暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第七話 ん”ん”ん”ッ――

 かくして妖毒の雨をやり過ごした『武士』とヴィキシーは素早く立ち上がる。女王の誇る妖毒にも生き残った手強いニンゲン2人へアラケネ・マドゥルガはガチガチと大顎を打ち鳴らす。

 その威嚇にも怯まず、『武士』とヴィキシーは警戒態勢を取るアラケネ・マドゥルガの前に揃って立ち塞がる。

 

「行きましたか。さて、我らの役目はお嬢様が安全地帯に退避するまで女王を引きつけること。覚悟はよろしくて?」

「承知した。雇い主(クライアント)の意向に従おう」

八蠱(ヤコ)の王種を相手に怯みませんか。良い闘志です」

 

 兵士に囲まれ、遠ざかっていく主君アウレリアの背中を一瞥し、ヴィキシーが静かに告げる。『武士』が即座に頷けば頼もしいと笑った。

 

「私が前に立ちます。()()殿()は援護を」

 

 『武士』はその呼びかけの変化に僅かに首を傾げつつも、「承知した」とだけ頷いた。今は目の前の女王蜘蛛が優先だ。

 ヴィキシーは呼吸を整え、彼女が持つ第一の《紋章》、《守護騎士(アイアンクラッド)》を起動する。右手の甲に盾と剣を象徴化した《紋章》が眩く輝いた。

 

「勇士殿には命の恩義があります。この一戦に限り、私は御身の盾となりましょう」

 

 《守護騎士(アイアンクラッド)》は防戦全般に大補正が付き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()《紋章》だ。

 故にこの申し出は礼節を尽くすと同時に《守護騎士》の力を極限まで引き出すためのトリガーでもあった。ヴィキシーの伸びやかな肢体(カラダ)がほんの一瞬だが淡く輝く。その輝きが気のせいでなかったことを示すように、その肢体から漲る力強さを『武士』も感じ取る。

 

「助かる。が、必要なら俺の後ろへ。態勢を立て直す間の盾役程度は務めよう」

 

 申し出を受け入れつつ、フォローも入れる『武士』。強がりではない。《武装錬金(マルチウェポン)》と《生態兵装(セル・レギオン)》をフルに使えば多少無理はするが十分に可能だ。

 

「騎士が誰かの背に隠れるなど――」

「? 騎士(それ)が何か? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ん゛ん゛ん゛ッ――」

 

 『武士(味方)』から意図せず精神攻撃(クリティカル)を食らったヴィキシーは悶えながら辛うじて踏み止まった。この場に彼女の主人(アウレリア)がいればウキウキワクワクとした顔で問い詰めるに違いない醜態(カワイイ)だった。

 

「……不調ならば下がっても構わんが?」

「い、いえ。問題はありません。コホンッ」

 

 『武士』から胡乱な眼を向けられているとも知らず仕切り直すように咳払いする女騎士。その頬は我知らず赤く染まっていた。

 

(金が払われるまでは依頼人(クライアント)だからな。守るのは当たり前だ)

(『武士』はそういうとこ真面目だよな)

 

 なお現実はあまりに無情だった。というより戦闘用人格(『武士』)に情を期待するのが間違っていた。ヴィキシーが気付いていないのが救いだろう。あるいは喜劇か。

 

「――参ります」

 

 気息を整え、戦闘準備を終えたヴィキシーはゆっくりと前へ。その手に握られた重厚な騎士剣が陽光を受けて輝いた。

 アラケネ・マドゥルガが近づく騎士を見てさらに音高く大顎を打ち鳴らした。戦場の空気がさらに重く、沈み込む。

 

「おい、危険だぞ」

 

 鎧を着込んでいるとはいえあまりに無防備な姿。女王の脅威を嫌というほど味わった『武士』が思わず警告するとヴィキシーの足が間合いの外でぴたりと止まる。

 だが足は止まっても動きは終わらず、弓を引くように剣を構え――、

 

「――ハァッ!」

 

 明らかな間合い外からの直突きを放つ!

 

(届くはずが――)

 

 ない。そう思った瞬間、ジャララララララララ――! と(キシ)るような甲高い音が響く。

 

(むさぼ)れ、《防人蜈蚣(サキモリムカデ)》」

 

 騎士剣が鞭……いや、生きた蜈蚣(ムカデ)()()()()ように女王目掛けて伸縮し、襲い掛かる! その正体は刀身が幾つもの刃節に分かれ、その中枢をワイヤーで繋いだ蛇腹剣。剣と鞭、2つに顔を持つ浪漫(ロマン)武器である。

 

蛇腹剣(ガリアンソード)!? まさか、《紋章》を武器に応用したのか……? すげえな異世界(コスモ・リブラ)!)

(なるほど、刀身に《紋章》が……異世界の武器も侮れんな)

 

 現代地球にすら存在しない浪漫武器に常太郎が驚き、冷静な『武士』も興味深げに目を細める。

 だが《守護騎士》ヴィキシー・ヴェスペリアの真骨頂はここからだ。間合い外から放たれた神速の切先がアラケネ・マドゥルガの頭部を突く!

 ガキンッ!

 硬質なものがぶつかり合う甲高い音とともに頭部へ食らった衝撃にアラケネ・マドゥルガは僅かに怯む。一方蛇腹剣の切先は弾かれ、鞭状の刃節が宙を舞った。だがヴィキシーの連撃はここで終わらない。

 

「フッッッ――!!」

 

 剛腕一閃。

 長く長く伸びた連結刃(チェーンエッジ)をヴィキシーが長身としなやかな手首(リスト)を生かし、存分に()()()を利かせて横薙ぎに振るう。攻撃半径10メートル超え。かつ、遠心力を存分に蓄えた豪快な薙ぎ払いが(したた)かに女王蜘蛛の巨躯を打ちのめす!

 ズザアアアアアァァァ――――!!

 馬鹿げた威力の薙ぎ払いが、八本の歩脚で大地を掴む女王の体躯を強引に後ろへ押し込んでいく。大地に八つの傷跡を刻む巨躯をたっぷり3メートルは吹き飛ばし、勢いを失った蛇腹剣はヴィキシーが手首を返しただけでしなやかに躍動し、その手元へ舞い戻った。

 

「女王。貴女は確かに強い。だが我が愛剣《防人蜈蚣(サキモリムカデ)》は()()()()()()()()()()()暴君の遺産。ならば私が負ける道理はない――」

 

 ヴィキシーがそう静かに誇る名剣は、遠い昔に彼女の先祖が討った大魔蟲《虚栄の暴君蜈蚣》スタンピード・センチピードの遺骸を直接打ち直した魔剣である。かの暴君は《復讐の女王蜘蛛》すらエサにしたというとびきりの危険種族だ。

 蜈蚣独特の多節構造はそのままに頑強な甲殻を名剣に匹敵するレベルにまで研ぎ上げ、さらに遺骸に刻まれた《紋章》たる《百足機構(セグメカニカ)》が物理的にありえないレベルの伸縮性を発揮。さらには使い手の意思に応え縦横無尽の軌道を描くという特性まで備えていた。

 

「フッッッ――!!」

 

 ジャララララララララララララララ――!!

 再びの斬撃。軋るような高音を響かせ、縦横無尽に空を駆け巡る連結刃(チェーンエッジ)はまさに大蜈蚣(オオムカデ)の如く女王蜘蛛へ襲い掛かり、圧倒していた。

 一方『武士』と常太郎はヴィキシーの雄姿に一歩離れた位置からややヒイた気配を漂わせていた。

 

(……『武士』、確認だがあのデカブツ、単体弾(スラッグ)をブチ込んでもヒビ入った程度で小動(こゆる)ぎもしなかったよな???)

(凄まじい膂力(パワー)だな。敵にするなど考えたくもないが、味方にすれば頼もしい。誇れ、常太郎。お前の判断は正しかった)

(流石にここまでデタラメとは俺も考えてなかったよ?)

 

 『武士』から平静な声で褒められても全く感じ入った様子はなく、今日一番ドン引きした声を出す常太郎。

 アラケネ・マドゥルガのサイズはトラックに近い。外骨格の耐久性まで考えればほとんど生体戦車と言っていい。そんな代物をほとんど生身の腕力で圧倒しているのだから常太郎がドン引きするのも無理はない。

 

(確かにデタラメな強さだが……別段無敵でも不死身でもないだろう?)

 

 が、戦闘用人格(『武士』)の見立てはもう少し冷静だった。

 

(どういうことだ?)

(見ろ、常に歩脚が届く間合いの外に身を置いている上、最初以外ほとんど正面を避けている。正面衝突は流石に分が悪いんだろう。そもそも単騎で圧倒できるならわざわざ主君(アウレリア)を退避させる必要もない)

 

 言われてみればなるほど。豪快に薙ぎ払いを繰り返し押しまくっているように見えて、小刻みにステップを刻んでは逐一相対位置に気を使っているのが見て取れる。遠間からでもヴィキシーの緊張が読み取れた。

 

(それに刃節を伸ばした状態でまともに攻撃を防げるとも思えん。圧倒しているように見えて、常に主導権を握って出頭を抑え込んでいるというのが実情だろう。ちょっとしたキッカケで戦況はひっくり返るぞ)

(なるほど……もう全部あいつ一人でいいだろって気分になってたけどそうでもないのか)

(俺達にやれる仕事は幾らでもある。お前のオーダー通り、恩を高値で売り付けに行くとしよう)

 

 そう言った『武士』がショットガンを構えながら斜め前……前衛(ヴィキシー)が射線に入らない位置へと走り出す。

 さあ――揺れ動く天秤を傾けろ。




 まず前話より応援頂いたたくさんの読者(”親友”)の皆様に厚くお礼申し上げます。

 こんなにもたくさん応援を頂ける(”親友”が増える)なんて夢にも思っておりませんでした……! あと感想欄に野生の東堂が出没したりとか。

 みんなチチケツタッパがデカい(ヒロイン)が好みなんですね、作者もです。ご安心ください、これからも増えます(断言)

 遅筆かつライブ感バリバリ(ヴィキシーは当初チョイ役でしたし《生態兵装》は当初タイムリープ能力の予定でした)で書いておりますが、なんとか週に2度は更新したいと考えております。是非応援下さいませ。

 それでは皆さま、術式(性癖)の開示後、気を付けてお帰り下さい。
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