ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜   作:nemu1116

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小野寺さんたちが結ばれた一方で、
千棘さんや万里花さんたちは?


シツレン

天駒高原の風は、日没が近づくにつれ、どこか冷たさを帯びはじめていた。

 

黄金色の草原の中に、ぽつんとしゃがみ込む少女の姿があった。

肩を震わせ、背を丸めて、ただ風に身を委ねるように。

 

ーー桐崎千棘。

 

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恋に破れた少女は、立ち上がることすらできなかった。

強く、まっすぐに、すべてを賭けて伝えた想い。

それが届かなかったという事実は、胸の奥を焼き焦がしていた。

 

千棘「……あはは、なにやってんだろ、私……」

 

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千棘「そろそろ、立ち上がらないと……」

 

つぶやいた声はかすれていて、自分でも驚くほど弱々しかった。

そんな千棘の背後から、落ち着いた足音が近づいてくる。

 

万里花「……よく、頑張りましたね」

 

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その静かな声に、千棘の肩がピクリと震えた。

 

千棘「……えっ……?!」

 

振り返ると、そこには凛と立つもう一人の少女がいた。

特徴的な艶のある栗色の髪。

上品で、しかしどこか芯の強さを感じさせる瞳。

橘万里花だった。

 

千棘「ま、万里花…………え!?」

 

千棘の声は掠れ、涙で濡れた顔はぐしゃぐしゃだった。

それでも、驚きのあまり、咄嗟に身を起こすことさえできなかった。

万里花は柔らかく微笑みながら、千棘の隣へと歩み寄る。

 

万里花「ええ、驚きますわよね。“なぜアンタがここに?”とおっしゃりたいのでしょう。では、ご説明しましょうか。少し長くなりますが」

 

そう言って、万里花はまるで読み聞かせでも始めるかのような落ち着いた口調で、物語を語り出した。

 

万里花「今朝、わたくしは楽様のお宅を訪ねましたの。“橘特製・元気の出るスペシャル弁当”をお届けしようと思って……ふふ、もちろんハート形の卵焼きも添えてね」

 

そう語る万里花の目元には、ほんのわずかに意地悪そうな色が滲んでいた。

 

万里花「でも、家には楽様がいませんでしたの。ご家族に伺っても、“早朝に出て行った”としか……」

 

万里花「でもわたくし、どうしてもお弁当を召し上がっていただきたくって。すぐに、楽様の現在地を調べました。……まあ、“警視総監の一人娘”という立場を存分に利用して、少々“高度なルート”を使わせていただきましたがね?」

 

千棘はその言葉に、驚愕の表情を浮かべる。

 

千棘「……それ、ちょっとアウトじゃない?!」

 

万里花「善悪で物事を測っていては、恋は勝てませんわ。結果的にこうして、あなたとも再会できたのですもの。許される範囲内でしょう?」

 

少しふざけたように笑いながらも、万里花の目には真剣な色が宿っていた。

 

万里花「ほどなくして楽様の現在位置を特定ーーするとなんと、西日本側に新幹線で向かっている最中じゃありませんの? わたくしはすぐにピンと来ましたわ。楽様がこのタイミングで西へ向かうーーこれは、【約束の地】……天駒高原を目指している以外、ありえないと」

 

千棘「はは……すごい洞察力ねw」

 

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千棘の顔に僅かに笑顔が戻った。

 

万里花「わたくしはいてもたってもいられず、すぐに天駒高原を目指しましたわ。ええ、もちろんヘリで」

 

千棘「ヘ、ヘリィ……?」

 

万里花「“橘家特製・非常時緊急移動用ヘリコプター”ですわ。正式名称はもう少し長いですが、端折ります♪」

 

千棘は唖然とした顔で言葉を失っていた。

 

万里花「結果として、楽様を追い越してしまい、楽様より早く天駒高原に着いてしまいまして。そこの宿舎から双眼鏡で様子を伺っておりましたの」

 

万里花はテヘッと舌を出す。

 

万里花「彼を待って何分かした頃……一人の女性が通りかかったんです。そう、なんと、楽様ではなく小野寺さんが先に現れるじゃありませんか。わたくしの頭に【?】がたくさん浮かびましてよ」

 

万里花「わたくしは状況を整理し、よくよく考えました。なるほどなるほど……と。つまり、先に小野寺さんが天駒高原を目指し、楽様は小野寺さんを追って、後から天駒高原を目指していた、と……物語がつながりました」

 

万里花「これでは、お弁当をお渡しするどころではありませんの」

 

万里花はふう、とため息をつき、続ける。

 

万里花「それからしばらくして、楽様が現れました。と思ったらーー何故か桐崎さん、あなたも一緒じゃあ、ありませんか? 正直驚きましたよ?」

 

万里花「まあ、何故一緒だったのかはこの際、聞きませんが……。貴女と楽様のやり取り、ここから全て拝見させていただきました」

 

万里花「ええ、文字通り、すべて見届けました。あなたの想い、言葉、表情、涙……一瞬たりとも見逃しておりません」

 

千棘「はは、見られてたんだね。情けなかったでしょ……」

 

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千棘がぽつりと呟く。

その声は、言い訳でも、泣き言でもなかった。

ただ事実を呟いただけのような、ひどく静かなものだった。

万里花はその隣にしゃがみ込み、優しく答えた。

 

万里花「情けない……? あれが?」

 

万里花「いえ……あれは、情けないどころか、わたくしの把握している恋の歴史の中でも……もっとも、誇り高い告白のひとつでしたわ」

 

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万里花「あれ以上の告白、ありえませんわよ。貴女は100点中120点の告白をしていました。正直、驚きましたし、嫉妬しましたよ」

 

千棘の目が、潤みを帯びて揺れる。

 

万里花「偽物偽物とウダウダ言っていたあの頃の桐崎さんからは想像がつかないような、気持ちの入った告白ーー楽様のお気持ちもだいぶ揺らいだことと存じますわ」

 

千棘「万里花……ありがとう」

 

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万里花「だからこそ、今はただ、胸を張ってくださいまし。あなたは、決して“負けた”のではありません。“選ばれなかった”だけです。貴女のその楽様を想う気持ちーー決してわたくしや小野寺さんに負けておりませんわ。わたくしには、分かりますの……痛いほどに」

 

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万里花の目からも涙が溢れる。

天駒高原に吹く風が、彼女たちの涙を優しくさらっていった。

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