暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第二十三話 解体屋のブライ

 冒険者ギルドの奥まった位置にある個室。表の受付では話せない話題を取り扱うためのスペースだ。

 その一室に、常太郎とフィオナと、もう1人がテーブルを囲み顔を合わせていた。

 

「――はじめましてやね。ウチはブライゆう(もん)や! よろしゅう頼んまっせ!」

 

 猿めいた顔立ち。小柄。浅黒く日に焼けた肌。背中の片手剣に革の胸当て。手足に手甲脚絆の類。装備は軽装傾向。

 声は明るく、腰は低く。顔には陽気な笑み。どこか窺うような視線。冒険者と言うより愛想のいい商人か、あるいは腕のいい詐欺師じみた雰囲気だ。

 が、常太郎達からするとそんなことよりも気になるのが一つ。

 

(……大分エセ臭いが関西弁だと? 異世界に日本があるとでも?)

(ンなまさか。ある訳ないだろ)

 

 心の内で『武士』と会話しつつ、ブライと名乗った男を思わずしげしげと見てしまう。

 浅黒い肌や彫りの浅い顔立ちもこれまでに出会った人達とはまた違う人種的特徴を感じさせる。

 

「ん? ああ。()()訛りが気になるんやったら堪忍願いますぅ。クセやねん。こればっかりはようけ治らへん」

 

 常太郎の視線が気になったのか、軽く肩を竦めてその独特の訛りについて語るブライ。

 必ずしも的を射た返事ではなかったが、南方訛りという一言で常太郎達が抱いていた疑問が氷解する。

 

(分かった)

(何がだ?)

(これ、関西弁に聞こえてるだけの方言なんだよ。適応(コンバート)を覚えてるだろ。この世界の大陸西方共通語が日本の標準語に聞こえるように、別の地方の訛りが入った分関西弁っぽく聞こえてるんだ。多分)

 

 『異世界における関西弁相当の方言』と言えばいいのか。

 関西弁そのものではなくあくまで()()()()()()()()()()()()、というのが恐らく正しい理解だろう。

 そうと分かれば男本人のプロフィールにも興味が湧いてくる。

 

「南方……ここ以外でも冒険者を? おっと、アサギです。よろしく」

「おー、よろしゅう頼んまっせアサギはん。でな、ワイは南の『帝国』ではダンジョンの案内人(シェルパ)をやらせてもろてましたんや。ご存知でっしゃろ、《南方封鎖迷宮ラブリュス》。まぁ、あっちもこっちも大概魔境ですけどな。向こうとは水が合わしまへんで、ちょいと河岸を変えてこっちの方に来さしてもろたんですわ。ほしたらですな!? こっちには案内人(シェルパ)がおらんゆうて聞いて、ほんまにびっくりしましたで。まあ似たような解体屋(ブッチャー)いうんがあるみたいやからそっちへ転身って訳ですわ。ワイは腕っぷし以外やったら、まぁまぁ自信ありますさかい――」

 

 ペラペラと舌を回し続けるブライ。正直興味深いワードが次々出てくるのでじっくり深掘って聞いてみたい部分もあるのだが、いかんせん無駄に話が冗長というかノイズが多い。

 胡散臭いという第一印象を補強するような長広舌だ。

 常太郎以外のもう一人……その場に立ち会ったフィオナも同じことを思ったのか困ったような笑顔のまま硬直している。これはアレだ、長話に辟易しつつ相手を刺激しないように話を中断する機を窺っている気配だ。

 社畜時代もまあ無駄に話が長い輩がいて、そういうのは決まってお偉いさんだったので常太郎も苦労したものだ。異世界(ところ)変わっても人間模様はそう変わらないらしいと、一方通行な共感をフィオナに抱く常太郎である。

 

(……うん)

 

 常太郎1人なら長話に付き合うのもやぶさかではないが、困っている人がいるなら助け船を出すのが人情だろう。

 パン、と手を叩き場の注目を集める。

 

「――ブライさん、ひとまず自己紹介も済んだし話を進めても?」

「おっとこら失礼。それと呼び捨てで結構でっせ」

「いや、これは素なので。このままでお願いします」

「ほう? そら随分とお行儀のいい――いや、何でもおまへん。ワイは育ちがあんまりよろしくのうてですな、これでもう精一杯なんですわ。どないか堪忍したってください」

 

 一瞬、奇妙な“間”を挟んだ後、片手を立てお茶目な仕草で軽く謝るブライ。

 

(……何か妙な誤解をされてるような)

(構わんだろう。どれだけ付き合うのかも分からん相手だ)

(それもそうか)

 

 ともかく話は纏まった。チラリと促すようにフィオナを見る。

 視線を送られたフィオナもハッとなってから慌てて笑顔を浮かべ、口を開いた。

 

「は、はい。それではお二人に改めて今回の仲介(マッチング)についてご説明させていただきます」

 

 フィオナが言う通り2人を引き合わせたのは冒険者ギルドだ。徒党(パーティ)の結成を希望する冒険者同士のマッチングもギルドが持つ役割の一つである故に。

 

「アサギ様、こちらはブライ様。東部平原と樹海浅層で主に活動する解体専門の青銅級(ブロンズ)で、これまでに組んだ他の冒険者からは大変評判がいい方です!」

 

 そう太鼓判を押し、豊かな大山脈を突き出して胸を張るフィオナ。何が言わないがふよん、ほよんと揺れる。視線が思わずそこに向いたのは男の愛嬌と免じてほしいところだ。

 

「紹介おおきに! 手前、不遜ながら解体屋(ブッチャー)の中では中々腕利きやと自負しとります。どうぞ、今後ともご贔屓に頼んまっせ!」

 

 一方紹介されたブライも視線がフィオナの方へ揺れつつ、何とか常太郎を向いて威勢よく挨拶を告げた。

 うん、途中で揺れた視線の意味は大いに分かる。男だもの。

 

「ブライ様。こちらは青銅級(ブロンズ)のアサギ様。この街に来たばかりですが、既にジャッカロープを多数狩猟した実績があります。ただし、狩った後の解体周りはまだ経験が少ないようで、そこをブライ様に埋めてもらえればと」

「面目ない。ただ、腕っぷしにはそこそこ自信があります」

「はい。ギルドとしてもアサギ様には大いに期待しています!」

 

 再びの太鼓判。良い仲介(マッチング)をやり遂げたという自負があるのだろう。フフンと得意げな顔のフィオナは自信ありげに胸を張った。ふよん、ほよん。

 抗いがたい魅惑に視線が吸い寄せられ、鼻の下が伸びた顔のブライに気付く。多分、向こうも似たようなモノが見えているのではないか。

 アレは仕方ないよな。ああ、しゃーないな。思わず頷き合う。何となくだがブライとは仲良くなれそうな気がする常太郎だった。

 そんな男にしか分からないやり取りに首を傾げるフィオナだが、気を取り直して話を続ける。

 

「ではお二人の顔合わせを以ちましてギルドの仲介業務は完了といたします。この部屋は引き続き使用可能なので、以降はお二人で――」

 

 そう告げて席を立とうとするフィオナに常太郎も頷く。

 ギルドは冒険者同士の仲介を務めるが、逆に言うとそれ以上は干渉しない。例えばメンバー間での報酬交渉や、揉めた時の仲裁までは範疇外となる。ここら辺の線引きは結構シビアだ。実際問題徒党内のトラブルにまでいちいち首を突っ込んでいては人手がいくらあっても足りないということだろうが。

 が、そこにブライが待ったをかける。

 

「おっとすいまへんなぁフィオナはん。もーちょっとだけワイらに付き合うてくれまへんか? 少しだけ! この通り!」

「え、えぇ~……」

 

 と、両手を合わせて頭を下げるブライに困ったような声を上げるフィオナ。

 仕事が終わったと一息吐いたところでブライに頼み込まれたのだ。困惑を露にしている。

 

「そう言われましてももう私にできるようなことは――」

「うんにゃ。フィオナはんが責任取らなあかんようなことは、一切せんで結構ですわ。ただな、ワイやアサギはんの質問に客観的な立場で答えてもろたらそれでええんです。ほんま、それだけや。な? なっ? この通り!」

 

 と、テーブルの上に額を突いて頭を下げるブライ。そこまでされては、とフィオナも渋々ながら頷いた。

 

「……あの、あくまで参考意見程度ですよ? 後から何か言われても困ります」

「おおきに! あとからご迷惑おかけするようなことはありまへん、ワイの神さんに誓いますわ!」

 

 そう言って大袈裟に頭を下げるブライ。愛嬌のある仕草にフィオナが仕方ないなあと軽くため息を吐いて再び椅子に腰を下ろした。

 その後もペコペコと頭を下げていたブライだが……顔を上げた瞬間に気付く。

 

『――――』

 

 顔つきが違う。

 目付きが違う。

 空気が、違った。

 

「アサギはん……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 別人のように顔を引き締め、眦を鋭くしたブライがそう言った。

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