ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
文化祭ステージ・アフターカーテンコール
カーテンが静かに降りる。
しかし、物語は、まだ終わらなかった。
幕の向こう、観客の拍手がようやく静まりつつあるその時。
体育館のステージ中央で、未だにひとりーージョセフィーヌが、全身で抗議を続けていた。
万里花「うわぁぁぁん!!!」
万里花「楽様ぁぁぁぁ!! あんまりですわぁぁぁ!!」
万里花はドレス姿のまま、床に大の字。
舞台用のカツラも斜めにズレ、肩のフリルがもげそうになりながら、両足をバタバタ。
まるで駄々をこねる幼児のように、地面を叩きながら泣き叫ぶ。
万里花「せめて!! 舞台の上ぐらいっ!! わたくしを選んでくださっても、いいじゃありませんかぁぁぁぁぁ!!」
楽は額を押さえて溜息をついた。
楽「……いや何言ってんだよ……。そもそも、勝手に台本ぶち壊してきたの、橘だろ? マジで焦ったわww」
観客がいないとは思えないほどの舞台上のカオス。
小道具係のクラスメイトたちが、袖から顔を出しては「また始まった」とヒソヒソ声を漏らしている。
だが、次の瞬間。
楽はふっと肩をすくめて、にやりと笑う。
楽「……でも、まぁーー正直、」
万里花「??」
楽「お前が登場してから、劇が一気に盛り上がった。観客めっちゃ食いついてたし……やっぱすげぇよ、橘」
その言葉が響いた一瞬、舞台の空気が変わる。
万里花「……っ///」
ピタリ、とバタバタが止まった。
まるでリモコンの停止ボタンを押されたように、彼女はピクリとも動かなくなった。
楽「……?」
すると、次の瞬間。
万里花は勢いよくガバッと上体を起こす。
万里花「……ほ、本当ですの?」
楽「お、おう。嘘なわけねーだろ」
万里花の顔が一気にぱぁっと明るくなる。
頬は真っ赤。
目には涙の名残すら光っていたがーー表情はまるで、ステージの主役に返り咲いたかのよう。
万里花「で、では……楽様から見て、わたくしのジョセフィーヌ、いかがでしたか?」
楽「ん? ああ……その、なんだっけ……ジョセフィーヌ? かなり演技も良かったと思う。あと、その衣装、すっげー似合ってた。うん、可愛かった」
万里花、顔が赤を通り越して、湯気が出そうなほど真っ赤に染まる。
そしてーー
バシィッ!!
まるで当然のように、楽の腕に万里花が飛びつく。
万里花「……まぁ、たまには“脇役”も悪くありませんわね/// ふふふ、楽様の腕、しばらく離してあげませんことよ〜〜?」
楽「おいおい、 衣装破れるって!!」
そんな賑やかなやりとりの最中ーー
小咲「橘さんっ!!」
可憐なジュリエットの姿のまま、小咲が駆け寄ってきた。
小咲「ほんとに、ほんとにすごかったよ! 橘さんの演技! なんか……もう引き込まれちゃって……!」
万里花「ふふん♪ まぁ、“魅せる女”であることには自信がありますもの♪」
楽(いいから腕から離れてくれww)
小咲「橘さんの熱に感化されて、自然と心から言葉が出てきたの。人を巻き込んで動かす力っていうのかな? 感動しちゃったよ……」
万里花「ありがたく、褒め言葉として頂戴いたしますわ♪」
小咲の瞳がきらきらと、万里花を心から賞賛しているのが分かる。
だが、ここで引き下がらないのが橘万里花。
万里花「……というわけで、小野寺さん? 実は一つ、折り入ってお願いがございましてーー」
小咲「うんうん! なんでも聞くよ!」
万里花「このたびの文化祭大成功記念にーー」
万里花はスススっと小咲の耳元に顔を近づける。
万里花(小咲にだけ聞こえる声で)「次の日曜日、楽様をわたくしにお貸しいただけませんか? たった1日! ……いえ、午前中だけでも!」
楽「……!? え、なんて言ったの?!」
小咲「 そ、それは……! だ、だめ……だよぉ……///」
万里花「な、な、な、なっ……!? ぐぬぬぬぬ……!」
そして、高らかに一言。
万里花「ジュリエットめぇぇぇぇ!!!!」
ステージ袖では、観劇していたクラスメイトたちがまたしても爆笑。
男子生徒「この舞台、アフタートークまで全部面白すぎるだろ……!」
女子生徒「橘さん、小野寺さんにどんなお願いしたんだろう?」
男子生徒「なんだか分からんけど無慈悲に断られてたなww」
楽「……今年の文化祭、胃がもたれるわww」
小咲「うふふ……でも、忘れられない思い出になったね」
楽「ああ……一生分の演技と胃痛を一晩で体験した気分だわw」
カーテンの向こうでは、観客がまだ笑いながら拍手を送り続けていた。
そして、こうして1年C組の『ロミオとジュリエット』は、“愛と笑いの即興劇”として語り継がれることとなったのだった。