ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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次で大きくストーリー動きます。


モノクロ

夕方・校舎内

 

夕暮れの光が廊下に斜めに差し込み、床に長く影を落としていた。

窓の向こう、文化祭の後片付けで生徒たちが忙しそうに動いている。

笑い声、ガラスの割れる音、ガムテープを剥がす音。

それらがごちゃまぜになった遠い生活音として、ぼんやりと聞こえる。

だが、小咲には、それらの音がどれも遠かった。

 

小咲の呼吸は浅く、荒い。

階段を駆け上がるたびに、リボンが揺れ、ジュリエット衣装のスカートがひるがえる。

 

小咲(……おかしいよ、わたし。何をそんなに焦ってるの? ただ、様子を見に行くだけなのに……)

 

教室で万里花に言われた言葉が、まだ胸の奥で響いていた。

彼女は心の中で言い聞かせるように呟いた。

けれど、思考は止まらず、足は勝手に動いていた。

文化祭の教室で、万里花に投げかけられた一言。

 

万里花『……あなた、気づいていらっしゃるのでしょう?』

 

小咲(違う……)

 

万里花『楽様の桐崎さんへの優しさが、ただの優しさではないことに』

 

小咲(違うよ……!!)

 

その言葉が、小咲の胸にずっと居座っていた。

 

小咲(間違ってるよ、橘さん……!)

 

小咲(一条くんは優しいから。誰にだって、困ってる人には手を差し伸べるから)

 

小咲(そういう人だから……千棘ちゃんを追いかけた)

 

小咲(そういう人だから……わたしは好きになった)

 

小咲(だから、わたしは信じてる……!)

 

でもーー

 

小咲(……信じてるのに……なんでこんなに、胸騒ぎがするの……?)

 

廊下を走る音が、妙に乾いて響いた。

でもその音は、どこか現実感がなかった。

進んでも進んでも距離が縮まってる気がしない。

まるで、夢の中にいるみたいに。

 

楽『当たり前だろ……? 俺は、小野寺のことが……大好きなんだから……。ーー俺の彼女になってくれ、小野寺』

 

楽『小野寺が……約束の女の子で……俺、本当に……良かったよ』

 

小咲(一条くん……)

 

楽『ん? なになに、どんな話でも俺は受け止めるぜ? なんたって、小野寺の彼氏だからな!』

 

楽『当然だよ。小野寺は、俺の彼女なんだ。本当は学校でも堂々と隣を歩きたいし、手も繋ぎたいし……。だから、少し時間をくれ。ちゃんと、向き合うから』

 

小咲(全部覚えてるよ……?)

 

楽『小野寺が約束の女の子だったってわかった時から……いや、違うな。もっとずっと前から……俺は、小野寺のことが好きだったんだ。だから、今ここで千棘を選ぶかもしれない未来なんて、正直俺には想像できない』

 

楽『俺は、小野寺が好きだ。めちゃくちゃ好きなの。好き過ぎて毎日、小野寺の写真見てるぜ? だから俺は、これからも大好きな小野寺とずっと一緒にいたいんだよ』

 

小咲(いつも安心させようとしてくれて……)

 

楽『だからさ、既に誓ったことではあるんだけど、改めて言わせてくれ。高校卒業したらーー俺と結婚しないか?』

 

楽『きっとどんな世界線だろうと、俺は間違いなく小野寺のことを好きになってた。どんなタイミングで出会っても、俺は……惹かれていたと思う』

 

小咲(わたしのことを一番に見てくれて……)

 

楽『……好きだよ、小野寺。大好きだ。好きという言葉じゃ言い表せないくらい、小野寺のことが好きなんだ。世間がどう言おうと、俺の恋人は、小野寺以外、ありえないよ』

 

楽『大丈夫だ、小野寺。俺だって緊張してる。だけど、俺たち2人なら、絶対にうまくいく。そうだろ?』

 

小咲(そんな一条くんが……大好きなの……!)

 

小咲の視界にようやく昇降口が映る。

 

小咲(お願い、一条くん……。わたし、信じてるよ。信じてるけどーー)

 

小咲(ほんの少しでいい……! 確かな“事実”が欲しいの!)

 

小咲(一条くんが、ちゃんとわたしを想ってくれてるって、信じられる事実が……)

 

踊り場を曲がる。

視界の先に、昇降口のガラス扉から外が見えた。

 

そしてその瞬間ーー

 

楽「お前はガサツなとこも、暴力的なとこも、喧嘩っ早いとこも……言い出したらキリがねぇくらい、めんどくせぇとこがいっぱいある」

 

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小咲(一条くん……?)

 

千棘が何かを言う。

楽はふっと笑って、さらに言葉を続ける。

 

楽「でもさ、そういうとこも全部まとめて……俺のものにしたいって、今は本気で思ってる」

 

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小咲(え……?)

 

楽「ーー好きだ、千棘。世界中の誰よりも」

 

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小咲(…………。…………えっ?)

 

地球の自転が止まったかのような感覚。

空間が広くなり、真っ黒な世界に一人だけ取り残されたような感覚。

襲いくる猛烈な眩暈と吐き気。

聞こえたのは、あまりにも優しく、冗談の入る余地のない真っ直ぐな“告白”だった。

小咲が次に見た時には、既に千棘は楽の肩に抱きついていた。

 

千棘「これからもよろしくね、ダーリン」

 

楽「ああ、よろしくな、ハニー」

 

小咲(……。…………)

 

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その瞬間、小咲の世界から色が消えた。

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