其は人類最後の/   作:血中ウィルキンソン濃度

2 / 5
お気に入り登録、感想等々本当にありがとうございます。


明日の先

「えっ………角……?えっ……え?何?ビースト?何かオレ悪いことした?」

 

 混乱(3T)。

 

 身に覚えは……いや、無い訳では無いけど。だとしてもこういうのって段階を踏むものでは?こんな自覚なくなれるものなら、なんだかリンボに申し訳ない気が────いや、しないな。

 

「カットイン見逃した……。こういう時は……何々は偽りの名~みたいなの考えるべきなのか?ジンルイシスベシフォーウ!!って感じで!?」

 

 不味い。リアクションが完全にエレちゃんと一緒だ。あの時は落ち着いて対処したが、実際自分がその状況に陥ると冷静ではいられない。

 

 誰かに相談しなくては。マシュに──負担にならないだろうか?ダ・ヴィンチちゃん?なんか危なさそう……。新所長はきっとお腹壊すだろうな……。カドックは──もう覚えていないんだっけか……。

 いや、今オレは一人なんだった。

 

 落ち着け、オレ。

 虫歯を舌でいじるように、何の益もないのに頭に生えた塊を触る。 

 

 ビースト。

 人類から生じた、人類を滅ぼす悪。人類の滅ぼすべき悪。

 災厄の獣。

 

 ああ、蓋をしたはずの黒い濁流が、心の底から這い上がって溢れる。

 

「はは……どうし、て……なんで……オ、レが」

 

 ヤバい、笑い飛ばそうとしたはずなのに、涙が出てきた。

 

 やっぱり、■■の言う通りだった。

 七つの異聞帯を滅ぼして、ずっとずっと戦い続けて、屍の山を積み上げて。そんなオレは、日常になんて帰れなかったのか。 

 

 挙げ句、このざまだ。

 自分の生存は罪だった。オレの所業は悪だった。

 ごめん、パツシィ。オレは───。

 

 

 

 

 

アオォォォォオン!!!

 

 

 雪原に雄叫びが響いた。

 涙も忘れて辺りを見渡せば、遠くに狼の影。

 

 否。

 

 

 これしきの距離など障壁にもならぬと云うように、三度の跳躍でオレの目の前に着地した姿は。

 丘のような巨駆。青灰の毛皮。背には首なし騎士。

 

「ロボ、それにヘシアン…………?」

 

 黒い騎士が巨狼の背中から降り立つ。驚きを覚える暇もなく、彼が両手で手渡したのは───。

 

 深緑のマントと外套。

 アヴェンジャー、エドモン・ダンテスの衣服。

 硬直するオレに、へシアンが一つ頷いた、気がした。

 

 恐々手に取って身に着けてみる。しっかりとした存在感が肩に乗り、それでいて違和感なく体を包み込む。復習者の抱き続けた炎、その一端を確かに感じる。

 

 これは、巌窟王がオレに贈ってくれた、のだろうか。

 

 体の芯を貫いていた冷感が少しずつ解けていく。

 オレを覚えているヒトが未だ居る。オレは未だ存在して良いのだと言ってもらえているような。

 いつかの戦いを思い出す。先の見えない暗闇に、いつだって光をともしてくれたのは────。

 

「あぁ、ありがとう……みんな、あり、がとう………」

 

 知らずのうちに涙が零れていた。

 それはさっきまでの身を指すような痛みではなく、熱を持った涙だった。

 へシアンが微笑んだ、気がした。

 ロボが低くうなり、鼻先を軽く押し付ける。

 

 オレは堪え切れずに強く目をつぶった。

 目を開けば、そこには二人の姿はどこにもなく、一匹の小さな──ロボと比べたら小さな、しかし精悍で屈強な狼がいた。

 彼は一度オレを見上げた後、人間になど興味はない、とでも言いたげに去っていった。

 

 

 

 放心してへたり込み、空を見上げる。

 さっきまであれだけ悩んでいたこと、人類悪だの獣だのがどうでもよくなるほど、澄んだ青空だった。

 巌窟王のマントと帽子は体を確実に温め、休息を齎していた。

 

 

 不意に、体が動いた。

 手に握りこまれているのは、紫の箱。星の意匠があしらわれた、紙巻き煙草。

 巌窟王の好んだ銘柄。彼からの贈り物。 

 

 そうだ。不図理解した。きっとこれが、オレの宝具だ。

 当然。突出した武器も、神からの恩寵も、名だたる逸話も持たない、オレの唯一の貴い幻想。

 絆。 

 

 きっと今なら、許されるはず。

 

(アンサズ)」 

 

 指先で虚空にルーンを刻む。師匠に教わった技の1つ。

 小さく火花の音を散らし、手のひらに炎が現れた。

 キャスニキのように派手な爆発なんて起こせないけど、オレの貧弱な魔術回路でもこれくらいはできる。

 

 タバコの先端を炎にくぐらせ、逆側を口に咥える。

 燃える紙と、タールの匂い。

 小さく息を吸って。

 

「ゲホッ……ゴホ、ゲホ」

 

 喉に刺激が流れ込んできて噎せた。

 涙に視界が滲んで、立ち昇る煙と空の雲が混ざる。

 

 深呼吸。

 

 もう一度煙草を咥えて、吸う。

 

「……………ふぅ」

 

 今度は咳き込まなかった。

 喉を潜り、肺を満たす煙を吐き出す。

 微かな清涼感。熱感。どうしようもない程の異物感と、どうにも体に馴染む悦楽。

 

「婦長の言う通りだ……余り体に良いものじゃないな、コレ」

 

 紙巻に口をつけ、吸う。

 離して、ふっ、と煙を吐き出す。

 白い煙が揺蕩い消えていくのを見届けて、再び煙草を咥える。

 

 

「…………………」

 

 何も考えずに紫煙を燻らせていれば、いつの間にか陽が傾き始めていた。指に挟んだ煙草も、いつしか殆どが灰になっていた。

 

 紫の箱をしまいながら考える。

 これから先、またこの箱を開けることはあるのだろうか。

 道なき荒野を往く時に、この炎が恋しくなるときが来るかもしれない。

 仄暗い悦楽に浸ることはあっても、流されることは無いように。

 心に刻む。

 

「クハハ」

 

 胸にわだかまる閉塞感を吹き飛ばすように、そう笑った。

 

 

 

 

 

 

 

第一宝具発動履歴

 

ヘシアン・ロボ:憑依現界(自発)

エドモン・ダンテス:宝具『厳窟王(モンテ・クリスト・ミトロジー)』譲渡(自発)

 

 

 

他多数:現界(却下)(調停済)




神霊's in カルデア「恩寵?あるが??」

毎話毎話何千文字も書く皆さんは凄いなあ……、と。
マイペースな投稿ですが、以後もよろしくおねがいします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。