【書籍化します】暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ! 作:土ノ子
長らく更新が止まってしまい、申し訳ありません。
あとがきに、本作に関するお知らせと、今後のWEB版について記載しました。
どうか最後までお読みいただけると幸いです。
第一話 少女と仔犬と殺し合い
呆、と意識が揺蕩っている。
ベッドから身体を起こす直前の、とろとろととりとめのない意識が流れるあの心地いい感覚。
「――きろ。起きろ!」
そのまどろみにノイズが挟まれる。
「――いい加減目ぇ覚まさんと死ぬぞ、主にワイが!?」
ぶん殴られるような大声に耳から脳天を貫かれ、目が覚める。いいや、思い出す。
いまこの場で行われているのは
(緊急事態だ、代わるぞ)
(任せた、『武士』)
主導権を『武士』に切り替える。昏倒する前は奇襲されてその暇もなかったのだ。
『武士』は倒れた時に口に入った泥を吐き捨てながら立ち上がり、周囲を見渡す。すぐに視界に入ったブライは……明らかに腰が引けた様子で襲撃者と相対していた。
「しぶといな。仕留めたと思えばヌルリと手の中から逃げていく。泥魚かお前は」
その姿は……驚くべきことに華奢な少女だ。艶めいた黒髪と赤の虹彩、肉の薄い身体つき、整った細面は可憐でさえある。だが好戦的な笑みから溢れた鋭い八重歯に警戒を示すようにピンと立った獣耳は少女が戦う者だと無言の内に告げていた。
手こずらされているというのにむしろ面白そうに少女は笑った。獲物を狙う豹のような冷たい笑みだった。華奢な見かけに反して放つ気配は剣客・ジルヴェの研ぎ澄まされた剣気に近い。
「あ、あのー……ワイなんて雑魚は構わずほら、あっちにちょうちょがおりまっせ? き、キレイやなー!」
「詰まらないことを言うな。ティアの爪を三手捌ける奴はそういない。もっと楽しませてくれ」
冷や汗を浮かべて無理やり舌を回すブライを少女は完全にロックオンしていた。ブライの喉から絞殺される寸前の鶏めいた悲鳴がか細く漏れた。
見掛けなど一切頓着せず、地を這い回ってでも逃げ回ったのだろう。ブライはの全身は泥に塗れてドロドロ、身体には幾つも切り傷が付いている。
だが生きている。その事実に常太郎と『武士』は素直に驚いた。少女は強い、言っては何だがブライ程度が対抗できる相手ではないのだ。
「では行くぞ? 死に物狂いに逃げ惑え」
「やーめーてぇー!? かよわい野郎に乱暴しないでぇー!?」
絹を裂くような野太い悲鳴が
『武士』は
「それ以上はやらせんが?」
一切の容赦なく
その銃口から吹き荒れるのは華奢な少女の矮躯などあっさりと臓物の零れる血袋へ変える暴力の嵐だ。
「む……またけったいな代物を持ち出したな」
それを少女は鋭いステップを小刻みに刻み、踊るように身を翻して弾丸を躱していく。偶然ではない。明らかに銃弾が描く軌道を見て取ってその範囲外に己を置いている。
人間離れした動体視力か、はたまた何らかの《紋章》か。サブマシンガンの
デタラメな光景に『武士』は即座に銃撃は牽制だと割り切った。とにかく大量に銃弾をバラ撒いて近づかせない、その一点に注力する。
「ふん。けったいだが見るべきものはないな」
常太郎へ向き直った少女は轟然と爆発するような勢いの踏み込みとともに加速。
恐ろしく速い。だが真正面から一直線に突っ込む軌道は何の工夫もなく、『武士』は容易に銃弾をその鼻先に運んだ。
「影よ――」
ボソリとした呟きとともに真っ黒な
音速を超える弾丸の群れは残らず黒の
「デタラメだな――!」
原理は不明だがまっとうな物理攻撃が意味を成していない。手持ちの最大火力すら無効化される可能性は十分あった。ただでさえ高い警戒レベルが跳ね上がる。
とはいえやることに変わりはない。あくまで冷静に銃撃を継続。チラリと背後を確認し、バックステップで距離を稼ぎつつだ。
「ハハハッ! ヌルい応手だ。どうした、
吹き付ける熱風のような殺気を飛ばす少女。極めて明快で分かりやすく、それでいて筋違いな敵意だ。
「濡れ衣だマヌケ。笑う暇があるなら泣いて詫びる準備をしておけ」
「ならば証明してみろ。
まさに狼の如く地に低く伏せた四足体勢での疾走。人ならぬ獣の身ごなしで叩きだした神速で少女は『武士』の懐へ潜り込んだ。
「ふっ――!」
そして滑らかに四足から二足へと切り替え、伸びやかに立ち上がる勢いに合わせて左拳を横殴り!
咄嗟にサブマシンガンを身体との間に挟み込んで盾とするが、あっさりと特殊鋼製の銃身が「く」の字にへし曲がる。軋るような金属の悲鳴が耳をつんざいた。
へし曲がった銃身越しに叩き込まれた衝撃が肩から全身へ雷のように突き抜ける。最近顕著に筋肉が付いてきた成人男性の肉体がパンチ一発で吹き飛んだ。正確にはその勢いに逆らわずむしろ流れに乗って拳打の威力を透かし、『武士』は敢えてゴロゴロと転がって距離を取った。
とはいえ打たれた肩は熱を持ち、絶え間なく痛む。
(とんでもない馬鹿力だな。単純な
(マジかよ。
ただの殴打で銃身をへし曲げ人を吹っ飛ばすとはなんという怪力か。
『武士』と常太郎が戦慄を込めて言葉を交わす。魔獣すら素手で撲殺可能な『武士』を超える膂力、尋常ではない。
「殺すつもりで打ったが……頑丈だな。うん、思ったよりは面白いぞ? 褒めてやる」
「俺は面白くない。無益で疲れるだけだ。阿呆らしい」
「そう言うな。ティアと遊べる奴は貴重なのだ。うん、気が変わった。いま頭を下げて詫びるなら子分にしてやってもいいぞ?」
「お断りだ」
おもちゃを見つけた幼児の如き笑みを浮かべてのお誘いを、『武士』は冷たく一蹴した。
「「――――……」」
警戒と興味、敵意を複雑にブレンドした視線を互いに交わし合う『武士』と少女。
ますます張り詰めていく空気の中、
「ワンッ!」
と、咎めるように鳴く仔犬の鳴き声が場違いに響いた。
両者が視線を向けた先には全身が真っ黒な体毛に覆われた仔狼。強い輝きを秘めた目で争い合う2人を見詰めていた。
「「下がってろ、チビ」」
彼らが殺し合っている原因であり、ある意味全ての元凶。だがどちらもこのチビ狼に情を移している。
『武士』も仔狼を気遣う台詞を投げたことに気付き、少女は首を傾げる。だがすぐに微かな戸惑いは消え、戦意が復活する。事情があるにしろぶちのめしてから聞き出せばいいとでも結論したのだろう。
(膂力と《紋章》は脅威だが動きそのものは恐ろしく粗削りだ。これは――いや、それよりも対策が必要だ。何でもいいからアイデアを出せ、常太郎)
(お前時々サラッと無茶ぶりするよな……思いつくまでとにかく時間を稼げ)
(了解した)
短く頷いた『武士』は再度生み出したサブマシンガンを構えた。
少女の動きが
(さぁて、ここからどう巻き返すかね?)
そして一方の常太郎もまた事態打開のヒントを求めて何故こんなことになったのかと、これまでの経緯を思い返していた。
■あとがき
まず、嬉しいお知らせです。
本作『暴力耐性ゼロの社畜ゲーマーが喰うか喰われるかの異世界で生きていける訳ないだろ!』は、オーバーラップ様より2026年7月に書籍として刊行予定です!
初めての書籍化です。
ここまで来られたのは、WEB版を読んでくださった皆様、感想や応援をくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
続いて、今後のWEB版についてのお知らせです。
書籍化にあたり、去年からずっと書籍化作業に取り組んでいました。
その中で、ストーリー・キャラクター・構成・戦闘描写などを大きく見直し、書籍版はWEB版からほぼ全面的に再構築した内容となっています。
そのため、WEB版の通常更新をこのまま続けることが難しくなりました。
長くお待たせしたうえで、このようなお知らせとなり申し訳ありません。
ただ、以前WEB版の続きを想定して書いていた未公開分が、今回の話を含めて合計5話ほどあります。
こちらは、WEB版の区切りとして順次公開させていただきます。
物語としては未完の形となってしまいますが、この5話をもってWEB版は一区切りとさせていただきます。
一方で、書籍版は単なる加筆修正版ではありません。
WEB版を原型にしつつ、物語・キャラクター・戦闘描写を大幅に組み直した、ほぼ新しい『暴ゼロ』になっています。
最大の変更点は、黒騎士をはじめ、ヴィキシー、アウレリア、ユウキなど、WEB版前半に登場した主要キャラクターを大きく掘り下げたことです。
WEB版を読んでくださった方にも、新鮮な気持ちで楽しんでいただける内容を目指しました。
書籍に関する詳細は、活動報告にまとめています。
また、今後新しい情報が出ましたら、Xや活動報告でもお知らせしていきます。
■活動報告
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=340659&uid=5429
■オーバーラップ広報室 【6月刊(6月20日発売)】表紙と一緒に新刊情報をお届け♪ 7月刊の先取り情報も☆
https://blog.over-lap.co.jp/shoei_2606/
よろしければ、そちらもご確認ください。
長くお待たせしてしまいましたが、ここまで応援してくださった皆様のおかげで、書籍という形までたどり着くことができました。
書籍版として大幅再構築された『暴ゼロ』も、手に取っていただけると嬉しいです。