ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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万里花さんみたいな子がクラスにいたら楽しいだろうな〜といつも思う。


イワカン

夏休み明け・教室にて

 

夏の終わりを告げるかのように、重たい雲が窓の外を漂っていた。

チャイムが鳴り終わった教室には、生ぬるい空気と、夏休み明け独特の“現実への違和感”が漂っている。

机にはプリントの束、黒板には“文化祭準備”の文字。

だが、楽はそのどれにも目をやることなく、ただ窓の外をぼんやりと見つめていた。

ペンを持つ手は動かず、ノートの端に書きかけた文字は、かすれて滲んでいる。

 

万里花「……ねえ? 楽様?」

 

柔らかく響く声が、教室のざわめきに溶け込む。

だが、楽はぴくりとも反応しなかった。

 

万里花「らーくーさーまー?」

 

今度はやや語尾にかけて引っ張るように、椅子を少し前に引いて身を乗り出す。

クラスの何人かがクスクスと笑った。

 

楽「……あ? ああ、橘。どうした?」

 

ようやく振り返った楽の顔は、どこか疲れ切っていた。

目の下にはうっすらとクマが浮かび、昨日もあまり眠れていなかったことを物語っている。

 

万里花「ふふ。おやおや、どうやら魂がどこか遠くに旅立っていらしたようで?」

 

楽「……いや、まあ、ちょっとな」

 

机に肘をついたまま、気だるそうにため息をつく。

その視線はまた、窓の外に吸い込まれていった。

 

万里花「それもそのはずですわよね。あのメスゴリラと小野寺さん……お二人とも、夏休み明けから一度も登校しておりませんもの。もう、一週間になりますわ」

 

楽「千棘は、まぁ……退院したばかりだからな。

家の人が大事をとって止めてるらしい。……多分あいつ自身は行きたがってると思うけど」

 

万里花「ええ、あの方ならそんな気がします。えらく頑丈なイメージしかございませんもの。……あ、これは褒めておりますのよ?♪」

 

楽「……まあ、間違ってないけどなww」

 

万里花は机の上で指を組み、控えめに微笑んだ。

けれど、楽の目はどこか虚ろなままだった。

 

楽「でも……小野寺は、マジでわからん。何通かLINEしてるけど、返事はいつも “大丈夫だよ” とか“心配ないよ”とか、そんな内容だけ。本当に大丈夫な人が送ってくる感じじゃないんだよな……」

 

その言葉に、万里花は初めて真剣な顔をした。

しばし沈黙が流れる。

 

万里花(……まあ、わたくしに容易に想像がつきますが……これはあくまで楽様と小野寺さんの問題ですものね)

 

楽「……はあ」

 

深いため息が、机の上に落ちる。

肩の力は抜け、どこか弱音すらにじんでいた。

 

万里花「ま、そんなことはさておき♪」

 

楽「“さておき”って、お前なあ……」

 

やや呆れた声に、万里花は悪びれもせず手をひらひらと振った。

 

万里花「今、楽様とお話したいのはーー文化祭でやる演劇のことですの♪」

 

楽「……は?」

 

思わず眉をひそめる楽。

 

万里花「ロミオとジュリエット。ご存知ですわよね?

なんとこのたび、わたくしの提案により、“ロミオ:一条楽” “ジュリエット:橘万里花” という黄金配役案に、過半数の賛同が得られましたの♪」

 

楽「……お、おいおいおい。俺、聞いてねぇぞ?!」

 

万里花「聞かされる前に決まってることの方が、人生には多いものですわよ♪ 税金なんてほとんどそうでしょう? さあさあさあ、どう思います? この現実♪」

 

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楽「……いや、どうって言われても。てか、ちょっと待って、ほんとにロミオ俺なの?」

 

万里花「ええ♪ 本日午後のホームルームで正式決定ですわ♪」

 

その笑顔はあくまで優雅だったが、そこには有無を言わせぬ圧力が宿っていた。

楽は額に手をあて、頭を抱えるようにして深くため息を吐いた。

 

楽「……俺、今日小野寺の家、寄ってくるわ。学校終わったら」

 

静かな声だった。

でもその決意は、紛れもない本心からだった。

 

万里花の笑みが、少しだけ揺れる。

それでも、彼女はゆっくりと瞳を細め、言葉を選ぶように頷いた。

 

万里花「……はい。その方が、よろしいかと思いますわ」

 

わずかに目を伏せた横顔。

そこには、意地や嫉妬よりも、ただ静かな理解があった。

 

楽「……ありがとう。いつも声かけてくれてありがとな、橘」

 

万里花「い、いえ! 当然じゃあ、ありませんか♪」

 

万里花(今の不意打ちのお礼はズルいですわ……///)

 

そしてーー

 

楽「で、ジュリエットはお前で確定な感じ……?」

 

再び現実に引き戻され、やや渋い顔で問い返す。

万里花は、まるで待ってましたと言わんばかりに、すっと背筋を伸ばし、右手を胸に当てて微笑んだ。

 

万里花「ええ、もちろんですわ♪ 舞台上とはいえ、楽様と“ロミジュリの口づけシーン”……うふふふ♪ 今から練習しておきます?///」

 

楽「いやいや、ないからな!? 文化祭だぜ?! そういう攻めたシーンは映画とかの世界だからな!! そもそも俺と橘がキスなんてしたらーー」

 

楽の叫びに、周囲のクラスメイトたちが一斉に振り返る。

それに気づいた万里花は、まったく動じず、しれっと人差し指を唇に当てて囁くように微笑んだ。

 

万里花「しーっ、楽様? ここは学校ですわよ? いくらわたくしとの口付けに興奮するからって、公私混同なさらないように♪」

 

楽「いやお前だろ、混同してるのwww」

 

万里花「まぁまぁ♪ 細かいことは脚本家と演出家の匙加減によりますからね♪ でも、脚本はある程度操作可能ですし」

 

楽「ん? 操作?」

 

万里花はスッと手を挙げ、人差し指と親指を丸くして、お金のジェスチャーを静かに提示した。

誰にも見えないように、その仕草は楽だけに向けて。

 

楽「……お前、また金でゴリ押ししようとしてるな?!」

 

万里花「まあまあまあ、そんな言い方よくないですわよ? “賄賂”ではなく、“助成金”ですわ。あくまで“適正支援の範囲内”にて、公式に出資させていただいておりますの♪」

 

楽「それを“ゴリ押し”って言うんだよ……!」

 

楽の声は、もはや呆れを通り越して虚無に近かった。

とはいえ、周囲のクラスメイトたちは既に“演劇モード”に盛り上がっており、その空気の中で「ロミオ=楽」「ジュリエット=万里花」は、既成事実として受け入れられつつあった。

黒板の端には、いつの間にか誰かが書き加えた名前の一覧。

 

キャスト案(仮)

ロミオ:一条 楽

ジュリエット:橘 万里花

 

楽(……このままだと、本当に“そういう劇”になりかねないぞ……)

 

万里花のほうを見ると、まるで“すべて想定済み”とでも言いたげな自信満々の笑顔。

その目は、勝利の女神のように穏やかで――しかし、抜け目なさが滲んでいた。

 

楽(って……何をこんなことにマジになってんだ? 千棘も小野寺いねぇ教室で……何やってんだ、俺は……)

 

心の奥に、小さな罪悪感のようなものがふと揺れた。

そして、窓の外に目をやる。

空は高く、どこまでも晴れていた。

けれど、胸の中には、まだ晴れそうにない曇り空があった。

 

楽(小野寺……今日、会いに行くからな……!)

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