暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
揺れ動く天秤を傾ける。
そう啖呵を切って走り出した
「背中は預かった。援護する」
「勇士殿?」
――ドンッ!
アラケネ・マドゥルガから見てヴィキシーと逆、射線が被らない位置に立つ。そのまま
撃ち込むたびに薬室へ手早く装填しつつ連続で発射。当然強固な外骨格に阻まれるが、巨体を揺らす衝撃は女王の
「勇士殿……?」
「
端的に答えながらもさらにもう一発。それを見てヴィキシーが頷いた。
「お前に俺を構っている暇があるのか?」
「フッッッ!」
ジャララララララララ――!
女王の注意が逸れた隙を狙った強烈な薙ぎ払いが再び巨体を吹き飛ばし、ヘイトをヴィキシーへ引き戻した。
(難しく考える必要はない。既に互角ならあとは適切な
(目の前でウロチョロしてるだけでも相当に目障りだろうしな。嫌がらせで報酬が貰えるなんて最高かよ)
ヴィキシーと女王蜘蛛が互角ならあとは『武士』の援護で天秤を傾ければいいだけの話。この辺りは戦闘用人格なだけあり、冷静である。
そしてそのサポートも無理はしない、欲張らない、邪魔をしないことを第一に立ち回る。元々急造の即席コンビなのだ。息を合わせようとしても無理がある。ならばピンポイントで必要なサポートに意識を絞る。
(
そして意外なことにこの時に限っては常太郎が『武士』へ指示を出していた。
(サポート優先。間合いに入らず遠間からの嫌がらせに徹しろ。アタッカーは向こうに任せよう)
(
(毒液来るぞ。盾構えて後退。使い捨て前提、終わったらすぐに捨てろ)
浅葱常太郎はゲーマーであり、溶かした時間は
もちろん
現代日本で得た経験は意外と異世界でも役に立っていた。
(これは……随分と
妙に
初対面の2人だ。息が合うはずもなく、ヴィキシー自身アラケネ・マドゥルガを相手に主導権を取り続けることに集中している。その2人が滑らかにコンビネーションを発揮できているのは
ヴィキシーの邪魔をせずに女王蜘蛛を妨害する。それがどれほど難しいことか。いまも女王の視線がヴィキシーから逸れ、無防備な横っ腹を晒した。
(注意が外れた。これならば――!)
ヴィキシーが誇る必殺の大技を繰り出せる。彼女の左手に宿る3つ目の《紋章》が眩く紫電を発した。
「
兜の隙間から零れる豊かな金髪が
「――
轟雷一閃。
最大出力の雷霆を乗せた渾身の薙ぎ払いがアラケネ・マドゥルガを襲う。担い手に稲妻を授ける《紋章》、《
一瞬にして走り抜けた紫電と衝撃が女王の巨体を焼き焦がし、外骨格を軋ませる。
「ギィィィィィィィィ………………ッ」
バチチチチチチチチチチチチ――――!!
過剰電圧に大気が弾ける轟音が響く。空気が焦げ、オゾン臭を発する程の莫大な
「よしっ」
天秤は一気にヴィキシー達へ傾いた。最早勝利は目前と確信したヴィキシーだが、油断せず追撃の薙ぎ払いを放つ。
後は詰めを誤らねば。そんな思考が脳裏を過ぎった瞬間、
「――――ッッッ!?」
ヴィキシーの振るう《
「ッ!? こんなッ!」
数瞬後、斬撃の軌道を立て直して手元へ呼び戻したはいいものの、続く連撃は明らかに勝負を急いだ前のめりの攻勢へシフトしていた。
「おい、どうした!?」
これには沈着冷静な『武士』も声を荒げざるを得ない。この優勢はヴィキシーに拠るところが大きい。彼女が崩れれば連鎖的に『武士』も危ういのだ。
ドンッッッ! ドンッッッ! ドンッッッ!
反動を堪えて
「お嬢様が……フッッッ! 危ない! 一刻も早く助けに向かわねば!!」
「何故それが分かる?」
「私はあの方の《守護騎士》です! どこにいようがあの方に危険が迫ればそれが分かる!」
忠誠を捧げた主の危機を察知する《紋章》の力の一端だった。
なるほど、《
「状況は理解した」
ではどうするべきか、『武士』は考える。
状況は変わった、悪い方向に。2人に傾いた天秤はあっさりとひっくり返された。そして《復讐の女王蜘蛛》は弱っているとはいえ健在。むしろ弱みを見せれば復讐心を滾らせる可能性が高い。
この状況を切り抜けるなら
『――――』
『武士』とヴィキシー、2人の間に張り詰めた沈黙が落ちる。
元より出会ったばかりの2人に信頼関係など皆無だ。優勢だからこそ保てていた2人の協力体制に
ヒリつくような空気が2人の間を流れ――、
「さっさと行け、
『武士』の一言に霧散した。
「!? なにを……本気ですか?」
弱っているとはいえアラケネ・マドゥルガの脅威は健在だ。言ってはなんだが『武士』程度が単騎では殺される可能性はかなり高い。
それほどのリスクを敢えて背負う『武士』にヴィキシーも流石に疑いの目を向けた。
「元々そういう契約だ。条件が変わる分、報酬は割増で請求させてもらうがな」
「……律儀なのですね」
言葉ではなく行動で語る背中に感じ入った視線を向けるヴィキシー。実際、
「単純な損得勘定だ。できるだけ貴女を敵に回したくないからな」
「そ、それはどういう……?」
「時間が惜しい。1つだけ確認する。それだけ答えてさっさと行け」
「……どうぞ」
ややそわそわとした様子の問いかけを無視して端的に必要なことだけ口にする『武士』。若干の不満を零しつつヴィキシーが促せば、『武士』はアラケネ・マドゥルガを指さしながら平然とした顔でこう
「
「――――」
なんと、まあ。
ポカンと口を開けて呆れ――次いで、ヴィキシーは笑った。空に吸い込まれるような、軽やかな笑い声だった。
確かに《
すぐに笑い声は止み、だが抑えきれない微笑みを浮かべたままヴィキシーは『武士』へ向き直る。
「ええ、もちろん。その代わり私……ヴィキシー・ヴェスペリアに報酬を
「言われるまでもない。武運を祈る」
「お互いに」
言外に「死ぬな」と告げるヴィキシーに頷くと、『武士』はアラケネ・マドゥルガの注意を惹くために走り出す。ヴィキシーもまたその背に一瞬だけ視線を向け、すぐに反対方向へと走り出す。
《守護騎士》の《紋章》が導くまま騎士は主君の下へ一路、駆けた。
◆
鎧を着込みながらもその卓越した身体能力でヴィキシーはあっという間に森の奥へと消えていく。一方『武士』は女王蜘蛛を牽制するため十分な距離を保ちつつ敢えて目立つよう動き回っていた。
幸いアラケネ・マドゥルガは周囲をウロチョロする『武士』を捉えつつ、積極的に襲い掛かってこない。ヴィキシーが離れるのは女王にとっても好都合なのだ。
だが女王の殺意は一切衰えておらず、今になってはそこに負傷を補う
危険度ではこの森の中に開けた草原へ逃げ込んだデッドレースの時よりさらに上だ。だが『武士』と常太郎が交わす脳内会話は意外と落ち着いていた。
(意外だったな。『武士』が自分からあんなことを言いだすなんて)
(不満か?)
(いや、戦いは『武士』に任せてる。ならその判断を信じるさ。ただ、疑問はあるかな)
常太郎は『武士』が自分を裏切るはずがないと確信している。とはいえ
(俺は十分な勝算がある分のいい賭けは嫌いじゃない。何より契約の遵守こそ信用を積み上げる早道だ)
基本的に『武士』は生真面目で律儀な性格に設定している。故に例外を除きできるだけ約束を守ろうとする傾向がある。
逆説的に言えば現状は
(『
『アレ』は目立ちすぎるからな、と続ける『武士』。
これまで
当たり前の話だが兵器は扱いを誤れば使用者にあっさりと牙を剥く。多少知識があるとはいえ所詮素人に過ぎない
だがアラケネ・マドゥルガの出現で再検討が発生した。検討条件は常太郎の知識にあり、かつあの巨体に通じる火力と使いやすさ。
(あの
ショットガンを投げ捨てると右手の《
砲身の先端に巨大な弾頭を抱えた異形のシルエット。誰もが名を知らずとも見覚えはあろう、個人携行式の対戦車擲弾兵器。装填済みの砲弾はモンロー・ノイマン効果の恩恵で戦車の装甲すら貫通する
「後方確認、よし」
相対距離は30メートル。当てるに易く、襲われてもギリギリで対応可能な距離だ。
一拍置いて後方を見る。
「くたばれ」
照準を合わせ、引き金を引く。
兵器の名はRPG-7。旧ソ連が生み出し映画やゲームでもお馴染みとなった、世界で屈指の知名度を誇る