ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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書いててつらい。


サヨナラ

屋上の風が、急に冷たく感じられた。

 

小咲の背が夕陽に照らされ、赤く染まりながら遠ざかろうとしていた。

楽は、咄嗟にその背を追って、叫んだ。

 

楽「ま……待ってくれ! 小野寺!! なんで?!どうして?! 俺は……こんなに小野寺のことが好きで、本気で好きで、俺なりに頑張って、時間作って、小野寺との時間を大切にしてきたつもりだったんだ!」

 

声が、校庭に聞こえるほどに叫んでいた。

小咲は、その場に立ち止まり、そして、静かに振り返る。

 

小咲「わかってるよ……一条くん。わかってる、すごく……。一条くんがわたしのこと、考えてくれてたってことも。優しくしてくれたことも。……全部、伝わってたよ」

 

でもーーと、小咲は苦しげに視線を落とす。

 

小咲「……でも、いろいろありすぎたんだよ。わたしの中で……何かが壊れちゃったみたい」

 

そして、静かに語りはじめる。

 

小咲「肝試しの時ね、あのくじ引きで“12番”って出た瞬間……ほんと、嬉しかったんだ。まさか一条くんとペアになれるなんて……奇跡みたいって思ったの。神様が、わたしたちを繋げてくれたんだって」

 

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小さく、微笑もうとするも、その表情はすぐに曇っていく。

 

小咲「でも……トラブルが起きて、わたしの手を……一条くんは、離した。わたしを置いて、千棘ちゃんのところに行ってしまった」

 

小咲「わかってるよ……千棘ちゃんが怖がってたのも、知ってた。心配だったんだよね。でも、手を離された時……わたし、自分が選ばれなかったような気がして、その瞬間、胸がきゅっと、痛くなったんだ」

 

小咲「仕方なかった……うん、そう思おうと何度もした。でも、その瞬間の冷たい感覚ーー繋いでいた手が空気に変わる感覚が、未だに消えなくて……」

 

楽「小野寺……それは……」

 

しかし、小咲は楽が口を挟むのを許さなかった。

 

小咲「それから、橘さんが来て……“許嫁”っていう存在に、どうしても勝てる気がしなかった。わたしは、中学からの幼なじみで、ただのクラスメイトで。橘さんが一条くんに近づくたびに……何かがどんどん複雑になっていって、すごく、苦しくて。でもそれを止める強さもなくて」

 

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指先が胸元の制服をきゅっと掴む。

小咲の声が震えていた。

 

小咲「縁日のとき、2人で頑張って恋むすびを手に入れたよね。すごく、嬉しかったし、感動した。あんなに人が多くて、並んで、もみくちゃにされながらも、それでも買えて、本当に嬉しくて……。すぐに一条くんと喜びを分かち合いたかった。でも、気づいたら……一条くんは、千棘ちゃんに渡してて……」

 

小咲「目の前で起こったはずの現実が、まるで誰かの夢だったかのように、わたしの想いとすれ違っていく感じがしたの。その度に、胸の奥で何かが小さく崩れていったんだ」

 

楽が口を開きかけるも、小咲は首を振る。

 

小咲「海のこともそう。千棘ちゃんを助けて、命を救って……それがニュースになって、“奇跡の恋人”って言われて。あれ以来、みんながテレビやSNSで言うんだよ?“やっぱり運命ってあるんだね”って。わたしの中の一条くんは、千棘ちゃんの隣にいるものとして、周りから“完成”されていっちゃったの。……これは、一条くんが悪いわけじゃないんだけどね」

 

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そしてーー

小咲の瞳が、少しだけ潤んだ。

 

小咲「……最後に、わたしが見ちゃったのは……昨日のこと。昇降口で……千棘ちゃんに、告白してる一条くんの姿。あの時の言葉、あの光景……わたし、多分一生忘れられないよ」

 

楽、ここぞとばかりに口を開く。

 

楽「ま、ま、ま……!? あ、あれは違う!!違うんだって!! あれは、千棘が悪ノリで……“演技でいいから告白して”って……ほら、演劇のあとだったろ? その延長線で、私もドキドキしたいから嘘でいいから告白して欲しいって話になって……! 信じてくれ、小野寺!!」

 

小咲の目が、少しだけ驚いたように見開く。

 

楽「全然、本気じゃないし! 俺は小野寺のことが……!」

 

小咲「……うん。そっか……演技、なんだ」

 

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小咲は微笑んで、でもその笑顔は、どこか凍っていた。

 

小咲「でもね? 演技か演技じゃないかって、どうやって決めるのかな。本人たちの心?」

 

楽「え?」

 

小咲「あれは、舞台の上じゃなかった。わたしの目には、一条くんが、千棘ちゃんに、告白してるようにしか見えなかったんだよ。その“現実”しか、届かなかったよ」

 

楽「小野寺……俺のこと、信じられないか……?」

 

小咲はそっと、口元に手を当てる。

 

小咲「……一条くん、わたし、自分が嫌になる。こんな話、一条くんとしたくなかった。もっと、普通に笑っていたいだけだったのに……」

 

間を置き、小咲の目からさらに涙が溢れる。

 

小咲「“付き合う前の関係の方が良かった”……こんなこと、絶対に思いたくなかった。でも……思っちゃったの……!」

 

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楽「……」

 

楽は何も言えなかった。

言いたいことは山ほどある。

だが、言葉にできない。

言いたいことを言ったところで、小咲の心は動かないことを悟ってしまったからだ。

 

そう言って、ゆっくりと楽に背を向ける。

その背中は、小さく、小さく、寂しげに震えていた。

 

楽「小野寺……!」

 

背を向けたまま、小咲は一度止まる。

 

小咲「明日も、明後日も、一年後も、十年後も……きっと、わたしは一条くんが大好きだと思う」

 

小咲「ううん、“思う”んじゃない。大好きで“ありたい”んだ」

 

楽「だ、だったらーー!!」

 

小咲「でも……このまま付き合ってたら、その未来はやってこない。だからーー」

 

小咲「いったん……さよなら、だね……」

 

楽は手を伸ばす勇気が出なかった。

小咲は、そのまま屋上の扉へと歩いていき、そして、静かにそれを開けて消えていった。

残された楽は、その場に崩れるように膝をついた。

誰もいない屋上に、楽の嗚咽だけが静かに響いていた。

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