ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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同刻、千棘さんも動きます。


ニセコイ

金曜の夜。

街の明かりが、薄いレースカーテン越しにちらちらと灯っている。

 

部屋の明かりはついているのに、妙に静かだった。

テレビもスマホもつけていない。

聞こえるのは、時計の針の音と、時折ベッドが軋むかすかな音だけ。

 

千棘はパジャマ姿でベッドの上で体育座りをしていた。

 

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千棘「はーあ……あいつ、急にあんなこと言うなんて……ビックリした」

 

楽『あの時、もし“うん”って答えていたら……』

 

その言葉が、何度もリフレインする。

 

千棘「なによ……今さらあんな話、蒸し返してきてさ……バカ」

 

自分でも、頬が熱くなっていくのがわかる。

 

千棘(照れとかじゃない。いや、少しはあるけど……もっと、ぐちゃぐちゃな感情)

 

楽とゲーセンで笑って、ふざけて、ハイタッチして。

ふとしたときに感じてしまった、“胸の奥がキュッとなるような感覚”。

それは、ただの友達や親友では説明がつかない。

 

千棘「……私、あいつのこと……本気で好き、なんだ」

 

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言葉にした瞬間、心のどこかで何かがカチリと音を立てて噛み合った。

 

千棘「うん、やっと、わかった」

 

思い返せば全部そうだった。

ムキになって喧嘩して。

他の女子と仲良くされるとイライラして。

自分でも訳が分からないまま、つい手が出て。

 

でも、それはーー

 

千棘「ムキになるのも、嫉妬するのも、暴力ふるうのも……全部、好きの裏返しなんだ」

 

言いながら、少し苦笑いになる。

 

千棘「……こんなまわりくどい好き、ある……?」

 

立ち上がり、机の引き出しを開ける。

その奥に、小さな赤い箱がある。

箱の中には、鍵。

物心着いた頃から大切に持っていた宝物のようなもの。

しかし、どういった経緯でそれを手に入れたかは覚えていない。

手のひらに乗せて、千棘はそれをじっと見つめた。

 

千棘「この鍵は……偽物。錠をあける鍵じゃない。それは、わかってる」

 

千棘「だって本物の鍵は、小咲ちゃんが持っていて。楽のペンダントの錠を、小咲ちゃんの鍵が開けたから」

 

つまり、自分の鍵は合うことのない偽物の鍵ということになる。

記憶に導かれるように導線をなぞっても、自分の中には確たる思い出がない。

 

千棘「でも……それが、何?」

 

拳を握る。

 

千棘「開かなかったら、あいつは振り向いてくれないの?」

 

じわりと胸が苦しくなる。

机に鍵を戻そうとしたけれどーーその手が、途中で止まる。

 

千棘「そもそも、私たちって……子供の頃、どんな場所で、どんな会話してたんだろう。……だめ、思い出せない」

 

霧がかかったような記憶の断片。

遊んでいた気もする。

笑っていた気もする。

でも、肝心な場面が全くと言っていいほど思い出せなかった。

ただ、胸の奥にある【なつかしい光景】は、確かに存在していた。

 

千棘「……天駒高原」

 

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そこは、楽や小咲と初めて会った場所であり、鍵にまつわる全てが始まった場所。

しかし、今はなんの記憶も戻らない。

 

千棘「ここに行けば……何か、思い出せるかも」

 

そう思うと、胸の奥がと疼いた。

それは、不安と期待と焦り、そして恋心だった。

鍵を見つめる瞳に、迷いが消えていた。

 

千棘「私の子供の頃の記憶や想い。それが、ちゃんと全部思い出せれば……過去と今が、線できちんと繋がったその時ーー」

 

ゆっくりと目を閉じて、決意するようにひとつ深呼吸。

 

千棘「私は、必ずあいつに告白できる」

 

千棘の声と同時に部屋のカーテンが揺れた。

 

千棘「……そんな気がする」

 

それは、もはや気のせいなんかじゃなかった。

この胸に宿った恋心は、もう、偽物の恋人……ニセコイのそれではなかった。

 

楽を想う自分。

ちゃんと、それを信じてみようと思った。

 

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千棘「明日ーー土曜日の朝……天駒高原へ向かおう。一人で」

 

そう呟いた声は、まっすぐで、そして、静かだった。

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