暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第六話 女騎士はチョロいという世界の法則

 ヴィキシー・ヴェスペリアは名門オクシダリス辺境伯家に仕える騎士の家に生まれた女騎士である。

 そして辺境伯家は《西方の壁》と呼ばれ、長年に渡り《西方深淵樹海ブロセリアンド》から漏出する魔獣被害を食い止め続けた国防の要。故に辺境伯家に仕える騎士家は武断の気風が強い。

 その一つに生まれ落ちたヴィキシーは通常3つの《紋章》を持てば才幹ありと認められる騎士家において4つを生まれ持ち、かついずれの《紋章》も騎士向けで強力というまさに麒麟児だった。彼女が女として生まれたことを周囲が惜しむ程に。

 が、彼女は結局生まれ持った《成長因子(グロース・ジーン)》の《紋章》の影響もあってか並みの男より頭一つ高い恵体へと育つ。それでいて女らしさをたっぷりと備えた肢体(カラダ)は現代の撮影のプロ(カメラマン)が見ればモデルの骨格にアスリートの筋肉を乗せ、グラビアアイドル並みの肉付きを揃えた女神と評するだろう。

 特注の鎧が必要なレベルで「大きい」と分かる巨乳(バスト)。鍛えられた腹筋が薄っすらと浮かぶ腰回り(ウェスト)。恵まれた肢体をしなやかに躍動させる大きめの太股とたっぷりと実った美尻(ヒップ)

 明け透けに言えば()()()()()()()()()()()()()()イイ女だ。

 とはいえ彼女を性的偶像(オカズ)と見る男は多かれど、異性としてアプローチする益荒男(マスラオ)は終ぞ現れなかった。

 

 ()()()()()()()

 

 事実、彼女は並みの男どころか騎士よりもさらに強かった。文字通りの意味()()()()()”男勝り”だった。家事と刺繍が好きで、将来の夢は幸せな結婚という彼女らしさは一顧だにされなかった。

 彼女の家族もヴィキシーを『庇護すべき淑女』ではなく『才能ある騎士の卵』として苛烈な鍛錬を課した。強くなることこそ彼女の将来のためと信じて。愛はあったが、彼女を女扱いしなかったという意味では残念ながらそこらの男と大差はない。 

 その突出した才能と恵まれた体格によってヴィキシーは18才になる頃、主家の姫アウレリア・オクシダリスの直属騎士として抜擢される。対外的に見て順風満帆そのものの騎士人生と言えるだろう。

 以来数年、彼女は自身の家庭的な性格が騎士に向いていないことに悩みつつも大過なく職務を果たしていた。

 ヴィキシーは誰かを守る騎士故に、誰かに守られた経験がほとんど無かった。彼女がまだ無邪気な少女でいられた頃の夢が『白馬の王子様に守られるお姫様』であったにもかかわらず。

 だからこそと言うべきか。ヴィキシー・ヴェスペリアは自分を身を挺して守ってくれる男性に――滅茶苦茶惚れっぽ(チョロ)かった。

 

 ◆

 

 天から降り注ぐどす黒く粘ついた雨。

 それは《復讐の女王蜘蛛(アラケネ・マドゥルガ)》が吐き出した強酸性の溶解液だった。女王蜘蛛が持つ《紋章》の一、《妖毒天幕(ヴェノムカーペット)》がもたらす妖毒は酸と毒、2つの性質を併せ持つ。

 

 「伏せろ!」

 

 広範囲に散布された妖毒を避け切れないと悟った『武士』は咄嗟にポリカーボネート製の防護盾(ライアットシールド)を錬金。押し倒すようにヴィキシーへ飛びかかり、防護盾と自身の肉体の下に庇った。

 数瞬後、どす黒い雨粒が()()()()()()と防護盾へと降り注ぎ。

 

 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――!!

 

 接触から僅か1秒。熱したフライパンに水滴を落としたように激しく沸騰する音とともにシールドの表面がボコボコと泡立ち始める。

 3秒。シールドに触れた溶解液は瞬く間に構成するポリカーボネートを白濁させ、罅を入れた。熱可塑性樹脂(ポリカーボネート)は耐衝撃性には優れても強酸等の薬品に弱い。脳の奥を引っかくような甘ったるい香りが鋭く鼻孔を突き刺した。

 7秒。ひび割れがパキパキと連鎖し、白濁した盾の透明度はゼロに近い。だがまだ一枚の壁として耐えていた。だが手に伝わる熱と振動が告げていた――限界は近い。

 10秒。ひと際たっぷりと妖毒が撒き散らされた箇所が溶解、貫通し――僅か数滴、だが確かに『武士』の身体へと滴り落ちた。

 

「――――ッ!!」

 

 妖毒が背に触れた『武士』がビクンッと耐えかねたように震えた。

 それも当然。恐るべき女王の妖毒は()()()()()()()()()()()()()()()レベルの劇毒だった。危険度で言えば地球で王水と呼ばれた特級危険物と大差ない。

 

「何故私を庇った!? いやいい、とにかくそこを――」

 

 激昂して『武士』と位置を入れ替えようとしたヴィキシーを彼は強く押さえつけた。

 

「黙れ、動くな。守りにくいだろうが」

「――――守、る……?」

 

 吐き捨てるようなその言葉を聞いたヴィキシーは雷に打たれたように動きを止め、呆然と呟いた。

 刻一刻と妖毒に背中を抉られ脂汗を流しながらも、『武士』の内心は冷静だった。

 

(報酬が支払われるまで死なれてたまるか……!!)

(あ、やっぱりそんなオチ? いつの間にキャラ変したのかと……)

 

 そんな身も蓋もない会話が脳内で繰り広げられていたとヴィキシーには知る由もなく。先ほどまでにはなかったはずの熱が籠った視線で『武士』を見つめていた。

 

「ぐっ……流石にこれは洒落にならんな――」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、言いようのないおぞましさ。

 自分の意思で極端に痛覚を鈍くできる戦闘用人格(『武士』)でなければ発狂しかねないほどの激痛(イタミ)がその肉体を駆け巡っていた。

 

(『武士』ッ!?)

(問題、ない――起きろ、《生態兵装(セル・レギオン)》)

 

 危機感に叫ぶ常太郎を抑え、第三の《紋章》を起動する。ここで切り札が機能しなければ、詰みだ。

 肉体に電子回路のような整然としたラインが浮かび上がり、その上を赤い光が走る。神経を走り抜ける異常な電気信号に、『武士』の身体が魚のように勢いよく跳ねた。

 人体37兆2000億個の細胞を自在に強化・変性・操作する《紋章》、《生態兵装(セル・レギオン)》が起動したのだ。

 

「が、ぁッ――!! なる、ほど……これはキツいな。だが『武士(オレ)』ならば!」

 

 痛覚を鈍化させ、激痛を押し殺しながら『武士』は急速に賦活された肉体の細胞一つ一つへ手綱を掛ける。

 血液が加速し、神経が怒声を上げ、髄液が波打つ。常人ならば即死するであろう肉体そのもののオーバークロックを断行。『武士』の統率下で完全に制御された再構成が開始された。

 

「組織の硬化処理を開始。優先対象は毒液に接触した損壊箇所」

 

 まず妖毒と接触し破壊された箇所を中心に、周囲の細胞が一斉に硬化を始める。骨のように変質した細胞が、酸と損傷組織を丸ごと()()()、内側に封じ込める。溶かされるだけだった肉体が自らの細胞で隔離壁を形成した。

 

「隔離カプセルの形成完了。順次体組織から剥離・排出する」

 

 次に壊疽組織を封じ込めたカプセルが肉体から切り離され、体外へ押し出される。血と毒と崩れかけた肉を抱えた有害無用のカプセルを体内から強制的に剥離・排出した。

 

「体組織再生フェーズへ移行。増殖因子フルリリース、組織の再構築を最適化」

 

 その直後、身体にぽっかりと空いた孔の周辺にある細胞が組織を再構築する指令(オーダー)受信(アクセプト)。失われた肉体を補う、新たな皮膚と筋肉を作り出すための増殖が始まる。

 内側からうねるように肉が盛り上がる。筋が生まれ、血管が這い、まっさらな皮膚が体表を覆っていく。

 欠損箇所を把握。細胞増殖によって新たな皮膚と筋組織が再構築を加速する。背中に空いた大孔で急速に肉が盛り上がり、剥離した組織片を体外へと押し出した。

 

「施術、完了――」

 

 はぁはぁと息を荒らげながら

 施術中、妖毒が全身を破壊する激痛とは全く別の不快感が神経系を襲っていた。まるで全身の細胞一つ一つが掻き毟られているような……痛みと不快に強い『武士』でなければ耐えられないほどの違和感の塊だった。

 

(大丈夫か、『武士』?)

(問題ない、『武士(オレ)』ならな。だがお前(常太郎)は使うな。常人(ヒト)が耐えられる激痛(イタミ)じゃない)

 

 内側から心配そうに問いかける常太郎に『武士』は毅然とした声音で返す。だが続けての警告は誤解の余地なく《生態兵装(セル・レギオン)》の危険性を告げていた。

 一欠けらの洒落もない警告に常太郎は恐れながらも納得して呟く。

 

(道理で『取得非推奨』なんて書かれる訳だ……)

 

 と、黒の碑石(オベリスク)の前で迷いに迷いながら《生態兵装(セル・レギオン)》を選んだ時を思い出す。

 オベリスクからダウンロードした《紋章》リストによれば《生態兵装(セル・レギオン)》は人体37兆2000億個の細胞を自由に支配する、強力かつ応用力のある《紋章》だった。

 例えば欠損部位の高速再生、肉体の強化、皮膚の硬質化や熱・毒・酸などへの限定的な耐性付与、肉体の部分的再構築、知覚の鋭敏化などなど。だがこれらはほんの一例に過ぎない。

 だがリストには『取得は非推奨』との注意書きがあり、読み進めれば『使用時に常人では耐え切れない激痛と不快感が走る』との理由からだった。痛覚耐性ゼロの自覚がある常太郎があからさまな警告付きの地雷《紋章》を選ぶ理由はない。

 常太郎はピーキーだが強力な一点突破型より使いやすくどんな状況でも腐りにくいビルドを好むタイプだった。

 

(待てよ……)

 

 と、一度は諦めかけた常太郎だが彼のゲーマーとしての視点がある疑問にたどり着く。

 

()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 使い道のない欠陥《紋章》ならそもそも禁止……もっと言えば《紋章》リストから削除すればいいのだ。なのにクレアトールは敢えて警告だけを付けてリストに残した。

 その意味をしばらくの間考えた常太郎はやがて一つの結論に辿り着いた。

 

(これ、別の《紋章》との組み合わせ(コンボ)激痛(イタミ)っていう代償(コスト)()()()()()んじゃないか?)

 

 《仮想人格換装(ペルソナチェンジ)》で激痛を耐える戦闘用人格(『武士』)を生み出し、その人格に代償(イタミ)()()()()()。ある意味悪魔の発想だが、極まったゲーマーというのは悪魔の親戚なので否定は難しかった。まあ犠牲になる『武士』もまた自分(常太郎)なので彼の倫理観ではセーフ判定だ。

 単独では使いようのないピーキーな(カード)を別の(カード)と組み合わせ、爆発的な効果を引き出すコンボギミック。トレーディングカードゲームなら定番中の定番と言える発想だ。

 

 ()()()()()()()()()

 

 思い切り読みを外し、役立たずの《紋章》を一つ抱え込むことになる可能性もあった。

 安定保守思考の常太郎は迷いに迷ったが、結局はこのアイデアを採用する。その決断に至る最大の要因は、

 

あの凝り性(クレアトール)なら()()だろ)

 

 という、確信に満ちたメタ読みなのだった。

 ともあれ常太郎の読みは当たり、危機は脱した――反撃が、始まる。

 




 チチケツタッパが全部盛りの女は好きですか?
 作者は好きです。語りたいヒトは挙手

 追記
 不定期更新かつ、いつ更新停止するか不明ですが許してください。正直続けるかめちゃくちゃ迷っております。
 この趣味に走りまくった小説需要有るんか……?
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