暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
かくして妖毒の雨をやり過ごした『武士』とヴィキシーは素早く立ち上がる。女王の誇る妖毒にも生き残った手強いニンゲン2人へアラケネ・マドゥルガはガチガチと大顎を打ち鳴らす。
その威嚇にも怯まず、『武士』とヴィキシーは警戒態勢を取るアラケネ・マドゥルガの前に揃って立ち塞がる。
「行きましたか。さて、我らの役目はお嬢様が安全地帯に退避するまで女王を引きつけること。覚悟はよろしくて?」
「承知した。
「
兵士に囲まれ、遠ざかっていく主君アウレリアの背中を一瞥し、ヴィキシーが静かに告げる。『武士』が即座に頷けば頼もしいと笑った。
「私が前に立ちます。
『武士』はその呼びかけの変化に僅かに首を傾げつつも、「承知した」とだけ頷いた。今は目の前の女王蜘蛛が優先だ。
ヴィキシーは呼吸を整え、彼女が持つ第一の《紋章》、《
「勇士殿には命の恩義があります。この一戦に限り、私は御身の盾となりましょう」
《
故にこの申し出は礼節を尽くすと同時に《守護騎士》の力を極限まで引き出すためのトリガーでもあった。ヴィキシーの伸びやかな
「助かる。が、必要なら俺の後ろへ。態勢を立て直す間の盾役程度は務めよう」
申し出を受け入れつつ、フォローも入れる『武士』。強がりではない。《
「騎士が誰かの背に隠れるなど――」
「?
「ん゛ん゛ん゛ッ――」
『
「……不調ならば下がっても構わんが?」
「い、いえ。問題はありません。コホンッ」
『武士』から胡乱な眼を向けられているとも知らず仕切り直すように咳払いする女騎士。その頬は我知らず赤く染まっていた。
(金が払われるまでは
(『武士』はそういうとこ真面目だよな)
なお現実はあまりに無情だった。というより
「――参ります」
気息を整え、戦闘準備を終えたヴィキシーはゆっくりと前へ。その手に握られた重厚な騎士剣が陽光を受けて輝いた。
アラケネ・マドゥルガが近づく騎士を見てさらに音高く大顎を打ち鳴らした。戦場の空気がさらに重く、沈み込む。
「おい、危険だぞ」
鎧を着込んでいるとはいえあまりに無防備な姿。女王の脅威を嫌というほど味わった『武士』が思わず警告するとヴィキシーの足が間合いの外でぴたりと止まる。
だが足は止まっても動きは終わらず、弓を引くように剣を構え――、
「――ハァッ!」
明らかな間合い外からの直突きを放つ!
(届くはずが――)
ない。そう思った瞬間、ジャララララララララ――! と
「
騎士剣が鞭……いや、生きた
(
(なるほど、刀身に《紋章》が……異世界の武器も侮れんな)
現代地球にすら存在しない浪漫武器に常太郎が驚き、冷静な『武士』も興味深げに目を細める。
だが《守護騎士》ヴィキシー・ヴェスペリアの真骨頂はここからだ。間合い外から放たれた神速の切先がアラケネ・マドゥルガの頭部を突く!
ガキンッ!
硬質なものがぶつかり合う甲高い音とともに頭部へ食らった衝撃にアラケネ・マドゥルガは僅かに怯む。一方蛇腹剣の切先は弾かれ、鞭状の刃節が宙を舞った。だがヴィキシーの連撃はここで終わらない。
「フッッッ――!!」
剛腕一閃。
長く長く伸びた
ズザアアアアアァァァ――――!!
馬鹿げた威力の薙ぎ払いが、八本の歩脚で大地を掴む女王の体躯を強引に後ろへ押し込んでいく。大地に八つの傷跡を刻む巨躯をたっぷり3メートルは吹き飛ばし、勢いを失った蛇腹剣はヴィキシーが手首を返しただけでしなやかに躍動し、その手元へ舞い戻った。
「女王。貴女は確かに強い。だが我が愛剣《
ヴィキシーがそう静かに誇る名剣は、遠い昔に彼女の先祖が討った大魔蟲《虚栄の暴君蜈蚣》スタンピード・センチピードの遺骸を直接打ち直した魔剣である。かの暴君は《復讐の女王蜘蛛》すらエサにしたというとびきりの危険種族だ。
蜈蚣独特の多節構造はそのままに頑強な甲殻を名剣に匹敵するレベルにまで研ぎ上げ、さらに遺骸に刻まれた《紋章》たる《
「フッッッ――!!」
ジャララララララララララララララ――!!
再びの斬撃。軋るような高音を響かせ、縦横無尽に空を駆け巡る
一方『武士』と常太郎はヴィキシーの雄姿に一歩離れた位置からややヒイた気配を漂わせていた。
(……『武士』、確認だがあのデカブツ、
(凄まじい
(流石にここまでデタラメとは俺も考えてなかったよ?)
『武士』から平静な声で褒められても全く感じ入った様子はなく、今日一番ドン引きした声を出す常太郎。
アラケネ・マドゥルガのサイズはトラックに近い。外骨格の耐久性まで考えればほとんど生体戦車と言っていい。そんな代物をほとんど生身の腕力で圧倒しているのだから常太郎がドン引きするのも無理はない。
(確かにデタラメな強さだが……別段無敵でも不死身でもないだろう?)
が、
(どういうことだ?)
(見ろ、常に歩脚が届く間合いの外に身を置いている上、最初以外ほとんど正面を避けている。正面衝突は流石に分が悪いんだろう。そもそも単騎で圧倒できるならわざわざ
言われてみればなるほど。豪快に薙ぎ払いを繰り返し押しまくっているように見えて、小刻みにステップを刻んでは逐一相対位置に気を使っているのが見て取れる。遠間からでもヴィキシーの緊張が読み取れた。
(それに刃節を伸ばした状態でまともに攻撃を防げるとも思えん。圧倒しているように見えて、常に主導権を握って出頭を抑え込んでいるというのが実情だろう。ちょっとしたキッカケで戦況はひっくり返るぞ)
(なるほど……もう全部あいつ一人でいいだろって気分になってたけどそうでもないのか)
(俺達にやれる仕事は幾らでもある。お前のオーダー通り、恩を高値で売り付けに行くとしよう)
そう言った『武士』がショットガンを構えながら斜め前……
さあ――揺れ動く天秤を傾けろ。
まず前話より応援頂いたたくさんの
こんなにもたくさん
みんなチチケツタッパがデカい
遅筆かつライブ感バリバリ(ヴィキシーは当初チョイ役でしたし《生態兵装》は当初タイムリープ能力の予定でした)で書いておりますが、なんとか週に2度は更新したいと考えております。是非応援下さいませ。
それでは皆さま、