ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
ペンダントが開き、お互いが約束の相手だと証明された。
小咲の手が、細かく震えていた。
目を潤ませたまま、それでも小咲は――ゆっくりと口を開いた。
小咲「ずっと、ずっと……中学の頃から……ううん、もっと遠い昔。……10年以上も前から……一条くんのことが……好きでした」
俯きがちに、でもしっかりと。
その声は震えながらも、
確かな決意を宿していた。
小咲「だから……私を……一条くんの彼女にしてくれますか?」
ふわりと、夕陽の光がふたりを包む。
数秒の、静かな間。
けれど、楽の答えは――迷わなかった。
楽「……何言ってんだよ」
優しく、少しだけ呆れたような声で。
楽「当たり前だろ……? 俺は、小野寺のことが……大好きなんだから……。ーー俺の彼女になってくれ、小野寺」
その瞬間。
小咲の足元が、ふらりと崩れた。
しゃがみ込み、両手で顔を覆う。
小咲「……っ、ひっく……うう……」
嗚咽が、漏れる。
小咲「ほん……とうに……?」
楽は、即座に答えた。
楽「ああ、本当に!!」
声が、少し裏返るくらいに。
本気で、心からの叫びだった。
でも、それはあの日――映像で見た、悲しい涙とは違った。
報われなかった未来ではない。
今この瞬間、ちゃんと届いた、本物の想いへの涙だった。
楽は、そっと小咲の肩に手を置く。
小さく震えるその肩を、優しく、でもしっかりと抱き寄せた。
楽「小野寺が……約束の女の子で……俺、本当に……良かったよ」
小咲「……わたしも……すっごく幸せ……」
その言葉は、空気の震えよりも確かに、楽の胸に響いた。
世界が、ふたりだけのものになったようだった。
楽に抱き寄せられたまま、小咲はそっと目を閉じた。
ほんの少し前まで――この手は、永遠に届かないと思っていた。
でも今、確かに楽のぬくもりがそこにあった。
小咲「……でも」
小さな声。
楽「……え? なに?」
小咲は、楽の胸元に顔を埋めたまま、震える声で言った。
小咲「……でも。よく考えたらさ……私たち……付き合えないよね」
楽「……は? つき……へ?!」
楽は、間抜けな声を上げた。
そして――思わず、吹き出す。
楽「ぶっ……!? な、な、なんで!?!? この流れで!? 付き合おうって言ったじゃん!? 今!!」
小咲は、顔を真っ赤にしながら、必死に言い訳を重ねた。
小咲「だ、だってぇ!! ……一条くんには……千棘ちゃんが……」
楽「あ〜……」
楽は、ポリポリと後頭部をかいた。
楽(そっか。小野寺にはまだ、“あれ”のことちゃんと言ってなかったんだ)
楽は、にっと微笑んで、言った。
楽「小野寺、実はな……あれ、演技なんだよ」
小咲「……え?」
楽「千棘とは、恋人のフリしてるだけ」
小咲「……な、な、な、えーー!?」
小咲は、完全に混乱していた。
小咲「え、え、え、え、え!? あ、あの、演技!? え、どこまでが演技で!? どこから本気で!?!? は? え? ドッキリ的な?! どういうことぉ?!」
楽は、肩を震わせながら笑った。
楽「落ち着いてwwいやドッキリではないんだけどさ、お互いなんつーの? 全然好きじゃないっていうか、むしろ嫌いなんだよw ほんと、笑っちゃうよな。だから小野寺は全然気にしなくていいんだよ」
小咲(うんうん……って、いやいやいや、全然気にするし、全然笑えないんですけどーー!?)
楽はふっと微笑みながら、ペンダントに指輪と手紙を、丁寧に戻しながら今置かれている状況を小咲に説明する。
小さく、カチャン、と音を立ててペンダントが閉じる。
楽「……と、いうわけなんだ。だからしばらくは“演技”続けなきゃなんない。戦争回避のためっていう、しょうもない事情だけど……」
小咲「そっか……大人の事情だったんだね」
小咲は、一瞬だけ迷った顔をした。
だが、すぐに顔を上げて、ふわっと笑った。
小咲「……えっと……うん、わかった!」
楽「……え?」
小咲「だ、大丈夫だよ! ごめん……ちょっと色々ありすぎて、頭が追いついてなくて……」
楽は、小咲のその一生懸命さに、またふっと笑った。
楽「だよなぁ……混乱させて悪かった。
にしても、まさかペンダントが開くとはな。しかも小野寺が約束の女の子って……こんな幸せなこと、想像してなかったよ」
ふたりは、顔を見合わせた。
そして、同時に――空を見上げた。
長く伸びたふたりの影が、足元で、ひとつに重なっている。
想いは、通じた。
でも、世界はまだ、完全にはふたりを受け入れてくれていない。
「本当の恋人」として始まったふたり。
そして小咲には“偽物の恋人”が大きな壁として立ちはだかる。
小咲は、まだ気づいていなかった。
これから先――
あの“偽りの関係”が、どれだけ自分を苦しめることになるかを。
小野寺小咲の物語は、静かに、しかし確実に動き出していた。