暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!   作:土ノ子

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第二十四話 ブラフ/事実/交渉

「アサギはん、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 開幕早々の右ストレート。そんなイメージを伴う強烈な言葉でブライとの交渉は幕を開けた。

 

「警戒? 誰が?」

同業者(ボウケンシャ)。特にワイらみたいな有象無象は大騒ぎですな。銀級(シルバー)以上は落ち着いとりますが……。話題はもっぱらアサギはんが何者かというところで」

「……それは何故? 俺みたいなのはどこにでもいるんじゃ?」

 

 ここは開拓前線都市。腕っぷし一つで成り上がれる土地であり、腕自慢がわんさか集まってくるはずだ。

 

「そらまぁ、ここは野蛮人の聖地ですさかいな。氏素性の知れん輩なんかいくらでも湧いてきますわ。せやけどアサギはんはその中でもだいぶ毛色がちゃいますやろ?」

「違いますか」

「ちゃいますなぁ」

「具体的には?」

「得体が知れないのに滅茶苦茶強い。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ブライから限りなくスンッとした顔で怖いと言われた。

 いや、そんなに真顔にならなくても……。

 

「怖いですかね?」

「怖いですなぁ。誤解なさらんといてください。短い時間でもアサギはんが懐の深いお人柄なんは分かります。解体屋風情がこんな口叩けば普通やったらとっくに喧嘩沙汰ですわ」

 

 そうは言いつつ腕を組んで言葉に迷うように首を傾げるブライ。

 

「だからっちゅーか……アサギはんがどんなお方なんか、さっぱり読めまへん。この辺りやとまず見かけへん装備やし」

 

 そう言って、チラリ。

 確かに異世界(コスモ・リブラ)で1人現代装備を着込めば異彩を放つという他ない。モン○ンの集会所に見かけ軍人が紛れ込んでいれば周囲から二度見されるだろう。

 

「これまで見てきた冒険者とも、傭兵とも、騎士様ともちゃう。ワイが嗅いだことのない匂いや」

「……まあ、そのどれとも縁はないですが」

 

 纏う気配の質を直感的に嗅ぎ分けているのか。その嗅覚は正しい。浅葱常太郎は敢えて言うならゲーマーであり、勝つためなら割となんでもやる類の合理主義者(マンチキン)だ。

 

「冒険者には見えへん。傭兵にも見えへん。騎士様にも見えへん――ほな、何者やっちゅう話になりますわな」

「重要で?」

「重要ですな。冒険者でも傭兵でも騎士でもちょっと世慣れとったら付き合い方っちゅうもんは分かるんですわ。()()()()()()()()()()()()()()()――その程度の付き合い方は」

(そうか……そういうことか)

(おい、1人で納得するな。説明しろ)

(聞いてりゃ分かる)

 

 異文化コミュニケーションって難しい。今更ながら常太郎はそんな言葉を痛感していた。

 分かっていたつもりだがここは異世界。グローバルスタンダードなんて言葉が市民権を持つ現代社会とは常識と価値観が全く異なるのだ。

 

「冒険者や傭兵は金さえ積めば手打ちにできますわ。騎士様も面子立てて頭下げたらよっぽどのことせん限り何とかなるもんです。せやけど――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 そこが読めないから怖いとブライは言う。

 ちなみに食べ物を粗末にしたらマジギレし、連絡もなしに遅刻したら機嫌が悪くなり、入った店でいつまで経ってもお冷が出てこないとモヤッとした気分になるのは日本人だけだ。正確には外国人も多少は似た反応を見せるが日本人ほど過剰ではない。

 逆に大半の現代人は座る席や挨拶の順番一つで戦争が起きる中世の世情を理解できまい。フィクションではない、実話だ。*1

 命が軽い上に面子重視でキレやすい輩の多い異世界(コスモ・リブラ)では些細なことでも殺し合いのキッカケに十分だ。

 

(わざわざ俺達みたいな異邦人(ストレンジャー)に関わりたがる奴は少数派、と)

(なるほどな……)

 

 沈黙の中で『武士』と会話する常太郎の様子をどう受け取ったのか、慎重な口ぶりでブライが話を続けた。

 

「冒険者や傭兵が生き残る第一原則は、()()()()()()()()()()()ことですねん……分かりますやろ?」

(俺がそのヤバい奴ってことですね分かります。そうか、異世界側から見たら俺って何をしでかすか分からんDQNなのか……)

(しかも腕っぷしがある分余計にタチが悪いお墨付きだな)

 

 意味深な目配せの意味を過不足なく受け取り、あちゃーと天を仰ぐ常太郎。なまじブライの言葉を理解できる理性があるだけ納得してしまっていた。

 

(……しかし、得体が知れないと言う割に踏み込んでくるな)

(多分抑止力があるからじゃないか?)

(抑止力?)

()()()()()()。最低限の損得勘定ができるなら受付嬢(ギルド)の目の前で下手に手は出せないし)

 

 ブライを敵に回せても、ギルドは敵に回せない。

 何やら不穏な雲行きにハワワと慌てている様子のフィオナであっても受付嬢(ギルド)の目がある以上、下手にキレてもキレた方が不利になるだけだ。ブライに非があればともかく今のところ常識の範疇内の言葉を選んでいる。余程の地雷を踏み抜かなければ、この場の交渉に限ってだが穏便に済ませられると見ているのだ。

 退室するフィオナを呼び止めた本当の狙いはこっちだろう。慎重な立ち回りが言動の端々から感じられる。

 

「まあとにかくアサギはんにはそういう評判が出回ってるんですわ。フィオナはんもこの仲介を成立させるのに苦労したんやないかな?」

 

 と、ブライが話と視線をフィオナへ向けてキラーパス。自然と視線がフィオナへ向いた。

 

「えっ!? ……えーとそのぅ、まあ――」

 

 ここで私っ!? と肩を跳ねさせ曖昧な愛想笑いを浮かべるフィオナ。

 笑顔のまま沈黙を保っていたが、2人の視線が動かないと知ると肩を落として白状した。

 

「…………そういう向きは、はい、正直あります。だからブライさんがこの仲介(マッチング)に頷いてくれた時は本当にありがたかったんですけど」

 

 今は違うと言いたげに恨みがましそうな目でブライを見ていた。安牌と思って仲介したら想像しない方向で掻き回されたのだから無理もない。

 

「なっはっはっ! スンマヘンなぁ、フィオナはん。堪忍、堪忍。この通り!」

 

 片手で手刀を切っての軽い謝罪で済ますブライ。普段はほわほわとした雰囲気のフィオナも流石に険しい目だが、図太い笑みを崩していないあたり実にいい性格をしている。

 

「――で、ブライさんは結局何を言いたい訳で?」

 

 まさかわざわざ常太郎を怒らせるリスクを背負ってまで親切な説明をしてくれた訳ではあるまいと、やや皮肉を利かせて聞いてみれば。

 

「そりゃあもちろん――()()()()()()!」

 

 返ってきたのはニカリと、悪童めいた稚気を感じさせるふてぶてしい笑み。そして再び視線がフィオナの方へ向く。

 

「フィオナはん。解体屋(ブッチャー)の報酬相場は大体儲けの1割。評判が良い解体屋なら2割。逆に駆け出しなら5()……ってとこで合ってますやろか?」

「……はい、それくらいが相場かと」

「ちゅうわけでこれがざっくりした基準ですわ。ただしリスク込みやと報酬はだいぶ跳ね上がりますさかいな。深淵樹海の奥まで潜るんやったら解体屋でも相当な報酬もろてますわ」

 

 話の流れからブライの言いたいことが分かるだけに苦笑いが隠せない常太郎である。

 

「なるほど。俺自身がそのリスクだと?」

「ま、ワイの口からはちょいと言いづらいですが……」

 

 今更ながらに言葉を濁すブライに思わず苦笑いだ。言いたい放題言っておいて言いづらいも何もあるまいに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。いや、見事にしてやられたって気分だよ俺は)

 

 要するに報酬の釣り上げ。奇襲じみた一言から始まった交渉(ネゴシエート)だ。

 言葉通りしてやられた形の常太郎だが、存外機嫌は悪くない。

 仮想体験(ゲーム)であっても野良パーティを組んでの報酬交渉は初めてではないし、最後でもない。厚顔無恥で押しが強いだけのクレクレ君は大嫌いだが、硬軟織り交ぜた強かな交渉ができる相手と話すのは意外と楽しいものだ。互いに手札を切り合うカードゲームに少し似ている。今は向こうの初手からの大攻勢で押され気味といったところか。

 ようやく状況を把握した脳味噌にスイッチが入り、思考が走り始める。その頬は心なしか楽し気に歪んでいた。

 

「OK。それであなたの腕を買うためのお値段は?」

 

 でもお高いんでしょう?

 心の中でそう副音声を付けながらの問いかけ。そしてブライから返ってきた回答は――実際お高かった。

 

「――5():()5()!」

 

 その図太いまでに明るい笑みのまま、ブライが完全な報酬山分け(フィフティフィフティ)で己を売り込んだ。

 ピェッ、と締め殺される小鳥のような掠れ声がフィオナの喉から漏れる。最早一触即発。いつ言葉ではなく手が出るのかと戦々恐々としている。

 

「誤解されたくないからはっきり言うときますわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。実際問題、他の解体屋(ブッチャー)を見つけるのは中々大変やと思いますで? 腕がいいなら尚更や。他にお得意様抱えとる場合も多いですからな」

「フィオナさん?」

「…………事実です。もちろんブライさんと組まないことも可能ですが、次の仲介(マッチング)を組むには少し時間をもらうことになるかと」

 

 ふた呼吸ほど間を置き、観念したようにため息を吐いて認めるフィオナ。中立的な立場である彼女が言うならそうなのだろう。

 

「なるほど……ありがとうございます」

 

 こんな状況では言いづらかっただろうに正直に答えてくれた彼女へ向けて軽く頭を下げる。フィオナが驚きで目を瞬かせた。その様子をさらにブライも見ていたが……図太い笑みを浮かべたまま話を続ける。

 

「ただし、損はさせまへん! いま会うて話してはっきり分かりましたわ。アサギはんは信じられんくらい懐の深いお方や。評判通りやったら腕前も相当なもんやし、そういうお人はちょいとキッカケさえあればつまらん誤解なんかすぐに解けるもんや。名前も顔も、すぐにこの街で売れ出しますやろ――どうでっしゃろ? ワイにそのお手伝いをさせてもらえまへんやろか」

 

 常太郎を煽てつつ、そのキッカケに自分を使えと主張する。売り込みと煽てを両立させる見事なセールストークだが、意外な程不快ではなかった。

 

(『武士』、どう思う?)

(信じていいとは全く思わんが()()()()()()()()()()()()()。俺はそう見た)

 

 それは多分ここまでのやり取りでブライの言葉からは嘘や誤魔化しの気配を感じなかったからだ。少なくとも戦闘用人格として虚実を見分ける観察力を磨く『武士』がそう保証する程度には。

 

「ワイに儲けの半分払うてもお釣りが来るくらいには稼いでみせまっせ。ヒヒヒ、ラブリュスの案内人(シェルパ)は銭勘定が大得意やねん。阿漕に稼いだるでぇ」

 

 頭の中で算盤を弾いているのか欲の皮を突っ張らせた顔で笑うブライ。中々の悪党面。だがそれくらいの方が頼もしい。

 

「もちろん5:5(ここ)からの交渉も受け付けとりますで? 互いに出せる手札(モン)を出し合って、エエ取引にしたいと思てますねん。これはホンマの話やさかい、信じてくれたら助かりますわ」

 

 一転して笑顔を収め、誠実な響きを込めた言葉とともにジッとこちらを見つめてくる目力の強さ。その眼光に嘘はないように思えた。

 その雰囲気は荒くれた冒険者よりも誠実な商売人に近い。それも結構なやり手の。

 解体屋(ブッチャー)は冒険者のなり損ないと悪し様に罵る者もいるという。だがブライを見ていればそれが間違いだと分かるだろう。彼は腕っぷしではなくそのしたたかさで生き抜いてきたひとかどの冒険者なのだ。

 

(で、どうする? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。流石にこれをそのまま丸呑みするのはありえんと俺にも分かるぞ)

(いや……)

 

 『武士』の言うことは正しい。

 これまで向こうが語ってきた要素を踏まえても相当な高値で売り付けられている。向こうの申し出に乗って値下げ交渉を続けるのが色々な意味で丸いのだろうが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 とりあえずテーブルをまとめてひっくり返すところから始めよう。

 

「――分かりました。報酬は山分け(5:5)でいきましょう」

 

 『武士』の忠告を無視し、敢えて向こうの提示した報酬にYesと頷く。そのままブライへ向けて我ながら胡散臭いほどに満面の笑みを向ける。

 が、何故かその笑みを真正面から受けたブライの顔が引き攣っていた。

 おかしいな、これはそちらが言い出した条件だろう? それとも――()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………………」

 

 もうどうにでもなーれ☆

 完全な巻き込まれ交渉(ジコ)の傍らで、引き攣り笑いを浮かべたままお手上げ状態のフィオナだけが場違いだった。

 

*1
https://en.wikipedia.org/wiki/Goslar_Precedence_Dispute




 自営業(ボウケンシャ)やるなら腕っぷしだけじゃ務まらないよ、というお話。
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