ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
放課後・特別教室
楽(待て待て待て!責任重すぎだろ…! 投票っつっても、結局みんな空気読んでるだけで、実質俺が選ぶ流れじゃんかよコレ……!!)
楽「無理無理! 俺じゃ選べねぇって! こういうのは公平に決めようぜ! な?」
万里花「……ならば、再投票というのはいかがですか?」
楽「再投票?」
万里花「ええ。ですが……今度はプレゼンではなく、“実技”で勝負いたしましょう!」
小咲「じ、実技……!?」
千棘「ジツギ……って、え? なにそれ、聞いてないし!!」
万里花「はい! わたくしたち三人が、それぞれロミオとジュリエットの“名シーン”を演じてみせます! その上で再度、投票を行いましょう!」
男子生徒たち「うぉぉぉ!」「それ見たい!!」「ガチのやつ来たーー!」
楽(お前ら絶対楽しんでるだけだろ……!! なんで男子が一番テンション上がってんだよ……!!)
万里花「さあ、皆様! 公平で清く正しい、公開演技バトルによる決戦投票ですわ! 公平に! 民主主義の精神をもって!!」
なぜか教室に拍手が巻き起こる。
先生不在の放課後。
熱気と混沌に満ちた決戦の第二幕が始まろうとしていた。
楽「……もう、どうにでもなれ……」
黒板にチョークで書かれた文字が、何よりそれを物語っていた。
《ジュリエット役・実技対決!!》
教室がまるで即席の劇場と化す。
視線が壇上へ集まる。最初に立ったのは、やはりこの女ーー
橘万里花!
万里花「……それでは、わたくしの演技、どうぞご覧あそばせ!」
万里花は一度、息を吸うと、ふわりと目を閉じ、静かにロミオ(=楽)を見つめた。
万里花「……ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜあなたは、ロミオ様でいらっしゃいますの!? お父様と縁を切り、家名をお捨てになって! もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、お誓いになって下さいまし!! そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわぁぁ!!!」
セリフの終盤、情熱が高まり、声が震える。
そのまま、万里花は一歩一歩、真っ直ぐに楽へ歩み寄り――
万里花「……愛しております、ロミオ様」
そっと腕を回し、抱きしめる。
その所作に、まったく無駄はなかった。
完璧な発声、豊かな抑揚、舞台経験者のような間と情感。
まさに、技術と熱意のハイブリッド。
――大喝采。
男子生徒「すげぇ……!」
女子生徒「声も滑舌も演技力もガチじゃん……!」
男子生徒「マジで劇団いけるんじゃ……」
楽(ガチ過ぎる……すげえわ。しかも普段からお嬢様口調だから全く違和感がないww)
万里花(……勝った。勝ちましたわ。あの小野寺さんも、桐崎さんも、今日のわたくしには届かない。だってこれは、家で200回は練習した、完璧なジュリエットですもの!)
壇上の万里花が深々とお辞儀をし、教室中から割れんばかりの拍手が巻き起こる中。
次なる挑戦者が、静かに、だが異様なまでにぎこちない動きで立ち上がる。
桐崎千棘!
その肩は妙に力んでいて、手のひらはパーのまま固定されている。
何かを振り払うように深呼吸をひとつ、そして壇上へ。
千棘(やばいやばいやばい、あんなすごい演技見せられたら、プレッシャー半端ない! 頭真っ白!! 脚ぷるぷるする……なにこれ緊張? あっ、やばいセリフ飛んだ……!)
壇上の中心に立ち、全員の視線が一斉に刺さる。
まるで公開処刑。
千棘「アア、ロミオサマ……ナゼアナタハ、ロミオサマデイラッシャイマスノ……」
――棒読み。
しかも何故か、片言。
アクセントが完全に外国人。
楽(お、おい……!イントネーションおかしいし、っていうかロボ!? なんで今メカ口調!?ww)
男子生徒「……別の映画みたいになってるww」
女子生徒「ちょ、桐崎さんそれ逆にすごいwww」
生徒たち「メカ千棘!! アカンってww」
千棘「や、やっぱ無理ぃぃぃぃ!!!!!」
顔を真っ赤にして、膝を抱えてその場にしゃがみこむ。
完全なる戦意喪失。
教室がどっと笑いに包まれる中、教師不在の自由時間、誰も止める者はいない。
万里花(ふふふ……完膚なきまでの敗北ですわね、桐崎さん? でもまぁ、可愛げはありましたけれども?)
楽(……千棘には悪いが、これは実質脱落だな。さすがに橘で決まりか……? でも、まだ小野寺が残ってる……!)
そして――最後の挑戦者が、静かに立ち上がった。
小野寺小咲!
千棘のあまりの爆発ぶりに、生徒たちのテンションもやや緩んだ空気。
だが、小咲が壇上に立った瞬間ーー
その場の空気が、ふっと変わった。
楽(小野寺……大丈夫かな? めっちゃ緊張してたけど……。あれ? でも、目が……すげえ真剣だ)
小咲の瞳が、まっすぐに楽を捉える。
その一瞬だけで、彼の息が止まりかけた。
――沈黙。
誰もが息を飲む。
彼女は何も言わない。
セリフも、極端な動きも、何も特別なことはしない。
ただ、一歩。
また一歩と、楽のもとへと近づく。
その動作に、焦りも迷いもなかった。
淡く潤んだ瞳をまっすぐ向け、小さな手が、そっと楽の胸元に触れる。
そして――
小咲「…………」
言葉はない。
でもその瞳が、揺れるまつげが、潤んだ目元が――
“愛してる”と、静かに、確かに語っていた。
まさかのーー【サイレント・ジュリエット】
楽(……小野寺……すげえ、すげぇよ……!)
観客の生徒たちも、誰一人として言葉を発せず、ただ見入っていた。
まるでそこに本物の“ジュリエット”がいたような錯覚さえ覚えた。
楽(やべぇ……今の小野寺、マジでやばかった。セリフひとつなかったのに、表情と仕草だけで……まるで俺の心に直接語りかけてくるみたいで……)
男子生徒「……すげえ……」
女子生徒「泣きそうになった……」
生徒たち「……あれは……“演技”を超えていたわ」
万里花(な、なにを……!? セリフ無しで……あんなに心を動かせるものなのですか……!?)
次の瞬間、誰からともなくーー拍手。
その拍手は次第に広がり、やがて教室中がスタンディングオベーションに包まれる。
楽(これはもう……)
拍手の嵐が静まり、教室に再び緊張が満ちていく。
壇上の小咲はそっと頭を下げて、ゆっくりと席へ戻った。
その横顔には、演技直後の余韻と、ほんの少しの不安が滲んでいる。
楽(……すげぇよ、小野寺……)
もはや言葉はいらなかった。
彼女の想いは、楽だけじゃなく、教室中の心を撃ち抜いていた。
そしてーー
生徒代表「それでは! 投票の集計が完了しましたので、結果を発表します!」
生徒たちの歓声が止む。
息を呑むような静けさが訪れる。
生徒代表「文化祭演劇『ロミオとジュリエット』、ジュリエット役・実技対決の結果は……!」
橘万里花:14票
小野寺小咲:21票
桐崎千棘:1票
教室「おおおおおお!!」「決まったああ!!」「小野寺ーーー!!」「付き合ってくれーーー!!」
千棘「……ぐぅ……分かってた! 分かってたけど!!」
楽「……お、おぉ!」
万里花「な、なぜですの……!? わたくし、あれほどまでに情熱と完璧な演技を披露しましたのに……!?」
小咲「え、えええっ!? わ、わたし!? 本当に……わたしでいいの?!」
小咲は驚愕のあまり、両手で口を押さえたまま、その場で小さく震えていた。
目にはうっすら涙が浮かび、頬は桜色に染まっている。
まるで信じられないといった表情で、周囲の拍手の音が遠く聞こえるようだった。
生徒代表「というわけで、ジュリエット役はーー」
バァン! と黒板に貼り出された紙。
《ジュリエット役:小野寺小咲》
生徒代表「小野寺小咲に決定しますっ!!」
歓声、拍手、どよめき、そしてどこかしら納得の空気。
男子生徒「マジでよかった……」
女子生徒「なんか、泣けたもんね」
生徒たち「全員味があって良かったけど、やっぱり…って感じかな」
千棘「……はぁ。負けたか〜」
楽「いや、千棘のロボはロボで、別の趣旨なら優勝してたよ……」
千棘「なによそれ!? しかもあんた、本番私の目の前で笑ってたでしょ!? 本番で笑いこらえてたでしょ!?ww」
楽「バ、バレた!?ww」
万里花「……くっ、小野寺さん……! やはり、あなた……ただ者ではありませんわね……。このままでは終われませんわ……!」
楽「……いや、小野寺。ホントに、すごかったよ。一緒に頑張ろうな」
小咲「うん……ありがと/// 一条くんのこと考えながら、ただ、気持ちを素直に表現しただけだよ///」
照れたように微笑むその笑顔に、またひとつ教室の空気がやさしくなった。
千棘「小咲ちゃん、ほんと凄かったよ! あの空気、一気に持ってったって感じ!もう、“ジュリエット=小咲”って納得しちゃったもん!」
万里花「なぜ……なぜ……なぜ……?!」
目を見開いた万里花は、まるでこの世の終わりのような表情で天を仰ぐ。
楽(まあ……橘のもすごかったけど……小野寺はあの数秒に、全部詰め込んできたからな……)
小咲「……ありがとう、みんな。選ばれたからには……ちゃんと頑張るね、ジュリエット」
かくして、文化祭最大の焦点、ジュリエット役はついに小野寺小咲に決定!