暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第十三話 アウレリア・オクシダリスの名において命じる!

 報酬の話が終わり、用事が無くなった『武士』は馬車を降りた。正確にはアウレリアの引き留めを常太郎(『武士』)が辞退したが正しいか。アウレリアには同情するがそれはそれとして陰の性質を覆す程ではなかったのだ。

 

「もう少しあの方とお話ししたかったのですが……」

 

 残された馬車の中で残念そうにぽつりと漏らすアウレリア。豪放磊落な父を喪い、優しい兄とも疎遠になりつつあるアウレリアにとって頼れる年上の男との会話は癒しだった。

 

「――あ、もう行った? あの人」

 

 残念がるアウレリアの隣でスピスピと寝息を立てていた“勇者”がいつの間にか身を起こし、伸びをしていた。

 

「おはようございます。はい、アサギ様は既に出られましたよ。勇者様はよく眠れましたか?」

「ユウキでいいよ。アリカでも。どっちも君がくれた名前だから」

 

 ()()()と曇りのない笑顔を貴族令嬢(アウレリア)へ向け、対等な口調で話す勇者(ユウキ)。だが近衛騎士(ヴィキシー)は何も言わず控えている。

 身分的には無位無官。はっきり言えば勇者を名乗る不審者だ。だがそれでもユウキは一目置くべき存在だった。

 

「ユウキ様はアサギ様と何か話されたいことでも?」

「ううん、その逆。あまり仲良くしてると御父母様(おとかーさま)に妬まれちゃいそうだし。どっちが悪いとか関係なく怒られたら終わりとか理不尽すぎるでしょ……」

 

 どこか辟易した様子のユウキの呟きをアウレリアは耳聡く聞きとがめた。

 

御父母様(おとかーさま)……やはり此度の一件、竜神エラディアス様が動くほどの事態なのですね」

 

 竜神エラディアス。八大眷属神の一柱。

 『混沌・中立(カオス・ニュートラル)』を司り、自然の運行を管理する神格。そして雌雄同体の性質を持つという。この世界で最強の種族たる竜を生み出したのもエラディアスだ。 

 だが人界に対する興味が極端に薄く、まさに自然の如く“そのままに在る”神格でもある。こんな西方辺土の片隅で起きた揉め事に首を突っ込むなど絶対にありえない――()()()()()()()()()()()

 

「いえ、それよりもお礼が先ですね。改めて御身と竜神エラディアスの助力に心から感謝を捧げます――()()()()()()

 

 アウレリアはそう呼びかけ、()()()()()()()()()()()へ向けて淑やかに頭を下げた。

 竜殺しの物語を聞きながら勇者に憧れ、人に化身して勇気のありかを求めて旅する変わり種の竜――それが“勇者”の正体だ。

 幼くとも竜、人界にあっては天下無双の強者である。アウレリアは阿らず、しかし敬意を欠くことなく正面から礼を伝えた。

 

「アハハ! 気にしなくていいよ、ボクは御父母様(おとかーさま)に言われただけだし、御父母様(おとかーさま)は女神ラステルと取引しただけだからね」

「その取引について伺っても?」

「いいよ。さっきのニンゲンの所在が代償で、対価は君への助力。つまりボク」

 

 ユウキがたまたま西方辺土に滞在していたのは僥倖だった。でなければたとえ竜の翼でも流石に間に合わなかっただろう。

 

「? 何故アサギ様をエラディアス様がお気になさるのですか?」

「だって御父母様(エラディアス)って御祖父様(クレアトール)のこと超大好きだし。ならクレアトールの“匂い”をプンプンさせた人間がいたら動くでしょ。流石に“本体”では来ないと思うけど……」

「えぇ……? いえ、ラステル様からもアサギ様のことは伺っていますが……」

 

 確かに竜神エラディアスは神話に謳われるほどのパパ大好きっ子(ファザコン)だが……まさか動いた理由って()()()

 アウレリアは呆れつつも戦慄した。竜神エラディアスは()()()()()()()()()()()()()()()()。その一挙手一投足が世界にどんな影響を及ぼすか……加えてエラディアスと同じくらいインパクトのある人物がもう一人ともなれば。

 

「ですが……やはり信じられません。創世紀から永くお隠れになった造化神クレアトール。この世界の創造主が《使徒》を遣わすなんて……」

 

 クレアトールの《使徒》。言うまでもなく浅葱(アサギ)常太郎を指す。

 そう、常太郎は本来この地上に存在しないはずの九番目の《使徒》と(本人が知らぬ間に)認定されていた。

 今もこの世界を統治する八大眷属神と違い、クレアトールが地上から退去して既に数千年の時が経っている。

 《使徒》であるアウレリアですら偉人、有力者の枠に留まるがクレアトールの《使徒》ともなればほとんど神話の住人だ。無理もない。尤も常太郎本人にその自覚は欠片もないだろうが。

 

「十中八九《瘴気》のことだろうねー。っていうかそれくらいしか思いつかない」

 

 現在世界中で頻発する《瘴気》災害の原因は分からない。解決策を模索する者はいるが、悪用を考える者も多い。長引く対立と戦乱に陣営を超えた協力が難しいのが現状だ。

 だがようやく掴んだ手がかりがある。

 

「アサギ様もあの黒騎士についてお尋ねになられました。やはりあの者こそが鍵……」

 

 与えられたもの以外に唯一彼から望んだ報酬。それこそがあの黒騎士の情報だった。その事実はアウレリアにあの怪人こそクロと確信させるのに十二分。

 とはいえアウレリア自身も知らないことなので答えようがない。

 あくまで推測と前置きした上で、推定《魔王》であること。恐らくは『混沌・悪(カオス・イービル)』の女神ノクティアの関係者であり、最近《西方深淵樹海ブロセリアンド》で頻発する魔獣・亜人族の異常行動(スタンピード)の原因と目されることを伝え――“ある約束”を交わした。

 

「……エラディアス様からはあの黒騎士について何か?」

「ぜーんぜん。御父母様(おとかーさま)って世界規模(マクロスケール)でしか物事を見ないから。竜脈を巡る《瘴気》は把握してても限界には遠いし犯人捜しなんて全然やる気がないよ」

「聞きしに勝る泰然自若さですね……」

 

 一縷の望みをかけた問いかけには脱力する答えが返ってきた。細かいことには拘らない性格とは言われるが予想以上だ。

 

「《瘴気》を危険視してる竜もいるけど全員めちゃくちゃ出不精のへそ曲がりだからな~。あんまり期待しないで」

 

 あっけらかんとした言葉だがつまり竜の助力は期待できないということだ。孤立無援すぎるとアウレリアは乾いた笑みを浮かべてため息を吐いた。

 あの黒騎士に対抗するためには幾らだって戦力が欲しいのだが……。

 

「ラステル様との神託もまた途切れてしまいましたし……やはり神格のどなたかが干渉しているとしか考えられません。先ほどはエラディアス様のご助力で一時的に解けたようですが……」

 

 本来なら《使徒》は《紋章》を通じて加護を与えた神格に見守られている。なのに女神(ラステル)から使徒(アウレリア)への神託が届かないのは別の神格による妨害のためだった。本来ならば異例のことだが、可能性としてはそれしかない。

 容疑者はラステルとエラディアスを除く六柱。最有力候補はやはり『混沌・悪』の女神ノクティアか。

 今のところ明るい材料は神託が通じている間にラステルによる調律(チューニング)が済み、いつでも《星灯の聖痕(アストレル)》の本領を発揮できることくらいか。

 とはいえ状況はまさに暗中模索と言っていい。

 

「敵の正体も何もかも分からないまま。前途多難ですね……」

「ま、ボクがいるしアサギの小父上(オジウエ)もいる。何とかなるんじゃない? 多分」

「だといいのですが……と、言いますかアサギの小父上(オジウエ)?」

御祖父様(クレアトール)の《使徒》なら続柄上そんな感じになるしねー。竜は意外とそこら辺に厳しいのだ!」

 

 曰く、世代(グレード)による“格”が竜種には存在するらしい。人間にはいまいち知られていない竜の生態にアウレリアは興味津々といった様子で聞き入る。

 ちなみにエラディアス直系かつ《使徒》として《聖痕》を授かったユウキの“格”は幼くも最上位。長じれば竜種の頂点へ成長するだろう可能性の塊だ。尤も本人からはエラディアスが都合よく使うための便利屋(パシリ)だと大変不評である。

 

「なるほど。“あの約束”もありますしアサギ様のご助力もアテにできるなら心強いというもの。とはいえいざという時に備えてもう一つ手を打っておきたいですね」

 

 そう言ってアウレリアは――笑った。太陽のように眩しい笑顔だった。ニッコニコである。ものすごく楽しそうだ。

 その無敵の笑顔が腹心の女騎士へと向けられる。ヴィキシーは思わずたじろぎ、身を引いた。

 

「お、お嬢様……?」

「以前御父様が言っていました。男は惚れた女のために命を張る生き物だと」

「なるほど……?」

 

 魔獣と亜人族。西方辺土を跋扈する脅威を捩じ伏せ続けた先代当主らしい言い草だとヴィキシーも思う。

 だがそれとこれが何の関係が……?

 

「己が徽章(誇り)を預けたくらいです。ヴィキシーがあの方を見初めたのではと勝手に思っていたのですが……?」

「それは……はい、頼り甲斐のある殿方だとは――」

「えっ? ()()()()()()()()()?」

 

 目を大きく見開き、手で口を覆うわざとらしい驚きの仕草。だが心当たりのあるヴィキシーはスッと目を逸らした。

 あの徽章はいわばヴィキシーの信用を担保にした()()()()()だ。預けるのはほとんど自身の心臓を差し出すに等しい。

 幾らでも悪用が可能であり、やろうと思えばヴィキシーのキャリアに致命的な傷を付けるのも容易だ。

 それだけの覚悟を込めて差し出した徽章を『武士』は左胸(しんぞう)の上に止めた。さらにヴィキシーと真っすぐに視線を合わせ、言葉は短くもしっかり感情を込めてこう言ったのだ――『丁重に扱う(大切にする)』と。

 これはもうほとんど告白成功も同然だろうと、処女(ポンコツ)騎士は誰に言うでもなく満足していた。

 要するにヴィキシーが『武士』へ向ける感情の矢印は――――滅茶苦茶重かった(クソデカヘビー級)

 

「……確かに、その……お強くて、ご立派な方ですが私は別に、特別な想いなど──」

 

 何言ってんだこいつ。

 耳まで真っ赤にして視線を横に逸らし、ボソボソと言い逃れようとするヴィキシーにアウレリアは笑顔のまま生暖かい視線を向けた。

 ある意味告白より()()真似をやらかしておいて今更言い訳などなんと騎士道に悖る醜態(カワイイ)か。

 これならばイケる。胸の奥から萌え出す得も言われぬ感情のうねりにアウレリアはグッとこぶしを握り締めた。

 

「大丈夫です、ヴィキシー。あなたならできる。私はいま確信しました」

「お嬢様? あの、お嬢様……?」

「――アウレリア・オクシダリスの名において命じます。アサギ様を篭絡するのです!」

 

 言葉だけは真面目な割にウキウキした気配を隠しもしないアウレリアに女騎士は戸惑いを隠せない。

 アサギとの()()()関係構築は最早オクシダリス辺境伯家を左右する重大任務と言っても過言ではあるまい。そしてそんな任は意欲と能力があり、信じられる適任者に任せるべきだ。

 つまりヴィキシーを後押しするのは為政者としての冷酷な判断であり、頼もしくも可愛い姉のような女騎士の不器用な恋愛模様を覗き見して楽しもうなどという品のない欲望では断じてないのだ!

 お嬢様の仮面を外したアウレリアは結構いい性格をしていた。




 次回から開拓前線都市編開始予定です。
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