暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第五話 安心しろ、峰打ちだ(ショットガン)

 一方その頃。

 

「よりにもよってこのタイミングで《瘴気》が出るかッ……アウレリアお嬢様、《聖痕》は?」

「申し訳ありません、ヴィキシー。もう少し時間を……」

「ご安心を。御身に何人たりとも触れさせはしません」

 

 アウレリアと呼びかけられた少女は先ほどから深呼吸を繰り返しているが、額に皺が寄り明らかに集中できていない。もう少しとは言うが、鵜呑みにするのは危険だろう。

 《聖痕》……彼女が持つ特別な《紋章》が本来の力を振るえばこの程度は危機の内にも入らない。だが、力があることとそれを十全に使いこなせるかは別の話だ。

 

(だからアルトル様には無茶だと反対したのですが……いえ、愚痴ですね。“神託”まで下った以上是非もない)

 

 幼くも聡明で高貴なる者の義務を知る主。目に入れても痛くない、妹のようにも想う少女が苦悩している。兵士達を救えない自身の無力を責めているに違いない。

 そのことに心を痛めながら女騎士……ヴィキシーは考える。

 もう時間がない。《瘴気》に侵された兵士は放置すればどこまでも襲ってくるだろうし、制圧に時間をかければゴブリンの群れを蹴散らし終えたアラケネ・マドゥルガの矛先が向きかねない。

 今が撤退する千載一遇のチャンスなのだ。

 

(責任は私が取ろう……同輩よ。恨むなら私を恨んで……)

 

 狂乱した兵士達もヴィキシーにとっては訓練を課し、鍛え、戦場をともにした可愛い部下だ。切り捨てたいはずがない。

 それでも女騎士は彼らの指揮官であり、非情な決断も職掌に含まれていた。苦痛に満ちた表情で決断を下そうとする。

 

「……全員聞け。正気を失った者達の殺傷を許可――」

「仲間を止めたいのか?」

 

 いつの間にか会話ができる程度の近くまで寄ってきていた『武士』が静かな口調で問いかける。この修羅場でふてぶてしいまでに落ち着いた声音。無暗に堂々とした態度にヴィキシーは気圧されたように息を呑む。

 

「貴殿、何を――」

「依頼を出すなら請け負おう。報酬の交渉は後回しでいい」

「なっ……」

「では行ってくる」

 

 唖然とするヴィキシーに背を向けて、『武士』は一方的に話を切り上げ、《瘴気》に冒された兵士達の方へ向かう。とにかく有無を言わせるな、勢いで押し切れとの常太郎の指示を忠実に実行した結果だった。

 

(あれでいいのか? 先払いでタダ働きはごめんだぞ)

(悠長に話してる時間が惜しい。それに……)

(それに?)

棍棒を持って(speak softly and )穏やかに話し合え(carry a big stick)って言うだろ。まずは俺達の棍棒を見せに行こう)

(なるほどな。それなら俺にも理解できる)

 

 合衆国大統領の含蓄ある台詞まで持ち出して野蛮な暴力を肯定する常太郎。とはいえ実際問題として交渉では往々に“力”の裏付けが必要なのも確かだ。

 

「!? おい、誰か知らんがここは危険だぞ! 下がれっ!」

 

 近寄ってくる『武士』に向けて切羽詰まった声で警告が飛ばされる。

 見ると一組の兵士が激しく槍を交差させ、互いに力任せに押しあっていた。正気の兵士も大分頑張っているが、《瘴気》に侵され脳のリミッターが外れたと思しき兵士の方が優勢だ。

 

「そのまま抑えていろ」

「? おい、お前まさか――!?」

 

 正気の兵に短く命じ、『武士』は発狂した兵士が被る兜目掛けてショットガンを向け――()()()()()()()()()()()

 ドンッ!

 火薬が弾ける甲高い爆発音。兜越しに伝播した激しい衝撃に兵士が凄まじい勢いで吹き飛んだ。

 

「貴様、何を――!?」

 

 『武士』の暴挙に血相を変えて怒鳴る兵士。

 銃は知らずとも飛び道具(クロスボウ)の類だろうと当たりはつけており、その見立ては正しかった。そしてそんなものを頭部に叩き込まれれば普通は死ぬ。

 

「安心しろ、峰打ちだ」

「み……ね……?」

 

 殺気すら籠った怒声に平然と言い返した『武士』に兵士が呆気に取られたのも束の間。

 

「ぅ……ぁ……」

「!? おい、無事なのか……?」

 

 撃たれた兵士は衝撃で吹き飛ばされ、地面にうずくまりつつなんとか起き上がろうとする。そこを同輩の兵士が手荒くも力強く助け起こした。だがその兵士はまだ《瘴気(狂気)》に侵されたままだった。手元の槍を引き戻し、助けの手を差し伸べた仲間を刺し殺そうとし――、

 

「まだ動く気力があるのか、しぶとい」

「ちょ、おま――」

 

 ドンッ!

 容赦なく2発目の引き金を引いた『武士』に無事鎮圧された。ヘビー級ボクサーのフィニッシュブロー並みの衝撃に、首がもげる勢いで()()()()()兜の奥から兵士の素顔が覗く。完全に目を回していた。

 

()()()()。命に別状はない」

「お、おう……?」

「後始末は任せた」

 

 と、理解が及ばない説明に戸惑う兵士を置いて『武士』は次の標的に向かった。同じ要領で次々に低致死性兵器(レスリーサルウェポン)で発狂した兵士を沈めていく。

 繰り返される鎮圧劇に周囲の兵士達の『武士』を見る目が変わっていく。容赦も慈悲もない手荒い手段ながら同僚を殺さずに済んだことで驚きや困惑と共に感謝の念すら湧いていた。

 

「貴殿、一体何者だ?」

 

 そうして全ての兵士を鎮圧した『武士』の下へ歩み寄った女騎士が改めて問いかける。その眼差しには警戒と共に一定の敬意すら混じり、呼びかけも変わっていた。

 見るからに怪しい男が、怪しいが腕の立つ男へと一瞬で印象を塗り替えた。周囲の見る目が変わるのも当然と言えよう。ヴィキシーの主君たる少女でさえ取り囲む兵士達の隙間から好奇心と好意に輝く目で『武士』を見ていた。

 

(よほどしっかりとした軍事教練を受けたと見ました……そういえば遠方から来たと言っていましたね)

 

 見慣れぬ風体に異様だが強力な装備。その異質さに最初は怪しんだものの、よく見れば統一感と機能美すら感じさせる。そして見た目は若く、手慣れてはいるものの戦塵に塗れた者特有の荒んだ気配は薄い……。

 現状把握できている情報からヴィキシーは一つの推測を立てる。

 

(遠い異国の戦士階級、貴族の嫡外子あたりが流れてきた……?)

 

 神の視点を持つ者がいれば深読みが過ぎると笑ったかもしれない。

 だがヴィキシーから見れば目の前の男は無茶苦茶の塊だ。どんな素性であれ()()()()()()()()()()()()()()()()

 その男が言う。

 

「話は後だ。時間がない」

 

 と、アラケネ・マドゥルガに蹂躙され、恐慌状態で逃げ惑うゴブリンの集団を指さす『武士』に女騎士も頷いた。

 

「報酬は応相談と言ったな。まだ私に雇われる気はあるか?」

「ある。というより報酬が支払われるまで離れる気はない」

 

 タダ働きはごめんだと言外に告げる『武士』に、ヴィキシーはむしろおかしそうに笑った。

 

「フフッ。いえ、結構。では私とともに殿(しんがり)を務めてもらいたい。如何(いかが)?」

「……随分と無茶を言うな」

 

 あまりにもあっさりと口にした、二重の意味で無茶な言葉に『武士』の不愛想な無表情に驚きが差す。『武士』への無茶ぶりという意味でも、ヴィキシー本人の無茶という意味でも中々だ。

 

「不服かな?」

「――――殿を務める分は相応の報酬を頂きたい。ここは譲れない」

「辺境伯家に仕える騎士として、契約を果たすと誓いましょう」

 

 挑発的な台詞に頷こうとした『武士』を常太郎が止めたと思しき“間”を挟みつつ、諾と頷いたことで契約は成立した。

 女騎士は微かな笑みを浮かべて拳を突き出す。一瞬の間を置いて『武士』もそれに応え、拳をぶつけ合う。

 

「私と貴殿が最後尾に立つ。それと護衛の関係上陣形の内側に入ることも許可できない。よろしいか?」

「了解した」

 

 頷き、合意が交わされる。

 

「撤退開始だ! 全員、急げ!」

 

 女騎士が号令をかけ、兵士たちは貴族らしき少女を囲みながら素早く動き出した。『武士』はその後方を守るようにヴィキシーとともに立ち位置を確保。新たに錬金したドラゴンブレス弾を装弾後、ショットガンを構え。

 

「――下がれッッッ!!」

 

 ヴィキシーの切羽詰まった声とともに、()()()()()()()()()()()()()()()()を見た。

 (ジュ)ゥゥゥ――――肉が溶け堕ちる、忌まわしい音が響く。

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