ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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バスの中でふたりは。


トマドイ

口にしたその瞬間、楽の胸の奥がチクリと痛んだ。

意思に反して嘘をついてしまった自分自身に、戸惑っていた。

本当は、小野寺を追ってきた。

それだけのために、東京からはるばるここまで来たのに。

 

今、「俺もお前と同じ目的だ」と言ってしまったのは、気まぐれなんかじゃなかった。

千棘の嬉しそうな顔が、まっすぐに胸に刺さったからだった。

思考がふわついている中、隣の千棘が突然、声を上げた。

 

千棘「ま、まじ?! そんなこと、ありえるの?!」

 

大げさなリアクションに、駅前の鳩すら驚いて飛び立った。

 

千棘「だって! 同じ日、同じ時間、同じ場所に、アンタと私が偶然同じ目的で?! え? なんなの?! どんだけ奇跡的な巡り合わせよww」

 

両手を広げて、あり得ないといったジェスチャーで笑う千棘。

頬がやや赤く染まっていたのは、秋風のせいか、それとも──

 

楽(こいつ……こんなに嬉しそうにしやがって……)

 

その笑顔を見た瞬間、喉の奥からこみ上げかけていた「本当のこと」が、スルリと飲み込まれていった。

 

楽(……やばい。余計に、ホントのこと言いづらくなっちまった……)

 

楽が言葉を飲み込んでいるあいだも、千棘は一人テンション高く喋り続ける。

 

千棘「え〜、マジで信じられないww 息ぴったりとか、そういう次元じゃないでしょ、これwwww」

 

嬉しさと照れが混ざったテンションで笑っていた千棘だったが、楽はあえて少しだけ声のトーンを落とし、言葉を発した。

 

楽「千棘……あのさーー」

 

千棘「とりあえず!」

 

言いかけた楽だが、千棘の勢いにかき消される。

 

千棘「まだまだ天駒高原まで遠いから、こんなところ突っ立ってないで、バス停探そうよ! えーと、なんだっけ? 梼原行きってバス停に乗って、新田まで65分…… 」

 

千棘「そこから天駒高原行きのバスに乗り換えて、終点の天駒荘まで40分……? なっがwww金曜ロードショー見れるじゃんww」

 

スマホを器用に操作しながら笑う千棘。

楽はちょっと呆れながらも、口元に笑みを浮かべる。

 

楽「……長いな、確かにww」

 

千棘「暇つぶしの道具、何も持ってきてなかったからさww でもアンタが一緒なら、ちょうど時間も潰せるし、よかったよ!」

 

悪びれもなく言って、スタスタと駅前のロータリーを歩く千棘。

その背中が、どこか、頼もしく見えた。

 

そしてーー

 

千棘「おっ、これだ! ほら、楽、早く! これ逃したら次1時間後だよ?!」

 

そう叫ぶと、くるっと振り返って楽の手をガシッとつかんだ。

その瞬間、手の温度が、鼓動を1つ跳ね上げた。

楽は何も言えず、そのまま引きずられるようにバスに乗り込んでいった。

ガタン、と軽い振動を残して、バスが動き出す。

 

狭い車内、シートの端に座る楽と千棘の間との微妙な距離感。

だがそれは、あくまで物理的な「間」。

では、心の「距離」は……?

 

千棘「うそ? 誰もいないww いやほーー♪」

 

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誰もいない車内に、千棘の浮かれた声が響く。

本当に、乗客はゼロ。

完全なる貸切バスだった。

 

楽(やばい。このままだと……天駒高原に千棘と2人で行くことになっちまう)

 

バスのエンジン音が、胸の鼓動と重なって聞こえる。

心の奥から、何かが押し寄せてくる感覚。

 

楽(心が……ふたつある)

 

ひとつは、冷静な声だった。

 

楽(ひとつは……このままじゃダメだ。早く本当のことを言って、千棘から離れた方がいい。小野寺を追ってきたって、ちゃんと伝えるべきだ)

 

でも、もうひとつの声は、違った。

 

楽(もうひとつは……このままでいい、むしろこいつとどこかに行ってしまえばいいいんじゃないかという心)

 

目の端に映る、楽しげに窓の外を眺める千棘の横顔。

風にそよぐ金髪が、バスの小窓の陽光を反射してきらめいていた。

 

楽(俺は……今……こいつと、もっと一緒にいたいって……思ってる……?)

 

ぐらりと揺れる、心の軸。

それは、ちょうどバスの揺れとシンクロしていた。

 

楽(違うだろ……俺は小野寺を……。でも、今は……)

 

隣の千棘がふとこちらを振り向いた。

 

千棘「……ねえ、さっきら何黙ってんの?ww 寝てんの?ww」

 

何気ないツッコミのように見えて、その目にはほんの少しだけこちらを伺ってる様子が滲んでいた。

まるで、何かを察しているような。

楽は息を整え、小さく笑ってみせる。

 

楽「……はは、なんでもねえよ。移動疲れってやつかな。駅までめちゃくちゃ走ったしな」

 

千棘「……そっかww」

 

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千棘は一瞬だけ楽をじっと見たが、すぐに明るい調子を取り戻して、また車窓へと視線を向けた。

車内は静かだった。

しかし、楽の心の中だけは、まるで戦場のようにざわめいていた。

バスは、ゆっくりとススキ野原を抜け、山道へと入っていく。

 

秋の風景が、まるで2人を物語の終盤への誘うように車窓を彩っていた。

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