其は人類最後の/   作:血中ウィルキンソン濃度

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歩き出す運命.1

 耳元で風切り音が荒れ狂う。

 冷気が顔面に打ち付ける。

 視界の端で、雪景色が猛烈な勢いで流れ去っていく。

 

「ちょ……ステイ!ステイッッ!!」

 

 制止の声は虚空に響くのみ。我が身を襲う暴虐は止める気配を見せず。

 オレはひしとその背中にしがみつき、叫ぶ事しかできなかった。

 

「ゆっくり!ゆっくりお願い、アウラード!!」

 

 

 

 

 スフィンクス・ウェヘムメスウト。

 強靭な巨体と膨大な魔力、高い知性を兼ね備え、全身は銀河の如く輝く。

 並のサーヴァントを寄せ付けない圧倒的な戦闘力を誇る、正に神獣の王者────

 

 の、幼体。即ちスフィンクス・アウラード。

 太陽王オジマンディアスから下賜された、バレンタインのお返しである。

 

 なんちゅうモンを渡してくれたんや。

 と心から絶叫したものだが、その脚に触れた瞬間、愛くるしい肉球の魅力に抗う術もなく誰もが陥落した。上目遣い(目無いけど)で見つめられれば、突き返すことなんて不可能だろう。

 何時しかアウラードはマイルームマスコット勢の一員として、激闘の日々の癒しとなっていた。フォウ君と戯れてる姿が可愛いんだなコレ。

 

 やがて月日と共にアウラードは成長していった。

 引き締まった四肢。立ち上る神代の魔力。深く浮かび上がる銀河の星々。成体にはまだ遠い若猫(?)だが、一端の神獣である。

 勿論ニトクリスにはバレて一悶着あったが。

 

 そう。そのスフィンクス・アウラードである。

 サーヴァントとも戦える神獣は今、オレを背にのせてエジプトの雪原を大爆走していた。

 

 

 話は今朝、仮宿を辞した所から始まる。

 北──アレクサンドリアに向かって歩くと決めたは良いものの、所々郊外の面影を匂わせるだけの何もない雪原をひた歩くのはただただしんどかった。北米横断に比べれば距離は遥かに短いが、道連れが居ないのは堪える。

 そんなはずないのに、風が一段と寒くなった様に感じた。仲間の大切さを今になって実感するとは。

 

 ……ならば、仲間を呼び出しちゃえば良いじゃない。

 

 ふとそんな名案が思い付いた。

 オレの宝具なら、自律する縫いぐるみや動物でも呼び出せるのではないか──いまだに自分の能力が分からないのってヤバいな──と。

 思い立ったが吉日、早速試してみよう。折角なら背中に乗れるような子がいいな……。

 

 そうして呼び出したのがアウラード。

 オジマンディアスを脳裏に浮かべて念じると、馬よりも一回り大きい体躯が金色の粒子を伴って現れる。同時に、魔力と魔力ではない「何か」が自分から抜け出ていく感覚がした。

 

 時を超えてエジプトの大地に再びスフィンクスが降り立つ。

 雪原が一瞬ぶれ、オレは熱砂の大地を幻視する。

 宇宙を映す体躯は、オレが目覚めてから見た内で一番の存在感に満ちている。初めて見た人は見下ろされただけで気圧されてしまうだろう。

 

「…………」

 

 太陽の化身たる神獣は、その無貌にてオレを見つめ。

 身を屈め、躯をたわませ。

 跳躍────。

 

「わっ……ぷ、はは、よせ、くすっぐたいって!」

 

 全力でじゃれついてきた。

 小さな頃から元気一杯で、成長しても無邪気に遊び回るのが好きな子だった。

 今も巨体でオレを押し倒し、鼻面を押しあて(鼻無いけど)、全身をなめ回している(舌無いけど)。端から見たら人間が真っ青なライオンに食い殺されているように見えるのではないか。

 

「あははは、ひぃ、ギブ、ギブ!判った、判ったから!」

 

 オレの叫びを聞いて漸く満足したか、アウラードは顔を離し雪の上に座り込んだ。

 再会にコレほど喜んでくれるのはオレとしても嬉しいが、自分の大きさを考えてほしい。

 そんなとこも可愛いんだけどね!

 

 さて、と。

 懐から羅針盤を取り出す。太陽の方角からしても、目的地のアレクサンドリアは北で間違いない。

 

「アウラード。あっちの方、ずーっと行った所に用が有るんだ。乗せていってくれる?」

 

 アウラードは返答の代わりに耳をパタパタとさせる。実にcuteだ。

 

 屈んでくれたアウラードの背中に跨がり、腕でホールドする。

 取っ掛かりもなさそうな体表なのに、しっかりと掴めているのが不思議だ。

 

「よし、出発だ」

 

 ぽん、とアウラードの背中を叩く。

 同時、彼は限界まで体を屈め、前傾させた。途方もない力を受け、靭やかな肢体が強張るのを感じる。

 

 あ、これヤバイやつだ────。

 

 雪煙を置き去りに、神獣が駆ける。

 強烈な風が顔を叩く。あまりの加速度に、一瞬意識が飛んだ。

 

 冒頭に戻る。

 

 

 

 暫く後。

 思い切り走って満足したのか、数十分経てばスピードは小走り程度に抑えられたが、その頃には既にオレはへとへとだった。自分の足で歩くよりよっぽど疲れる。帽子が飛んで行かなかったのは幸運だった。

 

「どうした?」

 

 ふとアウラードが足を止めた。

 いつしか周囲には殆ど木が生えておらず、かわりに建物が疎らに建つ平原になっていた。相変わらず人の気配が一切しないのが不気味だ。

 

 アウラードの視線を追っていけば、その先には大規模複合型商業施設──ショッピングモールの廃墟があった。

 遠くから見ても随分とでかい。流石にドバイ・モール程ではないけど。全体的に近未来な印象を受けるが、西暦2200年代にショッピングモールなんて残っているのだろうか。

 

 アウラードは廃墟を見つめたまま、微かに唸り声をあげている。何やら全身が固く緊張している。

 

「なにか見つけ───」

 

 閃光。

 

 背中をさすろうと手を伸ばした瞬間、ショッピングモールの一角から爆炎が立ち上った。

 遅れて響く爆発音。

 

「!!」

 

 いったい何が!?

 その問いに答えるものはいない。神獣はただその無貌で見つめてくるだけ。

 一瞬の逡巡の後、腹をくくる。

 

「確かめようか、アウラード」

 

 

 

 スフィンクスの健脚にかかれば、ショッピングモールまでは直ぐに着いた。

 

 辺りには異様な気配──そして魔力が満ちている。アウラードが緊張しているのはこの為か。

 首を叩いて背中から跳び降りる。ここから先は慎重にいかなくてはならない。

 

 手の平に意識を込める。

 虚空から現れるのは、無骨かつ流麗な刃。

 竜殺しの勇士、その贈り物。

 ダマスク鋼の短剣。

 しっかりとした重さが意識を冴えさせる。適度な緊張感が背筋を伝う。

 

「行こう」

 

 昼間とは思えない暗闇が、俺たちを飲み込もうと口を開けているかのようだ。

 ガラスの無惨に割れた正面口から、一歩を踏み入れた。




BOXイベ周回したい……でも時間がない……。冠位戴冠戦に向けてスキル育成をサボってたツケがここに……。

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