暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
街道から外れた圏外領域でのジャッカロープ狩りを終え、常太郎に人格を戻して幾ばくか経ち……。
「大猟だな……これどうしようか? 全部は持ち帰れないし……流石に殺し過ぎたな」
草原に積み上がった大量のジャッカロープの亡骸を前で途方に暮れた顔をする常太郎がいた。
血臭が凄いし、量も凄い。血肉と骨のピラミッドだ。
少し歩くだけで次から次へと襲い掛かってくるジャッカロープ。あまりに景気のよい入れ食い状態なものだから最後はほとんどモグラ叩き感覚でやりすぎてしまった。
本来なら駆け出し冒険者には殺し屋と忌み嫌われる魔獣なのだが相手が悪かったとしか言いようがない。
なお本人は日本人特有のもったいない精神を発揮して何とか使い道を考えているところだったりする。現地冒険者とは色んな意味でノリが違った。
(討伐証明部位は角だけだ。首だけ落として持ち帰れ)
「兎の生首数十個をギルドのカウンターで転がせと?」
カウンターにゴロリと並んだ生首が、焦点の合わない濁った瞳を向けてきて――。
想像すると大分ホラーな光景だ。多分
(知ったことか。文句をつけるなら自分の仕事をしろと言ってやれ)
「……せめて雑嚢か何かで包もう。うん、そうしよう」
『武士』の心無い正論に常太郎は抗弁を諦め、善後策を講じる方に頭を回し始めた。それと血臭を抑えるための工夫も考えねばなるまい……。
「残りの首から下は……」
(俺が
そう言う『武士』の意識が手にぶら下げた最後の獲物に向かっていることに気付き、視線を向ける。
最後に仕留めたジャッカロープの後脚にはまだ《
「――これが、《紋章核》」
(ドロップ率は1%以下とあった。この程度の数で
通常、魔獣や人が持つ《紋章》は死ねばその輝きを失い消え去る。だがごく稀に死んでも亡骸で刻まれたまま輝き続ける《紋章》を
そうした《紋章》の遺物は《紋章核》と呼ばれ、現地で《
「――なおここまでギルドの図書室で読んだ知識」
(藪から棒にどうした?)
現代世界と比べればはるかに制限が多い有料図書室だったが、それでも貴重な知識と気付きを幾つも常太郎に与えてくれた。
「いや、なんでも――それよりメシにするか。腹も減ったしな!」
が、今はより優先することがある。
本格稼働よりはマシだが相変わらずクソ燃費の《
幸い見ての通り肉だけは唸るほどもある。下処理をしていないのがちょっと怖いが、《
仕留めた獲物の山から直近30分で仕留めた新鮮な3羽のジャッカロープを抜き取ると常太郎は早速準備を始める。
心なしかそのテンションは高い。
太陽の下で焚火を熾し、仕留めた獲物の肉を焙り、脂滴る肉に食らいつく――現代なら猟師になるかゲームの仮想体験でもなければ得られない、なんとも原始的でワクワクする体験が常太郎を待っているのだ。
◆
結論から先に言おう。
童心に返った常太郎のワクワク焚火チャレンジは失敗した。
失敗の原因は身も蓋もなく言ってしまえば準備不足と指導役の不在に尽きる。
肉を焼くための火が欲しい。
そう判断してフリント式の
だが使う常太郎はいかんせんキャンプ経験がロクにない素人だ。火を熾して大きくするのは簡単なようで実は結構コツが要る。
(俺は手伝わんぞ。というか、手伝えん)
頼みの『武士』も戦闘分野に特化した弊害が出た。
元々『食えればいい』派の『武士』は火熾しなどのサバイバル系技能を一旦放り投げ、戦闘を優先してスキルツリーを伸ばしている。『武士』の知識・技能のベースは結局『浅葱常太郎』なので、事前学習していなければ主人格と大して変わりがないのだ。
元々ジビエ肉は血抜きを始めとした下処理が悪いと途端に味が落ちてしまう。
焚火を優先してそちらを疎かにした結果が、いま常太郎がモソモソと不味そうに齧っている黒く焦げていたり微妙に半生状態の兎肉だ。噛み締めると獣臭さと血生臭さが口いっぱいに広がる野性味溢れる味わいである。
それでも《生態兵装》で消した分のカロリー補給のため大量に食べなければならない。常太郎は半分拷問気分で口を動かしていた。
「マッズ……」
(言っておくが俺は食わんぞ。残飯処理までは引き受けかねる)
「分かってるよちくしょー……」
飯の不味さを無視するという技能を持つ『武士』だが別に好き好んでマズ飯を食いたい訳ではない。食べるなら美味い方がいいし、管轄外のことでババを引きたくないと思う程度の自立心はある。
そして常太郎もそれを尊重した。『武士』もまた『浅葱常太郎』なのだ。“頼る”ことはあっても“使う”のは、違うだろう。
(火熾し程度のサバイバル技能はいずれ俺が習得予定だが……いっそ現地の
「俺の知識って割とミリタリーやサバゲー方向に偏ってるからなぁ。流石にゼロから構築するのは車輪の再発明にも程があるか」
(いずれにせよ調理は俺の管轄外だがな)
学習・分析用に特化した人格『博士』によって爆速の
それを踏まえたフォローを投げつつも無情な一線を引く『武士』に常太郎は頷きつつも深刻な顔だった。《生態兵装》を運用する以上大量の栄養補給が必須となる。となると『美味しい食事』は地味に重要なのだ。
「……流石に調理専用の
(今のところ《
「成長すれば追加で『枠』ができるらしいけど……どの道1人で全部賄うのは無理があるな」
習得するか、他所から引っ張ってくるのか。どんな方法にせよ冒険者としてやっていくための技能が今の常太郎にはすっぽりと抜けている。
それらを含むこの先必要となる技能全てにいちいち
となれば合理的な解決策は一つだ。問題は心情的な面である。
(やっぱり仲間が必要だな……こういう時って自分から声をかけないとダメかな? ダメなんだろうなー……あぁぁぁ)
“欲しい”ではなく“必要”。ソロ気質で1人気楽に目標へ打ち込んでいる方が好みという常太郎の性格がよく現れている。
心の中で頭を抱えているが深刻度の度合いはさっきより重めである。
交渉や会話といった上っ面のやり取りなら無難にこなせるが、談話や懇親などの『人と深く付き合う』スキルツリーが貧弱なのだ。はっきり言って友達が多い小学生にも劣るコミュ力しか持たない。戦闘力はたったの5だ。ゴミめ。
なお冒険者にとって
「……うん、まあ、もしかしたら誰かから声をかけられるかもしれないし。街に戻ってから考えよう」
果てしなく都合のいいことを考えながら問題を棚上げする常太郎。
『武士』はそうか……? と内心で首をひねったが、自身の対人能力が
「そ、それよりも人目がないここで例の実験を済ませよう。予想が当たれば多分ものすごく面白いことになるぞ」
都合の悪い話題から意識を逸らす目的だったが、面白いと言ったのは真実なようで常太郎の口元は笑みの形に歪んでいる。弄りがいのある玩具を前にしたギークさながらの、やや気持ち悪い笑みだ。
取り出したのは《
常太郎達は自身が持つ《紋章》の新たな可能性に挑もうとしていた。