ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
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【回想・5歳の頃】
高原の風が、子どもたちの髪を揺らしていた。
万里花『ねえ、らっくん! わたしとちとげ、どっちと結婚すると?』
千棘『そりゃ、わたしだよね?』
万里花『いんや、わたしばい!!』
笑い合いながらじゃれつく2人の少女に、幼い楽は困ったように顔をしかめる。
楽『どっちって……だって、おれは……』
一瞬、彼の視線が、少し離れた場所にいた少女――小咲へと向かう。
小咲は、その視線に気づいていた。
だけど彼女は、何も言わず、ただそっと一歩身を引いた。
小さな手が絵本のページをぎゅっと握りしめ、決して輪に割って入ることはなかった。
楽は、そんな小咲の姿を見つめながらも――
楽『うーん。どっちかっていうと……ちとげ?』
千棘『ホント?! ホントにわたし?!』
楽『ああ……まあ、うん……』
千棘『ふふ、ふふふふ、やったぁぁぁぁ』
万里花『なんでぇぇぇ!!!』
そのとき、笑っていた千棘の後ろで、小咲はそっと顔を伏せていた。
誰にも気づかれないように。
声を出さないように。
でも、その手に持っていた絵本だけが、小さく握りしめられていた。
ーー夜、天駒高原の宿舎にて。
千棘『ふふ、らく、わたしのこと、すきだったんだ……』
千棘『よかったなぁ』
千棘『だって、いつもわたしが泣いてると、すぐかけつけてくれるもんね!』
ウキウキで歩いていると、千棘は小咲の落とし物を見つける。
それは、絵本の切れ端だった。
千棘『あれ? これ、こさきちゃんの絵本のページだ……。やぶれちゃったのかな? 届けてあげなくちゃ!』
小さな足で走る。
だけど、そこで千棘は見てしまった。
大きな岩のふもとで、向かい合う2人の姿を。
小咲『ねえ……らくくんは、ちとげちゃんのこと、すきなの?』
楽『……。ううん、少し違う。ちとげのことは、嫌いじゃないけど』
楽『おれ、ほんとうは……こさきのことが好きなんだ』
小咲『……え?///』
楽『もしけっこんするなら、こさきとがいいよ』
小咲『……!! ほ、ほんとう……?』
楽『うん』
小咲『わ、わたしも……ずっとらくくんのこと、好きだったの。……とっても……!』
楽『え、そうなのか…?! じゃあ、ちとげに、やっぱりけっこんできないって、いってくる!』
小咲『え〜、それはかわいそうだよ。ちとげちゃん、あんなによろこんでたのに』
楽『でも……それじゃあ、こさきが……』
小咲『……。ねえ、じゃあ、かわりにーー』
2人は、岩のふもとにしゃがみこみ、何かを刻んでいた。
それを遠くから見ていた千棘。
小さな胸がぎゅっと痛む。
近づいて、刻まれたそれを見る。
「らく」「こさき」と記された刻み文字。
名前と名前の間には、相合傘が描かれていた。
幼心でも、この意味が十分に理解できてしまう。
あまりにも残酷な現実だった。
千棘『……。……』
【回想終了】
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そして、現実へ。
楽「千棘?!」
現実へ引き戻すように、楽の声が響いた。
千棘は、呆然としたまま立ち尽くしていた。
手は震えている。
唇も少しだけかすかに開いていた。
瞳は潤み、だけど涙はこぼれていなかった。
心の奥に閉じ込めていた“思い出”が、音を立てて目覚めた。
それは、あまりにも鮮やかで、あまりにも切なかった。