ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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千棘さんパートクライマックスです。


ゴメンネ

風が静かに、ススキの穂を撫でていた。

 

天駒高原の草原の真ん中。

陽の光は柔らかく、空は深く澄んでいる。

金と銀の絨毯の中、千棘はその場に静かに立ち尽くしていた。

 

彼女の瞳は、どこか遠くを見ていた。

まるで、その眼差しの先に、幼い頃の景色が浮かんでいるかのように。

 

千棘(そうだ……)

 

千棘(そうだった……)

 

断片的だった記憶は、天駒高原の空気に触れた瞬間、一気に鮮明さを取り戻した。

誰よりも明るく笑っていた、幼い自分。

中心には楽がいて、そして隣にはいつも小咲がいた。

そして、2人は両思いで、将来を誓い合っていた。

 

千棘(はは……ははは……なんてことなの)

 

気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

千棘(この記憶……思い出せなかったんじゃない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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千棘(私がーー忘れようとしてたんだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃から楽と小咲の間にあった感情。

それが確かなものだったことを、見ないようにしてきた。

子どもの頃から、ずっとずっと、2人は惹かれ合っていた。

そして、それはただの幼い恋なんかじゃなかった。

真っ直ぐな想いと、互いを想う気持ちで、しっかりと繋がっていた。

その現実から、無意識に目を背けようとして。

考えないようにして。

思い出さないようにして。

忘れようとして。

いつの間にか本当に忘れて。

そのまま10年経った。

 

千棘(楽と小咲ちゃんは両思いのまま……10年経って恋人として付き合った)

 

千棘(別れはしたけど……2人の気持ち、今、どうなっているのかな?)

 

千棘(まだ好きなの? それとも、そうじゃないの?)

 

だが、なんにせよ、言えることはーー

 

千棘(……あの頃の二人の気持ちに、私は割り込むようにして、ここまで来ちゃったんだ……)

 

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ふと、となりにいた楽が、不安そうに声をかけてくる。

 

楽「おーい、大丈夫か? 千棘。……なんか、思いつめてる顔してるけど」

 

その言葉に、千棘はふいに我に返り、彼の顔を見た。

 

そして、ゆっくりと笑った。

それは、はにかんだような、けれどどこか哀しみを滲ませた笑顔だった。

 

千棘(楽……アンタ、優しいね)

 

千棘(私、アンタの恋路を邪魔してばかりなのにさ)

 

千棘(そんな私を恨むどころか、こうやって隣に立ってくれてる)

 

千棘(そんなアンタへ……せめてもの誠意を込めて、私も今だけは、正直にーー)

 

千棘は俯き、小さく息を吸って、言葉を紡いだ。

 

千棘「ごめん……楽。私、気付いてたんだ。アンタさ……小咲ちゃんを追って、ここまで来たんでしょ?」

 

楽、明らかに動揺する。

 

楽「……え? なんで、それを……? 知ってたのか?」

 

千棘「はは……知ってたわけじゃないけどさ。わかるよ、さすがに。だって、私と話してる時、ずっと迷ってたもん。どこか上の空だし、目も合わせないこと、多かったし……」

 

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千棘「てことは……小咲ちゃんが、一人で天駒高原に向かっていて、アンタはあとからなんらかの形でその情報を得て、それを追ってる……そんなとこでしょ?」

 

楽「……すごいな、その通りだ。……すまねぇ、なかなか言い出せなくて」

 

千棘「いいの。……私がアンタの優しさにつけ込んじゃっただけだから」

 

千棘「楽は小咲ちゃんを追ってきた。……でも、このまま私と一緒に行ってくれるかなって。試しちゃった。気づいてないフリしちゃった」

 

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楽は黙ったまま、何も言わなかった。

 

千棘「そしたらさ……アンタ、普通に一緒に行ってくれたから……。ホント、バカみたいに優しくて……。バカみたいなんじゃなくて、バカでしょ」

 

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千棘「私、あんなにアンタと小咲ちゃんに迷惑ばかりかけてるのに……」

 

千棘「なんで優しくするのよ……突き放せばいいじゃない……」

 

千棘「ホント、ムカつくよ……アンタのこと……」

 

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笑いながらも、その瞳はうっすらと潤んでいた。

楽は、千棘の涙を直視できなかった。

 

頬にひとすじ、静かに伝う涙。

あの千棘が、こんなふうに誰かに素直な気持ちを見せるなんて。

それだけで、胸が締めつけられるようだった。

 

楽「俺はただ単に……お前と……」

 

何か言おうとした。でも、言葉が出てこなかった。

千棘は、静かに、そして真剣に彼の目を見つめた。

 

千棘「ねえ、楽。ーー楽は、小咲ちゃんと……どうなりたいの?」

 

楽「え?」

 

千棘「この先に、いるんでしょ、小咲ちゃん。ここまで追いかけてきて、小咲ちゃんを見つけて……。それで、アンタはどうしたいの?」

 

質問はシンプルだった。でも、その意味は重かった。

楽は一瞬、目を逸らし、風に揺れるススキの方へ視線を向けた。

 

楽「……わりぃ、そこまで深く考えてなかったわ。はは……会って何言えばいいんだろうなww でもさ、追いかけないって選択肢だけは、最初から俺の中になかったんだ」

 

それは、正直な言葉だった。

 

楽「こんなに移動時間あったんだから、それくらい考えとけよって思うよなw 俺もそう思うww いやぁ、色々考えたんだけど、どれもしっくりこなくてさぁ……」

 

小咲に何を伝えるかーーそこまで決まっていたわけじゃない。

だが「伝えたい」という気持ちだけは、確かにあった。

 

千棘「……。そっか」

 

その言葉に、千棘の胸がチクリと痛んだ。

 

わかっていた。

ずっと前から。

この恋が、報われない可能性があることも。

傷つくかもしれない。

もう今までのように戻れないかもしれない。

でも、それでも、伝えたかった。

伝えたい気持ちの方が大きくなってしまった。

 

今しかない。

今、言わなければ。

楽にこれ以上、一歩でも進まれたら。

すべてが手遅れになる。

千棘だけが分かる確信だった。

 

千棘「……楽。こんな時にごめん」

 

千棘は一歩、草原の中で前に出た。

そして、風に背中を押されるように、言葉を投げた。

 

千棘「でも、こんな時だからこそ、ちゃんと伝えたいんだ」

 

その声は、少し震えていた。

けれど、真っ直ぐだった。

逃げずに、彼だけを見ていた。

 

千棘「ずっと、ずっと言いたかったの。でも言えなかった。素直になれなかった」

 

千棘「言ったら壊れる気がして……全部失いそうで、怖くて……」

 

そう話す彼女の目に、うっすらと涙が浮かんでいた。

けれど、迷いはなかった。

ここで言わなければ、一生後悔する。

 

だから、千棘は言った。

 

千棘「でも、もう逃げない。決めたんだ。ちゃんと言う」

 

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千棘「わたし、楽のことが……好き」

 

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千棘「死ぬほど、大好きなの」

 

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その一言に、草原の時間が止まった。

風が吹いた。

涙が、頬を伝って落ちた。

 

千棘「ずっと言えなくて、ごめんね……?」

 

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楽は言葉を失っていた。

ただ呆然と、目の前の少女を見つめていた。

 

不器用で、素直じゃなくて、強がりばっかりだった彼女がーー今、誰よりもまっすぐに、愛を告げてくれた。

 

心の奥の何かが震えた。

それは、罪悪感でも、驚きでもない。

“想い”が、真っ直ぐに胸に届いた音だった。

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