暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第八話 答えはシンプル

 揺れ動く天秤を傾ける。

 そう啖呵を切って走り出した常太郎(『武士』)が取った行動は地味。あるいは堅実かつ現実的なものだった。

 

「背中は預かった。援護する」

「勇士殿?」

 

 ――ドンッ!

 アラケネ・マドゥルガから見てヴィキシーと逆、射線が被らない位置に立つ。そのまま単体弾(スラッグ)をアラケネ・マドゥルガの胴体部に叩き込み、さらにもう一発。

 撃ち込むたびに薬室へ手早く装填しつつ連続で発射。当然強固な外骨格に阻まれるが、巨体を揺らす衝撃は女王の注意(ヘイト)を惹くのに十二分。

 

「勇士殿……?」

()()()()。こちらは気にせず目の前に集中しろ」

 

 端的に答えながらもさらにもう一発。それを見てヴィキシーが頷いた。

 単体弾(スラッグ)の連発にアラケネ・マドゥルガが殺意の矛先を『武士』へ変えた。遮二無二突っ込んできたらお手上げな質量差だが『武士』に焦りはない。

 

「お前に俺を構っている暇があるのか?」

「フッッッ!」

 

 ジャララララララララ――!

 女王の注意が逸れた隙を狙った強烈な薙ぎ払いが再び巨体を吹き飛ばし、ヘイトをヴィキシーへ引き戻した。

 

(難しく考える必要はない。既に互角ならあとは適切な援護(サポート)さえあれば十分だ)

(目の前でウロチョロしてるだけでも相当に目障りだろうしな。嫌がらせで報酬が貰えるなんて最高かよ)

 

 ヴィキシーと女王蜘蛛が互角ならあとは『武士』の援護で天秤を傾ければいいだけの話。この辺りは戦闘用人格なだけあり、冷静である。

 そしてそのサポートも無理はしない、欲張らない、邪魔をしないことを第一に立ち回る。元々急造の即席コンビなのだ。息を合わせようとしても無理がある。ならばピンポイントで必要なサポートに意識を絞る。

 

協力(マルチ)プレイは任せろー)

 

 そして意外なことにこの時に限っては常太郎が『武士』へ指示を出していた。

 

(サポート優先。間合いに入らず遠間からの嫌がらせに徹しろ。アタッカーは向こうに任せよう)

単体弾(スラッグ)撃ち切ったら焼夷弾(ドラゴンブレス)を装弾。突っ込んできたら目の前を焼いてケツまくれ)

(毒液来るぞ。盾構えて後退。使い捨て前提、終わったらすぐに捨てろ)

 

 浅葱常太郎はゲーマーであり、溶かした時間は()()()()()()()()()()。その守備範囲には当然協力(マルチ)プレイで大物を狩るハンティングアクションゲームも含まれており、基本的な立ち回りは心得ていた。

 もちろん遊戯(ゲーム)実戦(リアル)は違う。常太郎本人が実戦に出ればその経験を碌に活かせず3分後に魔獣の餌が精々だろう。だが『武士』という人格(フィルター)を通せば何百時間と積み上げた仮想訓練(ゲーム)()()()を上手く漉し取って行動に反映できる。

 現代日本で得た経験は意外と異世界でも役に立っていた。

 

(これは……随分と()()()()()。やはり相当な訓練を積んでいますね)

 

 妙に()()()()立ち回りにヴィキシーも気付く。

 初対面の2人だ。息が合うはずもなく、ヴィキシー自身アラケネ・マドゥルガを相手に主導権を取り続けることに集中している。その2人が滑らかにコンビネーションを発揮できているのは常太郎(『武士』)側の立ち回りが大きい。

 ヴィキシーの邪魔をせずに女王蜘蛛を妨害する。それがどれほど難しいことか。いまも女王の視線がヴィキシーから逸れ、無防備な横っ腹を晒した。

 

(注意が外れた。これならば――!)

 

 ヴィキシーが誇る必殺の大技を繰り出せる。彼女の左手に宿る3つ目の《紋章》が眩く紫電を発した。

 

(はし)れ、稲妻。《駆降(トニ)――」

 

 兜の隙間から零れる豊かな金髪が()()()と膨張し、バチバチと連続で大気が弾ける音が鳴った。静電気などという枠に収まらない、凄まじい電圧がヴィキシーの全身に帯電。暴れ狂う矛先を求めた紫電の奔流が右手に握る《防人蜈蚣》へ怒涛のように流れ込む!

 

「――雷霆(トルス)》!!」

 

 轟雷一閃。

 最大出力の雷霆を乗せた渾身の薙ぎ払いがアラケネ・マドゥルガを襲う。担い手に稲妻を授ける《紋章》、《駆降雷霆(トニトルス)》が文字通り晴天の霹靂を(はし)らせた。

 一瞬にして走り抜けた紫電と衝撃が女王の巨体を焼き焦がし、外骨格を軋ませる。

 

「ギィィィィィィィィ………………ッ」

 

 バチチチチチチチチチチチチ――――!!

 過剰電圧に大気が弾ける轟音が響く。空気が焦げ、オゾン臭を発する程の莫大な熱量(エネルギー)をその身に受けた女王が漏らす弱々しいうめき声は断末魔の悲鳴に似ていた。

 

「よしっ」

 

 天秤は一気にヴィキシー達へ傾いた。最早勝利は目前と確信したヴィキシーだが、油断せず追撃の薙ぎ払いを放つ。

 後は詰めを誤らねば。そんな思考が脳裏を過ぎった瞬間、

 

「――――ッッッ!?」

 

 異常事態(イレギュラー)が起こる。

 ヴィキシーの振るう《防人蜈蚣(サキモリムカデ)》の斬撃軌道が女王から逸れ、何もない空間を虚しく切り裂いた。

 

「ッ!? こんなッ!」

 

 数瞬後、斬撃の軌道を立て直して手元へ呼び戻したはいいものの、続く連撃は明らかに勝負を急いだ前のめりの攻勢へシフトしていた。

 目の前にある脅威(アラケネ・マドゥルガ)と比較してすら()()()()()()()()()と言わんばかりの焦りようだ。

 

「おい、どうした!?」

 

 これには沈着冷静な『武士』も声を荒げざるを得ない。この優勢はヴィキシーに拠るところが大きい。彼女が崩れれば連鎖的に『武士』も危ういのだ。

 ドンッッッ! ドンッッッ! ドンッッッ!

 反動を堪えて単体弾(スラッグ)を最速で撃ち込み、弱った女王を怯ませて作り上げた余裕で焦るヴィキシーを問い詰める。

 

「お嬢様が……フッッッ! 危ない! 一刻も早く助けに向かわねば!!」

「何故それが分かる?」

「私はあの方の《守護騎士》です! どこにいようがあの方に危険が迫ればそれが分かる!」

 

 忠誠を捧げた主の危機を察知する《紋章》の力の一端だった。

 なるほど、《紋章(チート)》ならば可能だろうと常太郎(『武士』)も短く頷いた。

 

「状況は理解した」

 

 ではどうするべきか、『武士』は考える。

 状況は変わった、悪い方向に。2人に傾いた天秤はあっさりとひっくり返された。そして《復讐の女王蜘蛛》は弱っているとはいえ健在。むしろ弱みを見せれば復讐心を滾らせる可能性が高い。

 この状況を切り抜けるなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えるだろう、()()()()

 

『――――』

 

 『武士』とヴィキシー、2人の間に張り詰めた沈黙が落ちる。

 元より出会ったばかりの2人に信頼関係など皆無だ。優勢だからこそ保てていた2人の協力体制に(ヒビ)が入る。何が起きても、何をしても不思議ではない。

 ヒリつくような空気が2人の間を流れ――、

 

「さっさと行け、殿(しんがり)は俺が務める」

 

 『武士』の一言に霧散した。

 

「!? なにを……本気ですか?」

 

 弱っているとはいえアラケネ・マドゥルガの脅威は健在だ。言ってはなんだが『武士』程度が単騎では殺される可能性はかなり高い。

 それほどのリスクを敢えて背負う『武士』にヴィキシーも流石に疑いの目を向けた。

 

「元々そういう契約だ。条件が変わる分、報酬は割増で請求させてもらうがな」

「……律儀なのですね」

 

 前衛(フロント)を務めていたヴィキシーに代わるように一歩踏み出す『武士』。ガシャリ。手動でショットガンのレバーを引き戻し、薬莢の排出と再装弾を完了させた。

 言葉ではなく行動で語る背中に感じ入った視線を向けるヴィキシー。実際、()()()()()()()『武士』の行動は律儀という言葉では到底足りない。献身的とすら言える。

 

「単純な損得勘定だ。できるだけ貴女を敵に回したくないからな」

「そ、それはどういう……?」

「時間が惜しい。1つだけ確認する。それだけ答えてさっさと行け」

「……どうぞ」

 

 ややそわそわとした様子の問いかけを無視して端的に必要なことだけ口にする『武士』。若干の不満を零しつつヴィキシーが促せば、『武士』はアラケネ・マドゥルガを指さしながら平然とした顔でこう()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「――――」

 

 なんと、まあ。

 ポカンと口を開けて呆れ――次いで、ヴィキシーは笑った。空に吸い込まれるような、軽やかな笑い声だった。

 確かに《復讐の女王蜘蛛(アラケネ・マドゥルガ)》を討伐した名誉、その骸が遺す貴重な素材は金に換えられない財産だが……いまこの時にそれを放言するのは豪胆という外ない。

 すぐに笑い声は止み、だが抑えきれない微笑みを浮かべたままヴィキシーは『武士』へ向き直る。

 

「ええ、もちろん。その代わり私……ヴィキシー・ヴェスペリアに報酬を()()()()()()ような真似はさせないで頂きたい。交換条件です、如何(いかが)?」

「言われるまでもない。武運を祈る」

「お互いに」

 

 言外に「死ぬな」と告げるヴィキシーに頷くと、『武士』はアラケネ・マドゥルガの注意を惹くために走り出す。ヴィキシーもまたその背に一瞬だけ視線を向け、すぐに反対方向へと走り出す。

 《守護騎士》の《紋章》が導くまま騎士は主君の下へ一路、駆けた。

 

 ◆

 

 鎧を着込みながらもその卓越した身体能力でヴィキシーはあっという間に森の奥へと消えていく。一方『武士』は女王蜘蛛を牽制するため十分な距離を保ちつつ敢えて目立つよう動き回っていた。

 幸いアラケネ・マドゥルガは周囲をウロチョロする『武士』を捉えつつ、積極的に襲い掛かってこない。ヴィキシーが離れるのは女王にとっても好都合なのだ。

 だが女王の殺意は一切衰えておらず、今になってはそこに負傷を補う()()さえプラスされていた。

 危険度ではこの森の中に開けた草原へ逃げ込んだデッドレースの時よりさらに上だ。だが『武士』と常太郎が交わす脳内会話は意外と落ち着いていた。

 

(意外だったな。『武士』が自分からあんなことを言いだすなんて)

(不満か?)

(いや、戦いは『武士』に任せてる。ならその判断を信じるさ。ただ、疑問はあるかな)

 

 常太郎は『武士』が自分を裏切るはずがないと確信している。とはいえ殿(しんがり)を務める判断に至った思考プロセスまでは理解できていなかった。

 

(俺は十分な勝算がある分のいい賭けは嫌いじゃない。何より契約の遵守こそ信用を積み上げる早道だ)

 

 基本的に『武士』は生真面目で律儀な性格に設定している。故に例外を除きできるだけ約束を守ろうとする傾向がある。常太郎(自分)の命が危なくならない限りは。

 逆説的に言えば現状は()()()()()()()()()()()()()

 

(『博士(ヒロシ)』の分析で使用法(How to use)が分かった。周囲に人目はない。使用条件はクリアされた)

 

 『アレ』は目立ちすぎるからな、と続ける『武士』。

 これまで常太郎(『武士』)がショットガンをメインウェポンとして使い続けた理由は主にそのシンプルな構造に由来する使いやすさ。言い換えれば暴発のしにくさが基準だった。

 当たり前の話だが兵器は扱いを誤れば使用者にあっさりと牙を剥く。多少知識があるとはいえ所詮素人に過ぎない常太郎(『武士』)にとって武器としての信頼性こそが最優先()()()

 だがアラケネ・マドゥルガの出現で再検討が発生した。検討条件は常太郎の知識にあり、かつあの巨体に通じる火力と使いやすさ。

 

(あの生体戦車(デカブツ)を相手取るための対策は? 単純(シンプル)だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ショットガンを投げ捨てると右手の《武装錬金(マルチウェポン)》が輝く。錬金された新たな武装を担ぐとズシリとした重みが肩にかかった。

 砲身の先端に巨大な弾頭を抱えた異形のシルエット。誰もが名を知らずとも見覚えはあろう、個人携行式の対戦車擲弾兵器。装填済みの砲弾はモンロー・ノイマン効果の恩恵で戦車の装甲すら貫通する成形炸薬弾(HEAT)

 

「後方確認、よし」

 

 相対距離は30メートル。当てるに易く、襲われてもギリギリで対応可能な距離だ。

 一拍置いて後方を見る。後方噴流(バックブラスト)の反射面なしを確認。発射準備完了。

 

「くたばれ」

 

 照準を合わせ、引き金を引く。

 兵器の名はRPG-7。旧ソ連が生み出し映画やゲームでもお馴染みとなった、世界で屈指の知名度を誇る戦車殺し(タンクキラー)である。

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