくる。
小咲(いずれにしても、あの映像は確かなものじゃない。けれど、あれは多分、“もしこのまま進めば起こる”訪れるであろう未来…なのかな? 根拠はないけど、なんとなくそう思うんだ)
小咲(つまり……あの映像の場面で告白してもーー遅かった……ってこと……?
見た目はそう変わってなかった。
おそらく、まだ高校生。
じゃあ……今は?
今なら……間に合うっていうの?
でも……わたし……そんな勇気……)
鍵が光る。暖かい。
まるで、自分の背中を押してくれているようだった。
小咲(……うん、そうだよね……ありがとう、鍵。ダメ、逃げちゃダメなんだ。わたし、逃げないよ……!)
小咲は鍵を握ったまま楽を見つめる。
小咲(今なら――まだ、間に合うと思うから!)
そして、楽を真っ直ぐに見上げて――
小咲「ねぇ、一条くん。……わたしの鍵で、そのペンダント――開けてみない?」
楽の目が、静かに見開かれた。
2人の運命が、今、錠と鍵で繋がろうとしていた。