ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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楽、お前いい加減にしろ。
と言いたくなりますよね?
私もです。


ダーリン

夕方・昇降口前

 

夕暮れ時。

赤く染まった校舎の壁が、ガラス越しに昇降口の床を照らしている。

扉が勢いよく開き、靴音が激しく鳴った。

千棘の金髪が夕陽にきらめく。

その背を追って、息を切らしながら楽が駆けてきた。

 

楽「おいっ、逃げんなって! 止まれよ!」

 

千棘「うるさいっ! もう来ないでよ!」

 

振り向きざまに怒鳴る千棘の頬は怒りというよりも、悔しさに濡れていた。

 

二人は昇降口の外、校舎の裏手まで駆け抜ける。

人目のないその場所で、ようやく千棘が足を止め、肩で荒く息をして振り返った。

 

千棘「……しつこ〜いっ! なに、ずっと追ってきてんのよ!」

 

楽「やっと止まったか……はあ、ぜぇ……ぜぇ……お前なぁ、逃げるとか、どんだけガキなんだよ」

 

千棘「……アンタにガキとか言われたくない」

 

千棘は視線をそらしたまま、靴先で小石を蹴った。

その横顔は、強がるように口をへの字に結んでいる。

 

楽「……でさ。何でそんなに突っかかってくるんだよ。俺、お前に何かしたか?」

 

千棘「……。なにもしてないよ、別に」

 

楽「……じゃあ、なんでそんな態度取るんだよ?」

 

千棘「それは……。なにも……しな過ぎたから?」

 

楽「……は? 意味わかんねー!」

 

千棘「いいよ、分かんなくって。理解できないよ、アンタには……」

 

沈黙。

数秒の沈黙の後、千棘がぽつりとつぶやいた。

 

千棘「ねぇ、楽……お願い、ひとつだけ聞いてくれない?」

 

楽「は? なんだよ急に。なんで俺が……」

 

千棘「……じゃ、いい。もういいや。さよなら」

 

そう言って背を向けた千棘の足を、慌てて楽が止めた。

 

楽「ちょっ、待てって! わーったよ、わかった。言えよ、そのお願いって」

 

千棘は止まり、一歩だけ引き返す。

日が沈みかけた西の空を見上げ、それからゆっくりと楽と向き合った。

 

千棘「……嘘でいい。演技でも、偽物でもいい」

 

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千棘「私に……“告白”してくれない?」

 

その瞳は、冗談の色ひとつないまっすぐな光をたたえていた。

 

千棘「さっきの劇の、延長戦みたいな感じでさ……」

 

楽「……はあ!? アホかよ、お前! そんなの……できるかよ!」

 

楽は大げさに顔をしかめ、頭をかきむしった。

けれど、千棘は静かに微笑んだ。

 

千棘「……そうだよね。知ってた」

 

千棘「でもさ……“偽物の恋人”だったら、告白くらいしてくれたっていいじゃん。たとえ嘘でも。……私だってさ、ちょっとくらい……ドキドキしてみたいの。一回くらい……“ヒロインごっこ”してみたって、バチ当たんないでしょ?」

 

その声は、どこまでも不器用だった。

誰にも言えなかった気持ちを、ようやく搾り出したような、そんな言葉。

 

楽は、苦笑混じりに大きくため息をついた。

 

楽「……マジで意味わかんねーし、納得なんかできねぇけど……」

 

楽「それで気が済むんなら、やってやるよ」

 

千棘「……うん」

 

ほんの少しだけ、嬉しそうに笑ったその顔に、楽はひとつ深呼吸して、真正面から向き直る。

 

楽「……よし。ロミオ様の名演技、見せてやるよ」

 

夕陽が校舎の端をゆっくりと染めながら、沈みかけていた。

セミの声も遠のき、あたりは静かすぎるほど静かだった。

 

楽は千棘の前に立ち、わずかに照れたような顔をして、それでもまっすぐ目を見て、芝居がかった口調で言葉を紡ぐ。

 

楽「……千棘、聞いてくれ」

 

千棘「ん……」

 

楽「お前はガサツなとこも、暴力的なとこも、喧嘩っ早いとこも……言い出したらキリがねぇくらい、めんどくせぇとこがいっぱいある」

 

千棘は、少しだけ眉をしかめて口を尖らせた。

 

千棘「それ、褒めてんの? それともケンカ売ってんの?」

 

楽はふっと笑って、それでも言葉を続ける。

 

楽「でもさ、そういうとこも全部まとめて……俺のものにしたいって、今は本気で思ってる」

 

千棘「………うん」

 

楽「好きだ、千棘。世界中の誰よりも」

 

その声は、思っていたよりも真剣だった。

普段の茶化しも、照れ隠しもない。

ふざけ半分に見せかけた言葉の中に、何かが宿っていた。

楽自身も、自分がどうしてこんなに自然にこのセリフを言えたのか、よくわからなかった。

 

……でも。

 

楽「って、うえぇぇええええっ!! う〜わっ、くっせえセリフwww 気持ち悪っ!ww 自分で言ってて反吐出るわ、マジで!ww」

 

千棘「っぷ……!」

 

その場に吹き出した千棘は、口元を押さえたまま、涙を一粒ぽろりとこぼした。

それは、悲しみでも怒りでもないーーどこか、張り詰めていた糸が解けたような涙。

 

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千棘「……ありがと。……聞いてて、むず痒いセリフだったし、嘘だって分かってるけど。ちょっとだけ……嬉しかった」

 

彼女はそっと一歩近づくと、ためらうように手を伸ばし、楽の肩に額をぽすんと預けるように寄りかかった。

 

千棘「……なんかね、最近ずっと、あんたにマウント取られてる気がしてさ。勝手にイライラして、勝手にムカついて、でもそれ、誰にも言えなくて。でも今の一言で、ちょっとスッキリした」

 

楽は硬直したまま、肩に乗る重みに驚いていた。

けれど、やがて静かに肩をすくめ、ぽんぽんと千棘の背中を軽く叩いた。

 

楽「……やれやれ。ほんっと、めんどくせぇやつだな」

 

千棘「……ふふ。知ってるくせに。つーか、さりげなく触るなww」

 

楽「いや別に……俺はただーー」

 

千棘「はいはい、もう言わなくていいって!」

 

そして、千棘は顔を離し、いたずらっぽい笑みを浮かべて一言。

 

千棘「……これからもよろしくね、ダーリン」

 

楽「……ああ、よろしくな、ハニー」

 

楽「……って俺なに言ってんだ!? お前マジで、もうそういう恥ずかしいのやめろって!」

 

千棘「えー、でもなんで顔赤いの? ねぇねぇ、なんで?」

 

楽「うっせぇ! お前も赤いだろうが!」

 

赤く染まった顔をそらす楽と、からかうように笑う千棘。

そのやりとりは、確かに“偽物の恋人”のはずだった。

けれどその夕暮れに伸びた二つの影は、少しずつ、静かに重なっていった。

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