ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

79 / 99

【挿絵表示】

どうすんのよ。このあと。


アノトキ

夕暮れが夜へと溶けていく時間。

ネオンの灯りがちらほらと街を彩りはじめ、ゲーセンを出た2人は並んで歩いていた。

 

賑やかな電子音から離れ、日常の静けさに戻った道。

けれど、そこに漂う空気はどこか柔らかく、温かかった。

 

千棘「あー、めっちゃ楽しかったぁ!」

 

両手を大きく伸ばして、千棘は満足げに空を仰ぐ。

 

千棘「……ごめんね? 最初はアンタを元気づけるつもりだったんだけど、途中から完全に自分が楽しんでたわww」

 

楽「いや、それが一番だろ。お前が楽しそうだったから、俺も楽しかったよ。……ありがとな」

 

千棘「いーえっ! ……で、どう? 少しは気が晴れた?」

 

楽「……ああ」

 

一言だけ。

けれどその声は、少し柔らかくなっていた。

 

千棘「そっか。よかった。またさ、今度行けたらいいね」

 

楽「そう……だな」

 

一拍おいて、楽が小さく答える。

 

だがその返事は、どこか歯切れが悪かった。

 

千棘「ん? どしたの、さっきからww まさか……つまんなかった?!」

 

冗談めかして覗き込んでくる千棘の顔に、楽は苦笑を浮かべた。

 

楽「いや……違うんだ。……なあ、前にさ、海に行った時のこと、覚えてるか?」

 

千棘「……え? そりゃ最近の話だし普通にめっちゃ覚えてるけどww」

 

楽「お前が、溺れる前。俺に聞いたよな。“もし俺たちが本物の恋人だったら、うまくいってたと思うか”って」

 

千棘「……え……うん」

 

声のトーンが少し落ちる。足取りも自然と緩やかになった。

 

千棘「え、待って、なに? 今さらその話?」

 

楽「……ああ、ふと思ってさ。その時は、ちゃんと考えてなかった。でも、今になってずっと引っかかっててさ。あれーーなんであんなこと聞いたんだ?」

 

歩いていた千棘の足が、ぴたりと止まる。

 

風が、街路樹の葉をゆらし、カサリと音を立てた。

沈黙が、ほんの一瞬、間延びして流れる。

 

千棘「……それは」

 

楽「……ああ」

 

千棘「それは……ね?」

 

途端、千棘はスッと横に逸れて、近くのビルの壁に、べたぁっと張り付いた。

 

【挿絵表示】

 

まるで“背景と同化してます”と言わんばかりの不自然な体勢に、楽が吹き出しそうになる。

 

楽「……は? 何やってんだよww」

 

千棘「り、理由なんて……ないしっ! ないってばっ!!」

 

千棘(ーーホントは違う。違うのに。あの時、楽が“うん”って言ってくれたら……私……私はーー)

 

声は強がりで満ちていたが、その背中はどこか不器用に震えていた。

楽は少しだけ困ったように微笑んだあと、小さく息をつく。

 

楽「……ないのか。……そっか。俺はてっきり……お前が、俺のことを、ほんの少しでも、男として意識してくれたのかと思ってたわ」

 

千棘「……え?」

 

楽「はは、もしあのとき俺が“うん”って答えてたら、どうなってたのかなー……なんて。いやあ、俺、思い上がってたわ。すまん、マジで」

 

千棘「……いや、あの……っ」

 

楽「ん?」

 

千棘、息をのむ。

ほんの一瞬、葛藤するように唇をかんだ後ーー

 

千棘「……アンタと仮に本物の恋人だったとしても……なんか……悪くないかなって。あの時、ちょっとだけ、ふと、そう思った。それだけよ」

 

【挿絵表示】

 

その声は、かすかに震えていた。

けれど、それは確かな“本音”だった。

 

楽「……それは、“あの時だけ”の話なのか?」

 

千棘「……」

 

楽「……」

 

千棘「……ぶっ」

 

次の瞬間、千棘が吹き出した。

それにつられるように、楽も、ぷっと吹いてーー

 

二人「「っははははっっ!!」」

 

笑い声が、静かな路地に響いた。

 

千棘「マジウケるwwww なに私たち、超ガチシリアスモードで語り合ってんの?! ないわー、ないわーっ! マジ恥ずかしっ!」

 

楽「いや、マジでなww 俺らがシリアスになんか語るとか似合わな過ぎてwww しかも、どっちが先に吹き出すか我慢してたのに、まさかの同時とはww」

 

千棘「あーお腹痛いww ほんとタイミング最悪ww」

 

楽「無駄に息ピッタリ問題www」

 

そのまま2人は、笑いながら歩き出す。

空気が少しだけ軽くなった。

 

楽「……じゃ、今日は金曜日だから……また来週な。色々あったけど、明日からは、少しは前向きに話せると思う」

 

千棘「うん、そっか。よかった。また来週ね、楽」

 

【挿絵表示】

 

彼らを偽物と呼ぶには、あまりにも自然すぎた。

 

橙に染まった帰り道。

そこには確かに、ほんの少しだけ芽吹いた“何か”があった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。