ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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千棘さん……頑張ったね。
感情移入して、泣きながら書いたわ。


ガンバレ

秋の夕暮れが、天駒高原を橙色に染め始めていた。

草原を吹き抜ける風は冷たくなり始め、けれどどこか優しく、2人の間を静かにすり抜けていく。

 

遠くには山の稜線。

空は果てしなく澄んでいて、太陽がゆっくりと西へ傾いていく。

すべてが、美しく、儚い。

 

千棘の足元で、風に揺れるワンピースの裾。

その手は小さく握られ、肩はかすかに震えていた。

 

けれど、彼女の瞳だけは、まっすぐに楽を見ていた。

恐れも、迷いもなく。

ただ、今の気持ちを全力でぶつけるために。

 

千棘『わたし、楽のことが……好き』

 

千棘『死ぬほど大好きなの」

 

その言葉は、決して大げさなものではなかった。

むしろ静かに、けれど凛として、高原の空に吸い込まれていく。

 

そしてーー時が止まった。

どれほどの間、楽は黙っていただろうか。

目を伏せたままの彼は、何かと戦っているように見えた。

その胸の内を整理するように、深く、長い呼吸を繰り返す。

そして、やがて顔を上げた。

 

楽「千棘……ありがとう。よく、勇気出して言ってくれたな……」

 

その声は、柔らかく、暖かく。

確かな誠意がにじんでいた。

 

楽「実は……っていうか、もうバレてると思うけど……」

 

楽「……。……俺も、お前が……好きなんだ」

 

千棘「……え?」

 

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言葉が、千棘の胸に静かに落ちた。

 

楽「最初はお前のこと、うるさくて、勝ち気で、暴力的で……ホントに、苦手だなって思ってた」

 

千棘「……ひどww」

 

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微笑むように、涙を堪えるように言った千棘に、楽もまた照れくさそうに続けた。

 

楽「でもさ。俺がいて欲しい時にそばにいてくれて。くだらないことで笑い合えて、ケンカしても、気まずくなっても、また自然と戻れて……。気づいた時には、もう“偽物”なんて思ってなかった」

 

そこには、作られた関係なんかじゃない。

小さなドラマの積み重ねが、嘘じゃない証として刻まれていた。

 

楽「お前と一緒にいると、俺が知らない世界に触れられる気がするんだ。お前となら、未来がどうなっても、俺は笑っていられる。そんな気がしている」

 

千棘の目に、ふたたび涙が浮かんだ。

けれど、その幸福な一瞬は――長くは続かなかった。

 

楽「ーーでも、ダメなんだ」

 

その言葉が落ちた瞬間、空気が凍りついたようだった。

 

千棘「……え?」

 

楽「すまない、千棘。俺は……どうしても、小野寺に会いたい」

 

その言葉を待っていたかのように、楽と千棘の間に風が吹く。

 

楽「ここでお前の気持ちに頷いてしまったら、俺は小野寺とは、もう二度と会えない気がするんだ」

 

千棘「……そう。そっか……うん、そうだよね」

 

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千棘「私じゃ……ダメだったんだね」

 

楽「違う!!」

 

その瞬間、彼の声が草原に響いた。

 

楽「違う! 違うんだ、千棘! お前は全然わかってない! むしろ逆だ!」

 

楽は泣いていた。

千棘は楽が涙を流しているところを初めて見た。

 

楽「お前がダメなんじゃない。お前じゃなきゃダメな時だって、何度もあった。今だって、お前が好きだ。その言葉に、嘘はない」

 

楽「ちゃんと、はっきり、心の中で確かめた。俺は……お前と小野寺、どっちも好きなんだよ!」

 

その叫びは、風を突き破るほどまっすぐだった。

 

千棘は目を見開いたまま、動けなかった。

好きだと言ってくれた。

でも、それは同時に、決して彼女だけに向けられたものではなかった。

 

千棘「……楽。アンタ、2回小咲ちゃんにフラれているんだよ? 小咲ちゃんがこのあと、もし、またアンタをまた振ったらーーアンタにはもう、何も残らないんだよ?」

 

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千棘「だって、どうせアンタは、小咲ちゃんにフラれたとしても、もう私の元にも万里花の元にも来ないの、わかっているから……」

 

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言葉は、絞り出すように。

胸の奥に棘が刺さるのを感じながら、それでも投げかけずにはいられなかった。

 

楽「……ああ。分かってる。全部、分かってる。フラれたら、俺にはもう、なにも残らない。その時は多分、一生立ち直れないかもしれない」

 

彼は苦笑した。

けれど、その瞳は真剣だった。

 

楽「でも……それでも、小野寺に会いたいんだ。どうしても……あのときの“さよなら”に納得できなかった。あれが最後になるなんて、思いたくない。たとえもう一度フラれるとしても……それでも、小野寺にちゃんと想いを伝えて、それで、終わりにしたいんだ」

 

風が吹いた。

千棘の金髪が揺れ、彼女の頬を撫でていく。

沈黙が訪れる。

やがて、その沈黙を破ったのは、千棘だった。

 

千棘「……そっか。うん。……アンタらしいや」

 

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その笑みは、どこまでも強がりで、どこまでも優しかった。

それでも、楽にはわかってしまった。

その笑みが、どれほどの痛みと葛藤の果てに絞り出されたものか。

 

千棘は、ほんの少し唇を噛んだ。

それから、精一杯の明るさを込めて、言った。

 

千棘「行ってらっしゃい、楽。私の“ダーリン”」

 

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その一言に、すべてが詰まっていた。

想いも、未練も、覚悟も、そして――愛情も。

 

楽は、一瞬だけ目を伏せた。

 

楽「ああ……。またな、千棘。俺のハニー」

 

その瞼の裏に、今にも泣き出しそうな千棘の笑顔が焼き付いて離れなかった。

 

でもーー振り返らなかった。

振り返ってしまえば、きっと引き返せなくなるから。

だから彼は前を向いたまま、ただまっすぐに草原を駆け出した。

 

その背中を、千棘は静かに見送った。

手を振りながら、小さく笑いながら、涙を流しながら。

あの風の吹き抜ける草原で、少女は一人、しばらく空を見上げた。

やがて、両手で顔を覆い、その場に膝をつく。

 

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愛した人の背中に、永遠の“頑張れ”を、心から贈りながらーー

 

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