ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
天駒高原は、まるで昨日の嵐のような出来事を優しく包みこむように、穏やかな朝を迎えていた。
遠くに広がる山並みは朝露に濡れた木々の緑と、ほんのり色づき始めた紅葉が淡く織り混ざり、まるで水彩画のような静けさと温かみをたたえていた。
草原を撫でる風はひんやりとして心地よく、草の先には露の粒が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
その中を、ふたりの男女が肩を並べて歩いていた。
昨日までのすれ違いも、涙も、不安も、すべては、この“最高の朝”を迎えるための伏線だった。
小咲は秋の風に揺れる髪をかきあげながら、ふと楽の横顔を見やる。
小咲「ねえ、一条くん。そういえば、わたしね、昨日この鍵を握ったまま寝たら……すごい夢見たんだよ?」
小咲はそう言って、自らの鍵を楽の前にかざした。
楽「すごい夢? どんなの?」
顔を傾ける小咲の表情は優しく、穏やかで、昨晩よりもさらに柔らかい笑みを浮かべている。
小咲「……えっとね、前提として……一条くんと千棘ちゃんが付き合ってて、しかも……結婚する直前だったのw」
小咲から爆弾発言が飛び出る。
楽「ぶwwwwまってwwwそれさ、ノリじゃ笑い飛ばせないやつだろ普通ww」
楽が吹き出す。
空気が一瞬で軽くなる。
小咲「しかもね、一条くんと千棘ちゃんの結婚式のウェディングケーキ……それをわたしが作ってたのww」
楽「は、はぁ?! いやいやいやwwwそれ拷問じゃん!ww ちゃんとそのケーキ、蹴り倒しといた?ww」
↓楽のイメージ(笑)
小咲「ええぇ?! いやいやいや! そんなことできないよぉ……ww」
楽「ていうかさ……今、幸せの真っ最中のはずなのに、なんでそんな真逆な夢見るのよww」
小咲「うぅ〜、ほんとにねww 辛くて、悲しくて……起きた瞬間、顔ぐしゃぐしゃで泣いてたw でも、起きたら隣に一条くんが寝ててさww」
楽「おうww」
小咲「安心してもっと泣いちゃったww」
楽「なんでやねんwww」
笑い合いながら歩くふたり。
風が髪を揺らし、柔らかい日差しが足元に落ちる影をゆっくり伸ばす。
楽(は〜あ、かわいいwwwかわいすぎるぜ小野寺//////)
楽(小野寺と話してると、何気ない会話でもずっと笑ってられるし、このおっとりとした国の天然記念物みたいな感じが、見てるだけでもマジで幸せになるww)
だがその次の言葉が、楽の“至福モード”に冷水を浴びせる。
小咲「ちなみに……わたしは夢の中のその当時……弥柳くんって人と付き合ってた……ww」
楽「へえ〜〜そうなんだ…………って、ぶふっwwwwww え?! ミ、ミヤナギ?! 誰それ?!」
小咲「あっ……えっと、わたしも夢に出てくるまで忘れてたんだけど……。覚えてるかな? 林間学校の時に、わたしが告白された人……です///」
楽「あ〜〜〜〜いた! いたいたいた! そんなことあったわ! 完っ全に思い出したわ!」
小咲「あはは……なんでわたし本人が忘れてるのに、夢に出てくるんだろうねww」
楽「あ〜あいつかぁ! くそ、ミヤナギめぇ……! 俺の小野寺を……よくも……!!」
今やすっかり“俺の小野寺”と口にするほどの独占欲と嫉妬心を抱えた楽は、わりとガチの目で怒りを燃やす。
小咲「お、落ち着いて?! 現実では何もないし、連絡先も交換してないんだよ?!」
楽「わかってるけどぉぉぉぉ!! なんかムカついてしょうがねぇえぇ!!」
小咲「えええ……ただの夢の話だから! ね? わたし、一条くんのことしか好きじゃないし……分かるでしょ?///」
楽はその言葉に一瞬でトロけかけながらも、思考は急に内省的になる。
楽(夢の中の話とはいえ、小野寺が他の男と関わっているだけで、このアホみたいな嫉妬心……やばいな、俺。どんだけ小野寺のこと好きなんだよ……///)
楽(っていうか、好きな人が別の異性と関わってるのって、こんなにも苦しくなるもんなんだな……)
楽(俺が小野寺と付き合っている最中、俺は千棘や橘と色んなことがあったけど……それを小野寺はこの嫉妬心を抱えながらも、当たり前のように俺に優しくしてくれていたのか……)
楽(仮に……? 小野寺が溺れたとして、そのミヤナギって奴が、小野寺に人工呼吸とかした日には……)
楽「……うわああぁぁぁぁ!!!!!」
小咲「……?!」
驚いて思わず足を止める小咲。
彼女の横で、楽はひとり本気の葛藤を爆発させていた。
楽「小野寺ってやっぱり天使だわ……」
その突然の呟きに、小咲は一拍置いて首をかしげる。
小咲「えww」
楽「俺には絶対耐えられない……ミヤナギめ……」
小咲「うぅ……ごめんね?! こんな話、しなきゃよかったかな……?」
楽「いや、ダメだ、小野寺! 今後も夢の中でミヤナギが出てきたら、逐一俺に報告するように!!」
小咲「う、うん……分かったよww」
言いながらも、小咲の顔は照れと可笑しさでいっぱいだった。
彼の不器用な独占欲は、言葉のひとつひとつに、愛しさと本気がにじみ出ていた。