ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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ジュリエット役は誰の手に?!


コウヘイ

翌朝・教室

 

教室のドアが開くと同時に、まぶしい朝の光が差し込んだ。

その光の中をふわりと包むように、小咲が姿を現した。

登校は久しぶりのはずなのに、その佇まいにはどこか凛とした気配があった。

 

小咲「おはよう、一条くん!」

 

その声は穏やかで、けれどどこか芯があって。

 

楽「お、おう! おはよ、小野寺!」

 

言葉に詰まった自分の間抜けさに内心あたふたしつつ、

それでも、久しぶりに教室で見た小咲の笑顔に胸がほんのり熱くなる。

ふたりの視線がふと交差する。

 

一瞬。

 

何も言わず、そっと目をそらす。

だけど、その耳はほんのり赤く染まっていた。

 

だが、そんな甘くも穏やかな空気をぶち壊す音が、教室の奥から響いていた。

 

コン、コン、コン――ッ

 

リズミカルに机を叩く音。

そこには頬杖をつき、明らかに不機嫌モードの万里花。

 

楽「……珍しいな、橘がそんな露骨に機嫌悪いとか。何があった?」

 

万里花「……ジュリエットですわ」

 

視線わ合わさず、ジト目で遠くを見つめたまま万里花は答えた。

 

楽「……ああ、あの文化祭の劇の?」

 

万里花「そうですの。楽様が昨日ご帰宅なさった後、一部の生徒が“桐崎さんと小野寺さんが不在の中でジュリエット役を決めるのは不公平だ”などとーーああ、まったく、理解に苦しむ発言をなさいましてね?」

 

楽「あ〜……そうなんだ」

 

万里花「そこで、わたくし、寛大な心でこう申し上げましたの。“では後日、3名それぞれにアピールタイムを設けてから再投票いたしましょう”と♪」

 

楽「……アピールタイム……?」

 

万里花「はい♪ 簡単にいうとプレゼンテーションですわね♪」

 

楽「すごいな、文化祭のジュリエット役のためにプレゼンするってww」

 

万里花「ちなみに、楽様のロミオ役は昨日わたくしがーー」

 

ドヤッとした笑顔で、人差し指を天に向けて掲げる。

 

万里花「“正式に”決定いたしましたので、変更不可ですわ♪」

 

楽「どんな独裁国家だよ、マジで!!」

 

ツッコまずにはいられなかった。

 

万里花「だって楽様がロミオでなければ、盛り上がらないではありませんか♪ 色んな意味で?ww」

 

万里花の宣言に、楽は思わず顔をしかめた。

 

楽「独裁っていうか、暴走っていうか……。せめて俺の許可というか同意を得てくれよww」

 

万里花「うふふ♪ 確認は信頼の証、でも報告は既成事実って申しますでしょ? これはいわば愛の先行投資ですわ♪」

 

楽「なにそれコトワザ?! 信用取引みたいな扱いしてごまかそうとするなよww」

 

そうツッコんだ直後、楽の背筋がひんやりした。

教室のドアのすぐ外ーー

誰かが、そのやり取りを立ち聞きしていた気配。

 

万里花「おや? あのおリボンのシルエットは……」

 

そして次の瞬間――

 

バァン!!

 

ドアが勢いよく開き、ツンとした空気とともに、もう一人の当事者が颯爽と現れた。

 

千棘「なんか、今の話……私の名前が出てた気がしたんだけど?」

 

その声にはいつもの気の強さと、ちょっとだけ警戒心が混ざっていた。

 

楽「おお、千棘。今日から登校再開か」

 

千棘「今日から復帰! うちの親がうるさくてさ、医者の許可出るまで止められてたの。……まあ、なんとなく胸騒ぎがして、橘万里花が変なこと言ってないか心配になって、早めに来たんだけど……案の定、だったわね」

 

楽(どんな胸騒ぎだよ……)

 

万里花「まあまあ、桐崎さんもお元気そうでなにより♪」

 

笑顔の奥に、“負ける気ゼロ”の強気がにじむ。

そこへ、さらにもうひとり。

楽の机の前におずおずと、しかし確かな足取りで、小咲が近づいてくる。

 

小咲「ご、ごめんね……盗み聞きするつもりはなかったんだけど、声が大きくて全部聞こえちゃって……。えっと、いまの話……演劇のこと、ですか?」

 

役者が揃ったところで、教室のあちこちがザワついた。

「本命の小野寺来た!」「あの儚さがジュリエット役とめちゃくちゃマッチしてる」「俺は桐崎さん推し!」「ジュリエットは東洋人だから桐崎さんがピッタリ!」「橘さんの気品こそがまさにジュリエット!」「何より橘さんは熱意が半端じゃねーから応援してる!」

などと、ひそひそ声が飛び交う。

 

万里花「ふふふ……みなさんお揃いで。そうですわ。ジュリエット役の件で、さきほど“公平性の観点”から再投票が決定いたしましたの♪」

 

千棘「へぇ……“公平性”ねえ。事前準備にたっぷり時間をかけられたアンタからそんな言葉が出るとはね?」

 

万里花「まぁまぁ、随分信用がないんですね。ご心配なく? プレゼンの有無が決定する前から、どちらにせよわたくしは自分の資料は用意していましたから♪それにどんな条件でも正々堂々と勝利する自信がありますので♪」

 

そして、ふわりとカバンからA4サイズの紙束を取り出す。

表紙には金文字でこう書かれていた。

 

『橘万里花、栄光への道〜なぜ私が現代最高のジュリエットか〜』

 

小咲「えっ……パ、パワーポイント……?」

 

千棘「しかもホチキス止めで……フルカラー……!」

 

万里花「ええ♪ 朝からプレゼン資料を印刷してまいりましたの。“愛と知性の融合”ってやつですわね?」

 

小咲(えっ、どうしよう……あんな資料、わたしには作れないよ?!)

 

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千棘(相変わらず自分の有利な展開に持っていくのが上手いわね……)

 

教室の空気が一気に張り詰める。

三人の女子、それぞれのオーラがぶつかり合う。

 

万里花「プレゼンをやることが決まったのは昨日の午後です。公平を期すため、わたくしは今日この場にこの資料を置いて帰り、これ以上手は加えません。なので、プレゼンは明日の放課後に決行ーーよろしいですわね?」

 

小咲、千棘、顔を見合わせて確認するように頷く。

 

楽「おいおい、なんか……またとんでもないことに……」

 

かくしてーー

ジュリエット争奪戦、開幕!!

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