暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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 投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
 開拓前線都市編、開幕です。


第十四話 ギルドの受付嬢

 開拓前線都市コロニエ・ノワテッラ。

 《西方深淵樹海ブロセリアンド》から湧き出す異種族・魔獣に対する人類圏の防壁として建造された城塞都市である。三重城壁に囲まれた堅固な都市には日々森に棲む異種族と剣を交え、魔獣を狩る冒険者達が集う。

 それは決して人類圏防衛の大義などではなく。

 腕っぷしさえあれば深淵樹海(ブロセリアンド)から湧き出す貴重な資源を無限と言えるほどに刈り取り、成り上がれるからに他ならない。無論、一歩間違えれば魔獣の胃袋に収まるのだが。

 一攫千金と死地が隣り合う野蛮人の聖地。それがコロニエ・ノワテッラという都市だ。

 

 ◆

 

 ギィィ――。

 たったいま開けた分厚く重い扉から軋む音が聞こえる。それが拒絶に感じたのは常太郎の錯覚だろう。

 だがジロジロ、ガヤガヤと向けられる視線と囁き声は錯覚ではなかった。

 

『見ねえ顔に…………なんだあの装備は?』

『……ヒョロイな。青瓢箪かよ。ここはプロセリアンドの目と鼻の先だぜ?』

『おっ、精算終わったか。ギルドも待たせやがる』

『……へへっ』

 

 常太郎の現代装備が目を引くのかまず最初は興味を。次いでその怯んだ気配を見て取り、露骨に見下す視線を向けたり逆に興味を失い視線を外すものが多い。

 が、中には玩具(オモチャ)を見つけたとばかりにニヤニヤと性悪そうに笑う大男まで。

 なんとも野蛮で暴力的でエネルギッシュな空気だった。一般人が場違いにもヤクザの事務所に足を踏み入れてしまったような据わりの悪さを感じた常太郎は無表情を保ちながら内心げんなりした。

 

(……流石は冒険者ギルド。ガラが悪い)

 

 賑やかな空間だった。昼間の陽光が大きな窓から差し込み、室内を明るく照らしている。

 正面のカウンターでは受付のスタッフが事務的に冒険者の依頼内容を確認している。淡々としたやり取りの中でしばしば「こっちが先だろ!」という声が響き、どこかで小さな衝突が起きているようだ。

 壁際では体格の良い男たちが肩を並べて行儀よく呼ばれるのを待ち……いや、大声で騒ぎながら酒瓶を煽っている連中の方が多い。お陰で凄まじい喧噪だ。

 そんな騒音の中でもはっきりと響くのは金属的なカチャカチャという高音。鉄剣、盾、鋲を打った靴が打ち合わされる音だ。

 

(? 降りかかる火の粉は払うだけだろう? 何か問題でも?)

(平和を愛する一般人としてはまず問題を起こしたくないんだよ)

 

 今の常太郎は《紋章》がある。現代日本のいた頃のままではない。

 とはいえ人間中身は早々変わらないものだ。ギルドのピリピリした雰囲気はゲームだけが取り柄の一般人の肌に合わなかった。用事を終えたらとっとと退散しよう、と常太郎は心に決める。

 

(さーてギルドへの登録はどこかね――)

(あっちじゃないか? 案内がある)

 

 ギルド内部をグルリと見渡せば武士が言う通り、『冒険者登録受付』と滲んだ文字で書かれたプレートがあった。

 そのプレートの下には真剣な顔で書類にペンを走らせている受付嬢、が――。

 

(デッッッッッッッ――――!?)

 

 思わず目を見開く。

 カウンターに広げた書類へ真剣に向き合っているお陰で受付嬢の姿勢は前かがみになっている。そこに()()()()()()()()()机の上にありがたいモノが載っていた。

 清楚な制服を押し上げるふわっとした焼き立てパンのような丸みと柔らかさを備えたふくらみ。無防備すぎるほどに豊かなのに優し気な雰囲気も相まってかなり内角高めにストライクだ。

 

「あっ――」

 

 近づく常太郎の足音で気づいたのか受付嬢は驚いた様子で顔を上げる。その拍子に、揺れた。

 常太郎は視線が強烈に吸い寄せられそうになるのを抑えつつ、なんとかキリッとした顔を保とうとした。成功したかどうかは……まあ受付嬢の困ったような、窘めるようなほんわかとした笑みを見れば結果は分かろうというものだが。

 

「冒険者ギルド、コロニエ・ノワテッラ支部へようこそ。当ギルド受付窓口のフィオナ・フィオーレです。冒険者登録をご希望ですか?」

 

 見た目に似合う耳に心地いいハニーボイスが常太郎を出迎える。ふわふわの金髪(ブロンドヘア)を背中に緩く流し、ほんのりと垂れた大きな瞳は柔らかな色合いの碧眼(ブルーアイズ)

 ほんわかとした笑みがまさに優しげなお姉さんといった風情の受付嬢――フィオナ・フィオーレは愛想良く言葉を紡いだ。

 

「あー、はい。今日は登録に。初めてなので手続きなどを教えてもらえると。それとこれが紹介状です」

「……かしこまりました。登録にはまずこちらの用紙に記入を。紹介状は後ほど確認しますね?」

 

 フィオナ・フィオーレと名乗った受付嬢は流石プロと言うべきか。常太郎の奇妙な見かけ(現代装備)にも軽く目を瞠るだけで事務的なビジネススマイルを崩さず言葉を返した。

 

「それと代読・代筆は可能ですが銅貨3枚を頂きます」

「なるほど……」

 

 そう言って常太郎は少し考え……懐から抜いた銅貨を”5枚”カウンターの上に置いた。計算が合わないのは敢えてだ。

 フィオナも小首を傾げ、銅貨を受け取ろうとした手を止めた。

 

「……こちらは?」

「読み書きはできるので代読・代筆はなしで。その代わり”色々”詳しく教えてもらっても?」

 

 要するに心付け(チップ)だ。賄賂(ワイロ)ではなく互いに気持ちよく仕事をするための潤滑材である。

 これの有り無しでスタッフの愛想とサービスが天地だと、外国旅行が趣味の友人から常太郎は聞いたことがある。言い換えるとチップを惜しんだせいで雑で適当な仕事をされたらしい。

 幸い懐は暖かい。小銭を惜しむ理由はなかった。

 

「――はい、確かに。それじゃあたくさん“サービス”、しちゃいますね?」

「え……」

 

 気のせいか、先ほどよりも自然体で茶目っ気溢れる笑顔を浮かべたフィオナは――ゆっくりと、首元まで閉じた制服のボタンを一つ、二つと外した。

 制服の隙間を開く指先の奥にミルクのようにシミ一つない真っ白な素肌が輝く。カウンターの銅貨を掴んだ細い指先が、制服の上からでも分かる豊かな谷間へ銅貨を一枚、また一枚と落としていった。

 

(お、おおぉぉ――――これはもう目を逸らす方が失礼まであるのでは? 俺氏無罪、閉廷!)

(色香で判断を誤らなければ構わんぞ。存分に見ろ)

 

 思わぬ“サービス”に本能を支配された常太郎が視線を向けたのはもう仕方がないと言うべきだろう。欲に流れそうな時は『武士(ストッパー)』がいるのだし。

 まともに仕事をしてくれれば上々くらいのノリで渡したチップだったので「儲けた」と思う程度のスケベ心は許してほしいところだ。

 ともあれすぐにその“サービス”も終わり、残るのはフィオナの営業スマイルのみ。とはいえ常太郎に悔いはなかった。良いモノを見たと内心で拝んでいるくらいだ。

 

「それでは登録用紙をどうぞ♪」

「あ、どもです」

 

 それからのフィオナは妖艶さを潜め、ひたすら愛想よく有能だった。心なしか先ほどより声が明るく距離が近いのはチップ効果だろうか。

 やや挙動不審気味な常太郎にも動じず、なめらかに案内を進める。登録用紙を差し出す時もスッと手際よく慣れた様子だ。

 常太郎は受け取った用紙に視線を落とした。

 

(おぉ……全然知らない文字なのに読めるし書ける。すごいな、適応(コンバート)

黒の碑石(オベリスク)の恩恵だったか。一般的な大陸西方共通語は問題ないらしいが、もっとマイナーな言語まで対応できるのか?)

 

 内心で『武士』と会話しながら渡された用紙へペンを走らせる。

 とはいえ記入項目は多くない。名前、他ギルドでの前歴、自分が持つ《紋章》くらいだ。驚くほど簡素な内容に乾いた()()()()()を感じる。

 

「ここの《紋章》記入欄って書く必要あります?」

 

 名前と前歴はそのまま書くだけだからいい。ただ、《紋章》は別だ。そのまま書けば妙な方向に悪目立ちしそうな変わった《紋章》ばかりなのだから。

 

「いーえ、書かなくても大丈夫です。でも登録すればギルドから《紋章》に適した依頼を斡旋できますから支障がないなら書いていた方がお得ですよ?」

 

 困った顔で忠告されたが、なるほど。

 つまり自己アピール欄という訳だ。確かに肉体に刻まれる《紋章》は身に着けた技能と違って確認が簡単で誤魔化すのが難しい。ギルドとしても顧客向けに保証しやすい能力証明なのだろう。

 

「ではなしで」

 

 元から自己アピールに不向きな《紋章》ばかりだ。特に気にせず空欄のまま用紙をフィオナへ渡した。

 

「――はい、確かに。これにてアサギ様の冒険者ギルドへの登録は完了です!」

 

 受け取った書類を一読し問題がないことを確認すると(とはいえ名前程度だが)おめでとうございます、とパチパチ小さく拍手された。どう答えるのが正解なのか迷っているうちに笑顔のフィオナが話を進めた。

 彼女が手に取るのは常太郎が最初に渡した紹介状だ。

 

「通常は最下級の鋼鉄級(アイアン)からスタートですがこの紹介状次第で多少は――()?」

「え?」

 

 フィオナは手際よく紹介状を開き、文面を確認――するやいなやその営業スマイルが固まり、奇妙な”間”が空く。

 何か紹介状に問題でもあったかと見ればフィオナの額に皺が寄っていた。

 

「――この家紋はヴェスペリア騎士家のもの。それにこれは……“あの”」

 

 真顔になったフィオナが紹介状に刻まれた紋章を指でなぞり、真剣な目を常太郎へ向ける。

 フィオナは紹介状の推薦者を精々中堅の商家程度を想定していたが、蓋を開けて見れば名門騎士家の筆頭騎士が飛び出した。加えてこの世界で貴族階級が使う紋章の偽造は死罪だ。

 

「……あの。この紹介状はどうやって手に入れたか聞いても?」

 

 恐る恐る問いかけるフィオナを疑問に思いつつ、常太郎は端的に回答する。羽織っていたタクティカルケープをズラして己が左胸を晒しながら。

 

「報酬の一つとして頂戴しました。”これ”と一緒に」

「~~~~ッ」

 

 常太郎が言う“徽章(これ)”を見たフィオナは目を見開き、喉奥からヒィ、ともヒェ、ともつかない掠れ声が漏れた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この開拓前線都市(コロニエ・ノワテッラ)でその意味は“重い”。色々な背景を読み取ったが故に驚きで目を白黒とさせるフィオナに常太郎達も流石に違和感を覚える。

 

(……どうも思った以上の()()()があるみたいだな?)

(そのようだ。高く買ってくれたとヴィキシーには感謝するべきかもしれんな)

(本当にそれだけなのかこれ……?)

 

 『武士』は呑気に答えているが、フィオナのリアクションが大袈裟すぎる。もしや思った以上にとんでもないものを貰ってしまったのでは……と訝る常太郎。

 2人が無言で会話する間にフィオナもなんとか立ち直ったのか乾いた半笑いを浮かべつつ、説明を続けた。

 

「おめでとうございまーす……推薦で昇格試験は免除されるので、鋼鉄級(アイアン)を飛び越えて青銅級(ブロンズ)からスタートですね。ちなみにこれは本当に稀な処置です……。あ、認識票(ライセンス)登録のために血を少々頂きますね……はい、結構です。すぐに認識票は発行できますからその間に手続きと説明を進めちゃいましょう」

 

 一旦奥に引っ込んでからそう言ったフィオナは冒険者ギルドの仕組みについて流暢に説明し始めた。

 ギルドが持つ機能を簡潔にまとめると以下の4つに集約する。

 

 ⓪信用と実績を基準にした等級付け

 ①依頼の仲介と斡旋

 ②討伐魔獣の有用部位の買取と基準価格の提示

 ③各種有料サービスの利用(預金制度、技能講習、図書室等)

 

 フィオナも慣れた説明を口にする内に緊張がほぐれたのか、またあのほんわかとした笑顔が戻って来ていた。

 

(大体冒険者ギルドと聞いてイメージした通りだな)

(……運営母体が国ではなく神なのは少し驚いたな。地方貴族と協力もするようだが……まあ国家を跨いだ組織を維持するならそれくらいのバックは必要か)

 

 この世界特有の背景もあったが、ギルドの仕組みの大体は想像の範囲に収まった。

 強く、頼り甲斐があり、請け負った仕事は必ず果たす。そんな人間が尊敬される、腕っぷしが頼りのアウトローの世界だ。そしてコロニエ・ノワテッラで裸一貫成り上がろうとするなら最も手っ取り早い手段でもある。

 

「――と、大まかな説明は以上となりますが何かご質問は?」

「参考として聞きたいんですが、特に近づかない方がいい危険地帯とかあったりします?」

 

 説明も終盤に差し掛かりそう振られ、常太郎が返した質問は新人らしく極めて真っ当なもの。

 問われたフィオナは少し悩みながら口を開いた。

 

「んー。この辺りはどこも難易度は高いですが、特に……となると」

 

 ギルドの受付嬢としての知識を総動員し、上から順番に3つほどリストアップ。

 机の引き出しから引っ張り出したコロニエ・ノワテッラ周辺の簡易マップをカウンターの上に広げた。

 

「まず開拓前線都市(コロニエ・ノワテッラ)水上交易都市(ラクスポリス)を繋ぐ東部平原を束ねる“ビッグダディ”、《鋼角猛牛》ギガスオーロック。これは絶対に手を出さないでください」

 

 まず都市の東に広がる広大な平原を指で叩く。

 巨大な群れを率い、“ビッグダディ”の異名を取る《鋼角猛牛(ギガスオーロック)》は刺激しなければ比較的無害だ。危険ではあるが、討伐優先度は低い。

 

「それと最近深淵樹海(ブロセリアンド)へ向かうルート付近で営巣を始めた第二級危険生物《刺突軍蜂》スラストホーネット。人肉を好む巨大蜂の群れです」

 

 次いで指はコロニエ・ノワテッラを飛び越えて西の大森林へ。樹海へ続く小街道のあたりを大雑把になぞっている。

 人肉を好むというくだりでひくりと嫌そうに顔を引き攣らせた常太郎の反応は極めて真っ当だ。こちらは逆に優先的に討伐準備が進んでいる程度には危険かつ有害な害蟲である。数を揃えれば対処できる分《復讐の女王蜘蛛(アラケネ・マドゥルガ)》よりは大分マシだが。

 

「迷い込むことはまずないとは思いますが、南の廃鉱山には《山喰虫竜》マインイーターが巣食っています。巣持ちの亜竜種でも特に危険な個体です」

 

 最後に南の×印が刻まれた街を示すアイコンを叩く。

 活気のあった鉱山街を廃坑に追い込んだ地虫(ワーム)である。金属質で頑強な甲殻、坑道を埋め尽くし拡張する巨大な顎、のたうつ巨体に秘められたパワー。単純な強さも厄介だが、それ以上に地下に潜り待ち伏せを好む隠密性が厄介だ。一度地に潜られれば対処は困難。地の利を完全に取られている。

 

「この中だと……スラストホーネットが特に注意ですかね? 確か《紋章》は……」

「《毒針(ヴェノムスティング)》、《噴射(ジェット)》、《軍隊指令(コマンドリンク)》の3つですね。極めて攻撃的で最低でも縄張りの外に出るまで執念深く追い回されます。運が悪いとそのまま彼らのエサになるので……本当に危険です」

(普通の蜂の話だが、仕留めた獲物を引き千切って肉団子に加工するらしいな。しぶとい獲物は麻痺毒で弱らせてからそうするらしいが)

(なあ『武士』。その情報今必要だったか???)

 

 フィオナの顔が暗い。()()()()()実例を見聞きしたことがあるのかもしれない。

 強力な麻痺毒を蓄えた《毒針(ヴェノムスティング)》持ちの巨大蜂集団が女王の《軍隊指令(コマンドリンク)》の統率の下、《噴射(ジェット)》で鉄砲玉よろしくカッ飛んでくるという凶悪すぎる集団戦術を駆使する害虫である。

 しかも人肉を好むとあっては優先駆除も妥当すぎる。絶滅してしまえ、と常太郎はささやかな呪詛を送った。

 

「しばらく樹海へのアタックは避けた方がいいかもです。大丈夫、巣の位置が割れれば誰か腕利きがすぐに仕留めるはずですから!」

 

 それまでの辛抱ですよ、と励ますように明るく笑うフィオナ。常太郎は対照的に地図を見ながら考え込んでいる。

 

「腕利き……例えば“調査隊”に参加するような?」

「ふふっ、“調査隊”の皆さんは多分もっと大物を追ってると思いますよ? 多分昇格目当ての銀級(シルバー)が狙うんじゃないかな?」

 

 “調査隊”。正式名称はブロセリアンド大深部調査隊。

 人類踏破領域が僅か1%とも謳われる《西方深淵樹海ブロセリアンド》の未知を紐解くべく開拓前線都市コロニエ・ノワテッラの精鋭を集めた大規模合同調査隊だ。

 数年に一度、領主の肝いりで結成されては樹海奥地へ分け入り、凶悪な災厄と戦い莫大な恩恵を持ち帰るこの街の冒険者達の憧れ。

 

「確か深淵樹海(ブロセリアンド)大深部の“調査隊”参加資格は最低でも黄金級(ゴールド)からでしたっけ?」

「はい! 正確にはパーティリーダーが黄金級(ゴールド)であることですけど。この開拓前線都市ですら8人しかいない有名人ばっかりなんですよ!」

 

 “深淵渡り”とも呼ばれる冒険者の上澄み中の上澄み。都市の有名人である彼らを誇らしげにそう語るフィオナ。

 黄金級(ゴールド)。事実上の在野最優。これより上は当代最強格の白金級(プラチナ)か、伝説に名を刻む真銀級(ミスリル)しか存在しない。

 

(となると黄金級(ゴールド)への昇格がこの都市での達成目標か。お貴族様(アウレリア)め、中々無茶を言うな?)

(別の黄金級(ゴールド)のパーティに潜り込むのもありっちゃありだが……いや、行動の自由度がめっちゃ下がるな。俺達自身が昇格するのが一番か……面倒くせぇ! あと絶対変に目立つだろこれ!?)

(諦めろ。俺達に目立たない選択肢を取る余裕はない)

 

 頭を抱えながら精神世界で『武士』と会話しつつ、この街で目指すべき当面の目標が決まった。

 その後の手続きはほとんどなく、個人識別用の認識票(ライセンス)を渡されてその日は終了となった。

 登録は完了したが、依頼を受けるための内部処理が済んでおらず、動き出すのは明日からだ。

 

「今日はありがとうございました。それじゃ」

 

 さようなら、と別れの挨拶を告げようとする常太郎の言葉を遮り、フィオナが先んじて告げた。

 

「またのお越しを――と、ご挨拶する前に最後の“サービス”です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それでは改めて、またのお越しをお待ちしております。良き冒険を」

 

 そう言って頭を下げるフィオナは淑やかで誠実さに満ちていた。

 その意味を測りかねつつも無理に聞くのも違う気がした常太郎は大人しくギルドから退散しようと正面の入り口へと歩き出す。

 相変わらず野蛮なくらいにエネルギッシュな空間。とはいえ接触を避ければ揉め事なぞ早々起きるはずもなくすぐにギルド正面の出入り口に辿り着く――。

 

 ガスンッ!

 

 物を蹴り上げる音。ニヤニヤという笑み。周囲からの視線が常太郎”達”のもとへ集まった。

 そこにいたのは巨漢の男。

 扉の枠に背を預け、反対側の枠へ伸ばした足が横一文字に出入り口を塞いでいた。ギルドと外を繋ぐ正面入り口に陣取った巨漢がその長い足で()()()()を仕掛けたのだ。

 

「ヘッ」

 

 そのニヤニヤとした笑みが記憶に引っかかり、思い出す。常太郎がギルドに入ってきた時、嫌に粘ついた視線を向けていた大男だった。




 2025/07/21 改稿しました。
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