暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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 新版 第十一話となります。
 これまで投稿した第十一話~第十四話までは『旧版』とさせて頂き、第十話から派生したこの『新版』第十一話から新たにお話を分岐させて頂きます。

 『旧版』から『新版』へ書き直す詳細については投稿済みの『お知らせ兼ボツ原稿』をご覧ください。


第十一話 馬車の中

 ガタン、ゴトン。ドンッ。

 未舗装の、最低限通行できる程度に整備された田舎道を進む馬車がある。

 豪華さを誇るものではなく、むしろ頑丈で無骨な作りだ。車体は重厚な木材で組まれており、随所に目立たないが品のいい装飾。陽光を受けて艶やかに輝く黒地には、盾を基調にしたオクシダリス辺境伯家の家紋がくっきりと浮かび上がるよう刻まれている。美しさよりも貫禄を感じさせる豪壮な馬車だ。

 

(空気が痛い……ここから消え去りたい……)

(そうか? あの大蜘蛛の方がよほど脅威なはずだが? 向こうも好意的だろう)

(知人友人ゼロの空間に押し込められて距離を詰められるのは俺みたいなのには拷問なんだよ!)

 

 内心絶叫する常太郎(『武士』)の正面に座るのはニコニコと笑みを浮かべるお嬢様。裏表のなさそうな好意が却って眩しかった。

 

 ◆

 

 ――《復讐の女王蜘蛛(アラケネ・マドゥルガ)》をRPG-7で仕留めたあと。

 『武士』がアウレリアとヴィキシーのもとに辿り着くのは容易だった。なにせ戦争もかくやという轟音と衝撃が絶え間なく続いていたのだから。

 警戒しながらも遠間に観察したそこにあったのは、間欠泉の如き勢いで《瘴気》を噴き出す謎の黒騎士。それと互角に斬り合う勇者。両者の戦いの余波を寄せ付けない光の壁を展開し兵士達を守るアウレリア。

 そのゲームのラストバトルを思わせるド派手な戦いは黒騎士の撤退という形で幕を閉じた。()()()と全身を覆い隠す程濃密な《瘴気》の暗幕を噴き出した刹那、闇が晴れたあとには影も形もなくなっていた。

 

(あの真っ黒くろすけが消えた後、トラブルなく合流できたのは良かったけど……なんで俺まで馬車(ここ)にいるんだ?)

 

 アウレリアの《紋章》で復活するも弱ったヴィキシーと兵士達を護衛しながら樹海からの脱出。

 樹海付近で探索拠点(ベースキャンプ)を張っていた別の一隊とさらに合流。

 用立ててもらった馬車に乗り込んでアウレリア一行に紛れてブロセリアンドに最も近い大都市へ移動中、というのが現状であるが、その現状がおかしいと常太郎は思う。

 

(何かおかしいのか?)

(素性の知れない傭兵もどきをお貴族様と同じ空間に招くのはどう考えてもおかしいだろ)

 

 普通なら馬車の外で護衛が精々だ。色んな意味で身の置き所がなさすぎる境遇に常太郎は内心だけでため息を漏らす。

 アウレリアに招かれ、馬車に乗り込む時に常太郎(『武士』)を見ていた兵士達の驚愕、好奇、不審、警戒の視線が今更ながらに思い出される。常太郎の理性と感性どちらもが居心地の悪さを全力で感じ取っていた。

 

(それにさっきからお嬢様(アウレリア)の方が妙に距離が近いんだよな)

 

 理由も分からない好意を示されると喜ぶより前に不安になったり裏がないか怪しんだりしてしまう。根っこが陰に属するタチなのだ。

 常太郎が言う通り、馬車の中には先ほど名前を知ったばかりの知り合い未満が3人。

 1人は女騎士ヴィキシー。戦場をともにした彼女はこの中では最も好感度が高い。あまり話しかけてこないし。

 2人目は貴族令嬢アウレリア。にこやかに微笑みながら話題を振って距離を詰めてくる彼女が一番苦手だ。薄暗くて居心地のいい住処から無理やり太陽の下に引っ張り出されたダンゴ虫の気分になる。

 3人目の涎を垂らしながらスピスピ寝息を立てている少年 (少女?)――ユウキ・アリカと紹介された。本人は名を問われ首を傾げていた――をアウレリアは是非見習ってほしい。というか見習いたい。心臓鋼鉄製か?

 

(では俺に任せておくがいい。社交は専門外だが何とかしよう)

(任せられねえから裏で見張ってるんだよなぁ)

 

 人格の交代が怪しまれないよう今も表には『武士』が出ている。

 戦闘面はともかく社交、人付き合いという点で武士ははっきり言って適性ゼロだ。常太郎が味わっている居心地の悪さは、いつ爆発するか分からない地雷を見張る気苦労もある。

 

「――改めて感謝を。ヴィキシーからはあなた様がいなければ間に合わなかっただろうと」

「か――」

(金のため、はNG。仕事は誠実にがモットーって感じで返せ。敬語で)

 

 『武士』の発言に素早くカットインして軌道修正。

 実戦最重視の『武士』に礼儀作法、言葉を飾る、本音と建前という機能はない。必要がない。この思考と言動が直結する特性に、会話相手がお偉い貴族様という要素が加わると非常に胃が痛いことになる。

 

「……一度引き受けた以上最後まで任務に務めるのは当然のことです」

「まあ! あの復讐の女王を相手になんて勇敢な! ヴィキシーが絶賛するのも当然ですね?」

「お、お嬢様? それは――」

(ンンンンンッッッ! か、身体が痒い! 耳を塞ぎたいのにできないとか何の拷問だこれ!)

 

 褒め殺しにしか聞こえないアウレリアの称賛(と何故か唐突に話を振られて慌てるヴィキシー)に常太郎が心の中で身悶える。持ち上げられると嬉しくなる前に分不相応と気まずくなってしまうタイプなのだ。

 実際はアラケネ・マドゥルガを相手の殿は十分栄誉に値する功績だし、アウレリアがストレートに称賛を示すのもそれがこの世界の美徳だからだ。

 功績には栄誉と報酬を。上位者からの称賛はその保証。功績を雑に扱えば、『その程度にしか評価されていないのか』と手柄を上げた者の意欲を削ぎ心が離れてしまうだろう。

 

(? 耳を塞げばいいのか?)

(おい、冗談だ。いや、冗談じゃないが絶対やるなよ。これは冗談じゃない)

(……言葉とは難しいな。怪物と殺し合う方がまだ気が楽だ)

 

 尤も異世界の流儀に疎く、さらに『武士』の介護に手一杯の常太郎へはいまいち伝わっていないようだったが。

 

「アサギ様と巡り会えた星の導きに感謝を。どうか女神の御心のもと、今後とも良き縁で結ばれますように」

 

 そんな有り様を知ってか知らでか、女神の敬虔な信者でもあるというお嬢様は胸元で両手を「♢」の形を描くように組み合わせて祈りを捧げる。深く、強く。単なる傭兵相手の社交辞令に思えないほど真摯なその祈り(ネガイ)に内心の常太郎は首を傾げるのだった。

 

 ◆

 

 浅葱(アサギ)

 最近()()()()()()()()()()()()というカバーストーリーとともに常太郎達はそう名乗った。家名、あるいは傭兵としての屋号であると。

 文字通りまるっきりキャラが入れ替わる仮想人格(ペルソナ)を誤魔化す方便である。なお肉体が1人分しかいない問題は追々解決策を考えるものとする。

 

 Q.ではアサギ様とよく似た殿方に出会ったらその方が?

 A.自分の兄弟でしょう。ちなみに名前は『常太郎』、『武士』、『博士』です。自分は『武士』。

 

 Q.まあ、とても勇ましい響きのお名前ですね! ヴィキシーもそう思うでしょう?

 A.ん゛ん゛ッ……お嬢様、何故そこで私に? いえ、良き名前かと。

 

 Q.見慣れない戦装束ですね。戦に拙い女の身ですが、やはり風変わりに思えます。

 A.遠くから来たので物珍しく見えるのでしょう。

 

 Q.何故遠方からこんな西方の僻地にまでわざわざ?

 A.探し物がありまして。

 

 Q.探し物ですか? 私達に何かお手伝いできることがあればいいのですが……。

 A.お気持ちだけありがたく頂いておきます。

 

 表面上は極めて和やかに当たり障りなく(裏に常太郎の多大な心労を犠牲にしつつ)、好意的でありながらもそこはかとなく一線を引いた会話が続く。この短い時間で十に近い地雷を処理した常太郎はかなりグロッキーだった。

 

「あっ、申し訳ありません。私ばかり楽しくお喋りしてしまって……」

 

 直感で武士の奥にいる常太郎の気疲れを感じ取ったのか、アウレリアがすまなさそうに顔を曇らせた。

 

「私自身とても不思議なのですが、アサギ様を見ていると温かい気持ちになるのです……そう、お兄様、や――()()()……の、ような……申し訳ありません」

 

 涙が溢れ出す。次から次に、眦から水滴が零れ落ちた。

 淑女としての最後の矜持か、嗚咽だけはなかった。

 

「お嬢様、ハンカチを――最近お父君を、亡くされている。見なかったことにしてほしい」

「…………」

 

 恥じ入るように顔を背け、ヴィキシーに抱かれて静かに涙を流すアウレリアに常太郎(『武士』)は沈黙を選ぶしかなかった。

 

(…………常太郎。俺は、何と言えばいい?)

(何も。俺達に言えることは何もない)

(そうか、分かった……言葉とは、難しいな)

(だなぁ)

 

 不慮の事故で父を亡くし、病弱の身を押し当主として立った兄とも触れ合う時間が減った少女へ常太郎(『武士』)が同情を帯びた視線を向ける。

 地球ならまだ気楽な学生時代を謳歌してよい年頃だ。労いや同情の一つも抱くだろう。

 沈黙を選んだ常太郎へヴィキシーは一瞬だけ感謝を込めた視線を向けるとトン、トン、トンとゆっくりとしたリズムで主人の背中を叩き続けた。

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