暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
高貴な衣装に身を包む少女を中心に円陣を組む騎士は突如乱入した『武士』とその後ろで暴れ回る巨大蜘蛛アラケネ・マドゥルガの登場に、一瞬狂乱に陥りかけるも指揮官の女騎士の一喝によって統制を取り戻した。
「援軍……だと?」
女騎士は『武士』の正気を疑いつつゴブリンの群れが崩れている事実に何とも言い難い表情を浮かべる。
何か言葉にしようとして失敗し、だが状況は彼女に熟考の暇を与えなかった。
大地が、震え、身じろぎ――火山ガスが噴き出すかのように、弾けた。
まるで地面の下に潜んでいた巨大な圧力に耐えかねたようにブワリと『
「まさか、《瘴気》っ!? 全員、お嬢様のもとに集まれ!」
その黒いナニカを見た女騎士が鋭く号令を発すると兵士達が急いで動き出す。その動きは精鋭故の鋭さというよりも純粋に怯えから来るように見えた。
「ふむ……」
そして『武士』も兵士達の動きに紛れてさり気なく、あたかも最初からそこにいたかのように兵士達の群れに紛れ込んだ。周囲の兵士からなんだコイツ……!? という顔で睨まれたが、迫り来る《瘴気》を注視する『武士』はそれを無視した。
「く、来るぞ……!」
「どうする? アレは切っても突いても効かん……」
「お嬢様の《浄化》が頼りだ! お嬢様だけは何としても守れっ!!」
どうやらあの幼い少女が鍵であるらしい。視線を送れば幼い顔に緊張と決意を浮かべているのが見て取れた。
「こ、この……! こっちへ来るな!」
ジワジワと迫りくる《瘴気》へ一部の兵士は槍を振り回すが、
抵抗虚しく最前列にいた数名の兵士に黒い瘴気が触れたその瞬間、『武士』は目を疑う。
兵士に触れた《瘴気》が生き物のように
「ぐ、ぉ、ぉぉぉ――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!」
一瞬前まで
(うおおおおおおおっ、エグッ!? モザイクかけろっ! R-15指定だ!)
(俺達はとっくの昔に成人済みだろう。まさかアレがクレアトールの言う《
真面目だがどこかズレた脳内会話を交わす傍で《瘴気》に侵された兵士は苦痛を堪えるように身体を激しく震わせ、魂消るような叫び声をあげる。その瞳は血走り、筋肉がめちゃくちゃに蠕動し、全身からどす黒い《瘴気》が噴き出していた。
数秒後、噴き出す《瘴気》が収まった。が、兵士の目は焦点が合わず、危険な光を宿している。明らかにまともな状態ではない。
「――――ハハ」
そして。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
「馬鹿ッ! 止めろ、狂ったか!?」
ブンッと凄まじい風切り音とともに黒い《瘴気》を纏う兵士は同僚であるはずの兵士へ向けて一切の躊躇なく槍を振りかぶった。
バキッ! 後先考えない全力で振り回された槍と槍が交差する。ぶつかり合って弾けた衝撃にしなやかで頑丈な槍の柄が大きくたわみ、歪んだ。
「何をしている!? やめろ、正気を取り戻せ!」
仲間の狂乱に狼狽しつつ必死に抑え込もうとする兵士達だったが、《瘴気》に侵された兵士の暴走は収まらない。数人がかりの拘束をとんでもない馬鹿力で振り回している。
元々暴れ回る大の男を無傷で取り押さえるのは手練れでも難しい。首筋に手刀を入れたり鳩尾に拳を叩き込んで気絶するのはフィクションだけだ。
(マズいな、もう少し下がるべきか。幸い《瘴気》とやらは小康状態だが……)
今のところ周囲を漂っていた《瘴気》は全て暴れ回る兵士の体内へ潜り込んだらしく、
(いや、いっそこいつらを囮にするか――)
と、生存最優先の血も涙もない思考を回す『武士』。戦闘用にチューニングした人格なため、共感性が極端に低いのだ。いちいち敵に共感しては敵を倒せるはずがない。味方ならまた別だが、
どこまでも冷静に、冷徹に『武士』はただ己の生存のみを考える。それはこの場を凌いで命を繋ぐという観点”では”間違いなく正しい。
(……いや、ちょっと待ってくれ『武士』)
だがその判断に
(常太郎? だがここは危険だぞ。撤退がベターと提言する)
元より『武士』にとってこの場の者たちは丁度よくアラケネ・マドゥルガを擦り付けるための囮に過ぎない。恩を売ってコネができれば最上だが、できずともこちらの腹は痛まないのだ。
(
『武士』という
いい意味で他人事ライクな視点、俯瞰的に現状を捉えここは賭けの張り時だと判断を下したのだ。
(3つ目の《紋章》もある。『武士』に負担をかけちまうけど、分の悪い賭けじゃない。どう思う?)
(諸手を挙げて賛成はしないが……一理ある。それにお前が決めたのなら『
『武士』も絶対反対と主張するほど強い論拠はない。現地民とのコネが強いアドバンテージになるのも確かだ。故に最終的に常太郎の意思を受け入れたのだった。
(まず方針を示せ。俺はそれに従おう)
(おうよ。それじゃ恩を高値で押し売りに行くか。楽しみだなっ!)
ニヤリと『武士』にだけ分かる悪戯っ子の笑みを浮かべた常太郎は楽しそうにその企みを話し始めた。