暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第十八話 どこにでもいるありふれた冒険者

 開拓前線都市コロニエ・ノワテッラの東部にはプレーリア平原と呼ばれる大草原が広がっている。

 牛系、兎系、狼系など比較的小型で群れを作るモンスターの楽園であり、コロニエ・ノワテッラから東部の人類領域へ向かうにはこの危険地帯を横断せねばならない。

 とはいえ対策もちゃんとしている。

 プレーリア平原を東西に横断する街道、草原の道(ステップロード)を大きく広く整備し、一定距離でモンスター避けのアイテムを設置。さらに治安維持の一環として街道周辺のモンスター駆除を常設依頼として冒険者ギルドに貼り出している。

 街道周辺に出現するモンスターは比較的弱い個体が多く、駆け出し冒険者が食い繋ぐための貴重な糧となっていた。

 そして今日も街道は駆け出し冒険者達がそこここに往来し、賑わい……いや、賑わいとは別の騒ぎが発生していた。

 

「見たか、アレ……鋼鉄張りの大盾、か?」

「スゲーいい出来だな。スゲーけど……いややっぱダセーだろ。ないわ」

「大物狙いならともかく草原であのデカブツは臆病すぎっしょ」

 

 すれ違う駆け出し冒険者達が困惑とうっすらとした侮蔑を浮かべて振り返り、二度見する1人の異邦人がいる。表面が黒光りする大型の(シールド)を左手に構えた浅葱常太郎だ。

 盾の大きさは1メートルほどか。屈めば身体全部を盾で隠せそうな大型サイズだ。

 

「……変な見かけだな。盾に、鉈は分かるけど……背負ってるのはクロスボウ? えらく変な形だな」

「小鬼を斬るに大剣使うなって言うだろに。あんなのが必要な大物、ここらじゃ出てこないよな?」

「牛を狩るなら欲しいけど……あの人1人だしなぁ」

 

 駆け出し冒険者達が言うことはある程度正しい。

 常太郎が持つのは銃弾をも防げる程に頑強な代わり重量15キログラムはある防弾盾(バリスティックシールド)。その重量感を分かりやすく表現するなら1個5キロの米袋が3つも左腕に乗っかっていると思えば近い。

 軍隊が馬車に乗せて運び、戦場でだけ使うような運用ならともかく日常使いするにはあまりに重すぎるのだ。

 

「って、街道から外れるの? マジ?」

「……どうする? 一応忠告しておくか?」

「止めとけ。どうせ正午になる前にはバテて戻ってくるさ。まともに動ける重さじゃねえよ」

 

 街道は人間の縄張りであると平原の魔獣達は記憶している。故に好んで街道に近づく魔獣はいない。言い換えれば街道を少し外れるだけで魔獣が()()()()湧いてくる。

 ましてや通常の装備でも十分ウェイトがあるのに追加で5キロの米袋3つ分を抱えて1日中動き回るなど……。

 駆け出し冒険者達が顔色を変えるのも無理はなかった――ただしそれは()()()()()()()()()()()()()()

 

 ◆

 

 街道から外れ、人目からも外れ、重すぎる大盾を構えたまま歩くこと半時間。

 小高い丘の上に立った常太郎はサブウェポンの鉈を除く装備を外し、軽く伸びをした。

 小休止だ。

 

「意外と、というか全然疲れないな。体感的には空のリュックを背負って歩いてるのと変わらない。ざっくり25~30キロは背負ってるのに」

 

 コロニエ・ノワテッラからここまでかれこれ十数キロメートル。子ども1人分の重量(ウェイト)を背負って歩き回ったというのに足裏の痛みや息切れが微塵もない。なんなら今からフル装備でコロニエ・ノワテッラまでランニングだってできそうだ。

 体力テストも兼ねてフル装備しての野外行軍だったが、常太郎の予想以上……いや、()()な好成績を叩きだしていた。

 

(《紋章》無しでこれか。やはり俺達の身体は相当に強化されているようだな)

「あの《復讐の女王蜘蛛(アラケネ・マドゥルガ)》を倒したのが効いたかな?」

(あるいは《生態兵装(セルレギオン)》で()()()()()()()()()()()方か……?)

「……頼むからそっちは思い出させないでくれ。夢に出そうなんだ」

 

 眉をへの字に曲げながら常太郎がボヤく。

 RPG-7の直撃を受けて砕けた《復讐の女王蜘蛛(アラケネ・マドゥルガ)》の甲殻から肉片を引っぺがしては片っ端から口に入れ、青い体液で口を汚す『武士(自分)』という、悪夢めいた光景が脳裏に浮かび上がる。

 

(何を言う。《生態兵装(セルレギオン)》の燃費は控えめに言って極悪だぞ。あそこで熱量(カロリー)を補給しなければ最悪飢え死にしていた)

「そりゃ分かってるけどさ……」

 

 強力かつ万能多芸な《生態兵装(セルレギオン)》だが、副作用の激痛以外にも燃費が極めて悪いという弱点に気付いたのは《復讐の女王蜘蛛(アラケネ・マドゥルガ)》討伐後である。

 急激な虚脱感と異常なまでの空腹感に襲われたまさにその時、目の前には女王蜘蛛が遺した大量の肉片。蜘蛛を食べる文化は地球にもあり、さらに大概の毒を無効化する《生態兵装(セルレギオン)》。

 選択肢はなかった。

 《生態兵装(セルレギオン)》で賦活した消化吸収能力で大量のエネルギーとタンパク質を補給しつつ、結局そのほとんどを恐ろしい勢いで喰い尽くしたのだ。

 常太郎が異常とも思える身体能力の上昇を自覚したのはその後である。

 

(怪我の功名だな。食えば食うほど強くなるのか、それとも条件付きの強化なのか。検証が必要だ)

「まあ、異論はないよ。ただし、ゲテモノ食いは無しだ。ここは譲れないぞ、いいな?」

 

 異様にしつこく釘を刺す常太郎。中々のトラウマを刻みつけられたらしい。

 

(なら丁度いいな。今日狙う予定の《発条脚兎》ジャッカロープは現代基準でも立派な食材だぞ。ナニを食っているか分からんところはやや欠点だが)

「『武士』ぃ……お前ホント余計な一言が多いよな」

 

 《発条脚兎》ジャッカロープはプレーリア平原に多数生息する兎型の魔獣だ。

 額に生えた鋭い角と《跳躍(ジャンプ)》の《紋章》を組み合わせた猛スピードの突進は急所を捉えれば草原の覇権種族、《鋼角猛牛》すらも刺し殺す。愛らしい見かけとは裏腹に非常に好戦的。しかも肉食だ。

 丈長の草陰に潜み、自分の何倍も大きな魔獣や人間にも躊躇なく奇襲を仕掛ける草原の殺し屋(ヒットマン)である。

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