「えっ………角……?えっ……え?何?ビースト?何かオレ悪いことした?」
混乱(3T)。
身に覚えは……いや、無い訳では無いけど。だとしてもこういうのって段階を踏むものでは?こんな自覚なくなれるものなら、なんだかリンボに申し訳ない気が────いや、しないな。
「カットイン見逃した……。こういう時は……何々は偽りの名~みたいなの考えるべきなのか?ジンルイシスベシフォーウ!!って感じで!?」
不味い。リアクションが完全にエレちゃんと一緒だ。あの時は落ち着いて対処したが、実際自分がその状況に陥ると冷静ではいられない。
誰かに相談しなくては。マシュに──負担にならないだろうか?ダ・ヴィンチちゃん?なんか危なさそう……。新所長はきっとお腹壊すだろうな……。カドックは──もう覚えていないんだっけか……。
いや、今オレは一人なんだった。
落ち着け、オレ。
虫歯を舌でいじるように、何の益もないのに頭に生えた塊を触る。
ビースト。
人類から生じた、人類を滅ぼす悪。人類の滅ぼすべき悪。
災厄の獣。
ああ、蓋をしたはずの黒い濁流が、心の底から這い上がって溢れる。
「はは……どうし、て……なんで……オ、レが」
ヤバい、笑い飛ばそうとしたはずなのに、涙が出てきた。
やっぱり、■■の言う通りだった。
七つの異聞帯を滅ぼして、ずっとずっと戦い続けて、屍の山を積み上げて。そんなオレは、日常になんて帰れなかったのか。
挙げ句、このざまだ。
自分の生存は罪だった。オレの所業は悪だった。
ごめん、パツシィ。オレは───。
アオォォォォオン!!!
雪原に雄叫びが響いた。
涙も忘れて辺りを見渡せば、遠くに狼の影。
否。
これしきの距離など障壁にもならぬと云うように、三度の跳躍でオレの目の前に着地した姿は。
丘のような巨駆。青灰の毛皮。背には首なし騎士。
「ロボ、それにヘシアン…………?」
黒い騎士が巨狼の背中から降り立つ。驚きを覚える暇もなく、彼が両手で手渡したのは───。
深緑のマントと外套。
アヴェンジャー、エドモン・ダンテスの衣服。
硬直するオレに、へシアンが一つ頷いた、気がした。
恐々手に取って身に着けてみる。しっかりとした存在感が肩に乗り、それでいて違和感なく体を包み込む。復習者の抱き続けた炎、その一端を確かに感じる。
これは、巌窟王がオレに贈ってくれた、のだろうか。
体の芯を貫いていた冷感が少しずつ解けていく。
オレを覚えているヒトが未だ居る。オレは未だ存在して良いのだと言ってもらえているような。
いつかの戦いを思い出す。先の見えない暗闇に、いつだって光をともしてくれたのは────。
「あぁ、ありがとう……みんな、あり、がとう………」
知らずのうちに涙が零れていた。
それはさっきまでの身を指すような痛みではなく、熱を持った涙だった。
へシアンが微笑んだ、気がした。
ロボが低くうなり、鼻先を軽く押し付ける。
オレは堪え切れずに強く目をつぶった。
目を開けば、そこには二人の姿はどこにもなく、一匹の小さな──ロボと比べたら小さな、しかし精悍で屈強な狼がいた。
彼は一度オレを見上げた後、人間になど興味はない、とでも言いたげに去っていった。
放心してへたり込み、空を見上げる。
さっきまであれだけ悩んでいたこと、人類悪だの獣だのがどうでもよくなるほど、澄んだ青空だった。
巌窟王のマントと帽子は体を確実に温め、休息を齎していた。
不意に、体が動いた。
手に握りこまれているのは、紫の箱。星の意匠があしらわれた、紙巻き煙草。
巌窟王の好んだ銘柄。彼からの贈り物。
そうだ。不図理解した。きっとこれが、オレの宝具だ。
当然。突出した武器も、神からの恩寵も、名だたる逸話も持たない、オレの唯一の貴い幻想。
絆。
きっと今なら、許されるはず。
「
指先で虚空にルーンを刻む。師匠に教わった技の1つ。
小さく火花の音を散らし、手のひらに炎が現れた。
キャスニキのように派手な爆発なんて起こせないけど、オレの貧弱な魔術回路でもこれくらいはできる。
タバコの先端を炎にくぐらせ、逆側を口に咥える。
燃える紙と、タールの匂い。
小さく息を吸って。
「ゲホッ……ゴホ、ゲホ」
喉に刺激が流れ込んできて噎せた。
涙に視界が滲んで、立ち昇る煙と空の雲が混ざる。
深呼吸。
もう一度煙草を咥えて、吸う。
「……………ふぅ」
今度は咳き込まなかった。
喉を潜り、肺を満たす煙を吐き出す。
微かな清涼感。熱感。どうしようもない程の異物感と、どうにも体に馴染む悦楽。
「婦長の言う通りだ……余り体に良いものじゃないな、コレ」
紙巻に口をつけ、吸う。
離して、ふっ、と煙を吐き出す。
白い煙が揺蕩い消えていくのを見届けて、再び煙草を咥える。
「…………………」
何も考えずに紫煙を燻らせていれば、いつの間にか陽が傾き始めていた。指に挟んだ煙草も、いつしか殆どが灰になっていた。
紫の箱をしまいながら考える。
これから先、またこの箱を開けることはあるのだろうか。
道なき荒野を往く時に、この炎が恋しくなるときが来るかもしれない。
仄暗い悦楽に浸ることはあっても、流されることは無いように。
心に刻む。
「クハハ」
胸にわだかまる閉塞感を吹き飛ばすように、そう笑った。
第一宝具発動履歴
ヘシアン・ロボ:憑依現界(自発)
エドモン・ダンテス:宝具『厳窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)』譲渡(自発)
他多数:現界(却下)(調停済)
神霊's in カルデア「恩寵?あるが??」
毎話毎話何千文字も書く皆さんは凄いなあ……、と。
マイペースな投稿ですが、以後もよろしくおねがいします。